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6.ボクとカレーvol.3 -彼との別れ-

spice up (スパイスアップ)」という言葉がある。

主な意味は「〈…に〉香辛料(ハーブ、スパイス)を入れる」という意味だが、対象物に「趣を添える」「より面白くする」「豊かにする」という風にも使われるらしい。

僕は後述する人生のバイブルの中でこの言葉に出会うのだが、そこで出てくる「Spice up your life!(刺激的な人生を!)」というフレーズが好きだ。
僕にとっての「スパイス」はその名の通りカレーだが、このnoteを読んでいる変わり者のあなたにとって、人生をより刺激的にしてくれる「スパイス」とは一体何だろうか。

そんな物があったとして、それに出会えること自体幸せなことだが、もし幸運にも出会えたなら離さないように大事にしたいものだ。
僕のように失って初めて後悔をしないためにも...


はじめに。
前の記事で『ハチ食品 カレー専門店のカレールー』について「不味い」と書いたことについて誤解が無いように言っておくと、当然僕の作り方が無茶苦茶だったからであって、ハチ食品さんのルーが不味かったわけでは決してない。

今でもしっかりと覚えている。
「カレー=手抜き料理」だと決めつけている僕に、「他の食材を買うお金が無い」というオプションまで付けば、その結果は明らかである。

1.ニンジンを炒める
2.水を入れて煮る
3.ルーを入れる
4.完成


いや、「完成」じゃねぇよ!

我ながら人生の中でここまで手を抜いたことは、これまでもこれからも無いだろう。

当たり前だが、ルーの袋の裏にはちゃんと作り方が書いてあった。
ただ、メインのお肉は勿論、玉ねぎもニンニクも生姜も買うお金が無かったのだ。
カレーを少し本格的に作るようになって初めて、玉ねぎとニンニクと生姜がカレーの「旨み」そのものだと知るのだが、当時の僕がそんなことを知るはずも無い。
だから、たまたま冷蔵庫にあったニンジンだけが具として入った「カレー風味のスープ」ができてしまったのだ。


絶望だった。
当然、不味いカレーを作ってしまったことではない。
買ったルーがまだまだ残っているこの状況に対してだ。
これからおよそ1ヶ月、このパートナーと共に生きていくと心に決めた矢先のこの不味さである。
1食分に計算すると安くても、ルー自体は当時の僕にとって大きな買い物だ。
袋も開けたし、もう後戻りはできない...




以後、僕はカレーを上手く作れるようになろうと決心した。

それからというもの、僕はこの「カレー風味のスープ」をどうやって「カレー」にするかだけを考えるようになり、まずは変なことをせず、レシピ通りに作ってみよう、という方針を立てた。

とは言え、お金が無い現実は変わらないので、全ての具材を揃えることがまず初めの壁だった。
大学のサークルでBBQをやっても、余った野菜やお肉を持ち帰ることしか考えていなかったし、遊びに使っていたお金を鍋やら木べらといった調理器具に使うようになった。

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そしてついにカレールーはなくなり、より本格的なカレーを目指し『S&B カレー』(通称:赤缶)といったカレー粉にも手を出すようになる。

その頃には、僕とカレーの関係も生活の「パートナー」から、気の置けない「親友」になっていたし、毎日のようにカレー粉カレーを作るほどドハマりしていた。


それでも、
「カレー=手抜き料理」
という考えは変わらなかったし、なんなら現在でも変わっていない。
「手抜き」という表現は言い換えると、「簡単に誰でも美味しく作れる」ということだし、そんなカレーが僕はたまらなく好きだ。

僕だけの物にしたいと思ったこともないし、嫌いな人はいないんじゃないかというくらいみんなに愛されている彼が、僕の憧れでも目標でもある。
好きなだけじゃなく、尊敬もできるという点で「親友」という関係がピッタリだと思う。
こんな関係がいつまでも続けばいいなと思ったし、分かりやすく人生が豊かになったという実感があった。






別れは突然やってきた。

2009年の夏、僕は彼が原因で入院することになった。


今回のカレー:中野「カフェ・ハイチ」さん

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