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11.國部龍太郎 その人とvol.5 -勝負の刻-

先週分の更新が遅れ、前回から期間が空くことなく今回の更新となってしまったので前置きは無し。




1.運動部に入るクリア
2.既にモテてるやつを見つけるクリア
3.人を好きになる

彼は放課後になるとすぐに帰ってしまうので、昼休みのチャイムが鳴り、お弁当を取り出したのを見計らって僕はT君の机の前に立った。

「おっす!T君さ、バスケ興味ある?」

同級生に自分から興味を持って話しかけるなんて、4年目にして初めてのことだったから、緊張のあまり若干声は上ずっていたかもしれない。
少なくともめちゃくちゃに噛んでしまったのを覚えている。


「バスケ?好きやでー」

T君はいつもクラスメイトに振り撒いている屈託の無い笑顔で答えた。
相変わらず笑顔が素敵なイカした奴だぜ。そりゃモテるわ!
が、T君の表情にはどこか不安げな様子もあった。
名前を知っているような知らないような奴から、突然声をかけられたのだから当然だろう。

「ホンマに?T君背も高いし、もし興味あれば一緒にバスケやらへん?」

とりあえず話題を作って仲良くなることに必死だった僕は、「バスケ部への勧誘」という唯一の切り札をまず初めに使った。
なんだそういうことか、と安心した様子のT君。

「部活ってことやんな?うーん...それはええかな。俺ただでさえ、べぇ〜と違って勉強できへんから、部活もやるとなったら絶対両立できへんわ。ごめんな。」

T君は本当に申し訳ないといった感じで両手を顔の前で合わせて答えた。
相変わらず誰に対しても丁寧で優しい奴だぜ。そりゃモテるわ!
ちなみに、僕は幼い頃から今でも、苗字の最後の文字を取って「べぇ〜」と呼ばれることが多い。

「いやいや謝らんとって。前から一緒にバスケできたらええなって思ってて、軽く誘ってみただけやから。」
「そうなんやーありがとう。バスケ部楽しい?」
「楽しい...かな。周り経験者ばっかりやから大変やけど。一緒にご飯食べよか。」

なんとか自然な流れで会話をスタートさせることに成功した僕は、その日から毎日T君と一緒に昼食を食べるようになった。
学校にいる間は誰とも群れずに一匹狼のT君だったが、そのどこか近寄り難いオーラは周りが勝手に感じていただけで、僕が毎日当たり前のように机を合わせていっても嫌な顔一つせず受け入れてくれた。




はじめ2人の会話の内容はひたすら僕からT君への質疑応答だった。
好きな音楽、好きな漫画、好きな小説、好きな映画、好きな食べ物、好きな女性有名人など、世の全ての高校生が話してそうな他愛無いテーマばかりだったが、T君への興味が止まらない僕はただひたすらに質問しまくった。

好きな音楽は?
 色々聞くけど、強いて挙げるならスピッツやなー
へぇー何の曲が好きなの?
 一番好きなのは『青い車』
どこが好きなの?
 歌詞が良いから。
なんで好きなの?
 うーん...ちょっと怖い歌詞なんだけど、それを爽やかなメロディーに乗せてるところかな。
いつから好きなの?
 親父の影響で小さい頃から聞かされててん。

といった具合に質問の嵐。
とりあえずこの人のことを知りたい!底の底まで知りたい!
と思った人に対する僕の質問癖はこの時からかもしれない。

今思い返すと嫌われても仕方ないと思うくらいに距離の詰め方が激しかっただろうに、彼はいつも楽しそうに答えてくれた。
そして僕からの質問の嵐がひと段落すると、決まって同じ質問を僕に返してくれるのだ。


もう!!!好きだぜ!そりゃモテるわ!!!


T君にとって、僕と仲良くすることは一見何のメリットも無いように思えるが、後ほど本人から聞いて分かるのだが実は大いにあったらしい。
当時僕は学校の中で「(素性はよく分からないけど)勉強ができる奴」として知らぬ間に名が知れていた。
実際に、1学年300人以上いた中学時代の3年間、テストの成績が学年でトップ3から漏れたことがなかったし、成績優秀者として名前が掲示板で張り出されていたものだから、少なからず有名な存在だったのだ。

あらかたお互いの自己紹介が済むと、T君は僕に勉強の仕方を聞いてきた。
僕は、そんなことで良ければ、と喜んで自分流の勉強の方法を教えたのだが、T君はその話を聞く度に分かりやすく感心した様子で、終いにはノートまで取りだした。
(当時の勉強の方法はまた改めて書こうと思う)




そんな日々が1ヶ月ほど過ぎたある日の放課後、今度はT君が僕の机までやってきた。

「べぇ〜今日部活?一緒に遊ばへん?」

昼休みだけの関係だった僕とT君。
その1ヶ月間昼休み以外で会話をすることはなかったから、話しかけられた僕はビックリしたし、その関係をぶち壊したT君の声もどこか緊張していた。




キタ――(゚∀゚)――!!


ついに念願のお誘いがかかったのである。
この日を迎えるまで、T君との関係を構築するのに半年は覚悟していたから、そのスピード感に振り落とされそうになりながらも、僕は必死に冷静を装った。

「ん?部活?今日は休みやで。遊ぼっか。何するん?」

勿論その日も部活だったが、当たり前のように部活はサボった。


勝負の日は突然やって来る。
僕は、なんで今日に限って頬にデカめのニキビができてるんだろうとか、なんで今日に限って鬼太郎のような寝癖のまま来てしまったのだろうとか、色々なことを悔やんだ。
だがそれ以上に、今日の出来によって自分の高校生活の全てが決まるという予想に気を引き締めた。

「べぇ〜今彼女いるん?」

あなたはカレー好きですか?」くらいの普通の感じでT君は尋ねた。

「彼女?今はおらんな(勿論いたことはない)。なんで?」

今更彼女どころか女友達もいたことがないことがバレても関係無いと思っているのに、息を吐くように見栄と嘘が出てくる。
1ヶ月前T君に話しかけた理由がバレないように、必死に取り繕う自分が客観的に怖くもあったが、その下心がバレたら連れて行ってくれないかもという焦りが僕の罪悪感を綺麗さっぱりかき消した。

「それなら良かった。実はな、隣駅の喫茶店でO女学院の子らと定期的に会って遊んでんねん。今日集まるから一緒に行かん?」

おとり捜査で潜入した刑事がついに闇組織の存在を突き止めた時の感覚はきっとこんな感じだろう。
ついにやったぞ。犯人(彼女)を絶対に捕まえてやる。
覚悟を決めた僕は力強く頷いた。




学校の最寄駅から一駅歩いたその先にあったのは、レトロな雰囲気の喫茶店『モンブラン』。
中には麻雀のアーケードゲームが楽しめる卓があったり、昭和の家具やシャンデリアで演出された、いわゆる「純喫茶」という言葉がピッタリの喫茶店だ。

T君は慣れた手つきで扉を開け、まだ誰も来ていないことを確認すると、マスターであろうおじちゃんに軽く挨拶をしながら店の奥のソファーに腰掛けた。
その一連の動作があまりに自分とかけ離れた大人の雰囲気だったのと、初めて足を踏み入れた「純喫茶」という初見殺しの独特な空間に、僕は地面に足が付いてる気がせず、まるで無重力空間を歩くような感じで必死にT君に続いた。

今でもあのタバコとコーヒー豆とソファーの革が混ざった独特な匂いを嗅ぐために純喫茶に行くくらい好きな匂いなのだが、当時の僕は緊張がピークに達していたこともあり、その匂いも相まって今にも吐きそうだった。

「アイスコーヒーください。」

メニューも見ずに華麗にオーダーを決めるT君の横で、僕は初めて喫茶店に来たのがバレないようにメニューを一瞬にして目でスキャンし、一呼吸置いて頑張って頑張ってゆっくりと口を開いた。






クリームソーダください。

今でも純喫茶に行くと必ず頼むメニューである。

今回の教訓:勝負のタイミングは予告なく、ある日突然やって来る

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