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Essay

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鳴海邦彦が思いつくままに、そして気ままに綴るフリーエッセー。
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2023年10月の記事一覧

エッセー 「至高のすき焼きを食らう」

 すっかり寒くなったのですき焼きなんぞ。  といってもただのすき焼きではない。葉山牛のすき焼きである。  葉山牛は短角黒毛和牛の但馬牛の血統を引く国産牛で、葉山と横須賀のごく一部で飼育・生産され、その年間生産量は極めて少ない。そのためそのほとんどが地産地消されるため東京にはほとんど出回らない幻のブランド牛である。  東京で葉山牛を扱う高級レストランや料亭では、ステーキで100gで6,000円~10,000円、すき焼きやしゃぶしゃぶだとやはり同じく一人前5,000円~10

エッセー 「なぜドリフトなのか? 」

よくラリードライバーのドリフトとドリフト屋さんのドリフトと何が違うのかと質問されるが、ハッキリ言ってまったく違う。 簡単に言えば「ラリードライバーにとってドリフトは手段であって目的ではないが、ドリフト屋さんはドリフトするのが目的」ということ。 つまり、ラリードライバーにとってのドリフトは、コンマ一秒を詰めるために必要なテクニックの一つであり、ドリフトすること自体が目的ではない。故に、ドリフトさせる必要がないコーナーなどはひたすらグリップで走ります。その方がロスがなく速いか

再生

エッセー「三菱GTO 雪上試乗会の想い出」

 参加型モータースポーツ専門誌Speed Mindの副編集長時代、北海道 美瑛町の白金温泉をベースに行われた三菱自動車と横浜ゴムの雪上合同試乗会で三菱GTOをドライブした。  白金温泉のホテルパークヒルズに隣接する白金ゴルフ倶楽部(現在は閉鎖)に臨時で作られた圧雪路の特設コースで様々な三菱車をとっかえ引っ変えテストドライブした。その中で最も印象深かったのが総重量1.7トン、横幅1800mmオーバーのグラマラスな巨大を誇る三菱4WDスポーツの旗艦 GTOが、雪上で極めて安定した操縦安定性と、その巨体からは想像できないほど俊敏で素直なコーナリング特性を見せたことだった。  これは、当時三菱が推し進めていた「オールホイールコントロール」コンセプトにより採用された4WDシステムと、高度な制御を行う電子デバイスとの相乗効果が有効に機能していたのが最も大きな要因と思われる。加えて総重量1.7トンというグラマラスな巨体も、低μ路での接地面圧を高めるのに有効な垂直荷重の増大に寄与しているのも要因のひとつとして挙げられるだろう。  そしてなにより忘れてはならないのが横浜ゴムのスタッドレスタイヤ "ガーデックス"の存在である。装着されたニューイヤーモデルは、極低温でも硬化しないスペシャルコンパウンドのヴァージョンアップはもちろんのこと、サイプデザインの変更、タイヤそのもののケーシング構造の見直しといったきめ細かい改良が施され、前年モデルをはるかに凌ぐトラクション性能とブレーキ性能を見せつけた。  ニューイヤーモデルのガーデックスが、GTOに限らずハイパワー4WDマシンから一般車両に至るまで、個々のマシンが秘めたポテンシャルをフルに引き出すのには最適且つ強力なウィンターウェポンであるということを実感した試乗会だった。

ショートエッセー 「ヘンリーアフリカ」

 六本木のバー "ヘンリーアフリカ "、1970年代から80年代、冷戦からデタント(緊張緩和)にかけて、ここはまさ日本を拠点に活動する東西スパイの社交場であった。  赤坂 (アメリカ大使館)、狸穴(ソビエト大使館)、麻布(フランス大使館)、広尾(西ドイツ大使館)の各国大使館付武官の肩書きを持った諜報員達が各々腹に一物秘めながら、表面上は飽くまでも和やかに酒を酌み交わす光景は、スパイ天国 日本を象徴する光景だった。  フレデリック•フォーサイスに触発され、複雑に国益が絡み合