新人プロジェクトマネージャーから見た未踏
久しぶりに投稿したこの記事は、未踏のアドベントカレンダー2021の12日目のものです。
2018年よりプロジェクトマネージャーを担当させていただいている田中です。
せっかくなので、私の未踏との関わりや、私が見てきた未踏、そして未踏の魅力について紹介したいと思います。
私が未踏のことを知ったのは、実に20年以上前のことで、ちょうど未踏が始まってすぐくらいの頃だったと思います。
18歳でさくらインターネットを起業し、20歳で高専を卒業して、受託開発をしないと食べていけない時に出会ったのが、未踏の募集でした。
結論から言うと、申請資料を用意できず断念したのですが、その時に応募しようとしていたのがL3ネットワーク上でL2ネットワークを構築し、インターネットの上にイーサーネットを仮想的に作るソフトウェアをオープンソースで実装するというものでした。
当時、さくらインターネットは東京と大阪にデータセンターを持っていたのですが、お金がなくて東阪間の専用線代が払えず、別々のASで動いていました。
ただ、どうしても同じLANのセグメントに置かねばならないと言うシステムがあり、セグメントどころかASまで跨いでL2ネットワークを接続する必要があり、その時に専用線を弾くのではなくソフトウェアで解決すると言う手法をとったものです。
確か、BPF(Berkeley Packet Filter)を使って仮想的なインターフェースを作り、そのインターフェースを離れたマシン間で繋ぐというものでした。
ARPを腹の底から理解することができたし、パケットの大きさやフラグメントがネットワークの転送効率に影響すると言うこともわかったり、そもそもmemcpyがどれだけシステムにとって負荷があるのかと言うことも実地で体験できました。
このシステムは個人で開発していて、会社とは別でオープンソースにしたかったのですが、登さんがもっとすごいものを未踏で実装していたので、ある意味採択されなくてよかった黒歴史なのかもしれないと思ったりもします。
さて、前置きが長くなったのですが、未踏がすごいと思ったのは、会社ではなく個人を支援してくれるというスキームです。
私は、いまソフトウェア協会(昔のパソ協/CSAJ)という業界団体の筆頭副会長をしているのですが、多くのIT団体が経済産業省をはじめとした霞ヶ関の機関からお金をもらって、活動をしています。
それ自体は何ら批判されるものではないと思いますが、Σプロジェクトや第五世代コンピューターといった、多くの税金をつぎ込みながらも上手くいかなかったプロジェクトが山のように存在するのも事実です。
私の勝手な見方で言うと、多くのプロジェクトがソフトウェア的でない、いわゆる製造業的な考え方の延長線上であったことが原因であろうと思っており、いまだに続く「ソフトウェアが生み出した価値ではなく、それを作るためにかけられた時間に対価を払っている」という、IT業界全般における矛盾にもつながっているように思います。
もちろん、これらのプロジェクトは上手くいかなかった、と言うだけで片付けていいものではなく、ソフトウェアエンジニアの会社を超えたつながりを作ったり、コミュニティの重要性を知らしめたりしたと言う意味では、重要な成果を残したのだろうと思います。
そう言う意味で、「会社や業界ではなく、人が重要である」「会社に閉じるのではなくコミュニティが大切」「ソフトウェアは作るためにかけた時間ではなく、使う人に対する価値そのものが評価基準である」といった、とても大切なことを気づかせてくれたのだろうと思っています。
そんな中で始まったのがミレニアムプロジェクトとしての未踏でした。
会社や業界団体にお金を注ぎ込んだところで、よく分からないものを作ってくるだけ、と言うこともあり、コミュニティやそこにいる人自身を支援しようと言う趣旨で、人やチームに直接お金を出したいと通商産業省が動いたと言うところだそうです。
未踏の面白いのは、とにかく「その人がやりたいことをやる」「そしてその人にソフトウェアの技術力がある」と言うところです。
私は、キックオフミーティングにあたる「ブースト会議」において、いつも「みなさんは、やるべきことではなく、やりたいことで選ばれています。できれば完成させて欲しいが、やりたいことを精一杯やれるなら完成にこだわらなくてもいいし、小さく収まるのじゃなく挑戦してほしい」と言うお話をします。
日本(と言うキーワードがビッグワードなのは理解しておりますが)は、とにかく同調圧力が強くて窮屈だし、自分の人生を歩みにくい国のように感じます。
そんな中でも、世の中の多くの成し遂げられた物事は、誰かのやりたいという強い内発的努力が周りにフォロワーを作り、実現していったものだろうと思います。
なので、やりたいことを持った人を徹底的に応援して、金銭的な支援もして、時には相談相手になり、成功へ導いていくと言うのは、世の中に新しいことを生み出す大切な行動だと思っています。
ちなみに、私自身は個人でエンジェル投資を30社ほどさせて頂いていて、これもまさしくやりたいことを持った人への応援・支援です。
ただ、エンジェル出資がアントレプレナーシップ(起業)から来ているのに対して、未踏がテクノロジーから来ていることもあって、起点は別々のものです。
その上で、落合さんにしても、登さんにしても、そのほか多くの起業をされた未踏卒業生のみなさんを見ていると、やりたいことがある人が「テクノロジー」と「アントレプレナーシップ」そして「資金」を獲得していると、本当に物事の成功が近いなと感じます。
このような背景もあり、テクノロジーで選抜されたやりたいことのある人たちと一緒に過ごさせていただけることは、自分自身にとっても得られるものが大きいなと感じています。
なお、ここでは起業という話にフォーカスしましたが、素晴らしい研究者になった方や、企業におられる方など、多くの未踏卒業生の皆さんが活躍していて、若い時に国のお金でやりたいことを思う存分やらせてみる、ということの重要性を改めて感じます。
さて、ここまで未踏のお話をさせていただきましたが、来年度2022年度も未踏人材発掘育成事業は続きます。
我こそはという25歳未満の皆さんや、そのお友達、親御さんなど、ぜひ未踏のページを見てみてください。
やりたいことがある、テクノロジーに対して造形のある若者が、未踏期間を通じて大きく花開かせることを、私も全力でサポートします。
https://www.ipa.go.jp/jinzai/mitou/2022/koubo_index.html
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