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2025年。拝啓、栗きんとん様。

栗きんとん、なます、牛蒡と人参の肉巻き、茹で海老。

わたしのつくるおせちは毎年こんなもんである。あとは市販の昆布巻きと蒲鉾、お雑煮とかでおしまい。家族が好きなもんだけ作って、買ってきた刺身と牡蠣で宴会をする。さいこう。

12月31日。

近所のエブリイに栗きんとんのための栗甘露煮を買いに行ったが、瓶詰めがどうしても見つけられなかった。そして野菜の棚がすかすか。いつもはびっしり並ぶ調味料の棚にも空きが目立つ。あれれ。
エブリイは広島県福山市に本社を構える会社。業務スーパーのフランチャイズにも加盟している店で、店内にはエブリィの商品と業務スーパーの商品が素晴らしく見やすく並んでおり、その異様な品揃えの多さに「エブリイに行けば大抵解決」と、わたしは普段から全幅の信頼を寄せている。

入り口に掲げられた大きめのポップを見上げると、「年始休業1/1〜1/4。新年は1/5から」とあった。

そうだった。

エブリイは正月にがっちり休むのだ。昨今、正月であってもスーパーマーケットが4日も休むなんてそうそうあることではない。でもこれってちょっと素晴らしい。正月は休もうぞ。

大晦日の昼過ぎにすでに野菜の棚が空いているのは、野菜の在庫はできるだけ減らしたいからであろう。でも鮮魚コーナーは、ぴっちぴちの刺身の豪華なパックや、おせち用のぴかぴかの鰤の半身パックがどんどこ積まれていて、今夜から正月にかけて食べる魚を求める客のニーズにしっかりこたえている。

正月のための食材は少し高くても買ってしまうよね。家族で連れ立って買い物をする人が多く、その誰もがカゴを商品でいっぱいにしていた。そのせいで通路が大分狭くなっているんだけど、みんな笑顔だ。正月が来るぞという感じ。物価高、低賃金だなんだと世知辛い昨今だけど、正月のためにいつもより少しばかり多くお金を使う、エブリイでの光景にはそんな活気がまだある。まだもう少し、わたしたちは頑張れるかもなんて思った。

おっと、私がほしいのは栗だった。

あまりの混雑に店員さんに栗の有無を尋ねられず、店内をぐるりと一周して諦めた。今がいちばん売れる時であろう食材が目立つところに並んでいないのだから、おそらく在庫切れなんだろう。違う店に行くことにした。お値段も品揃えもワタクシ的地域ナンバーワン、まとめ買いする時はeveryエブリイ。今年もお世話になりました。

さてエブリイをあとにして、混雑した国道を歌いながら走り、わたなべ生鮮館へ向かう。
本社岡山。まさしく地域密着店。どの店舗もわりと小ぶりで使い勝手がよく、大混雑するような特色の強い店ではないけれど、いつも手堅い品揃えで特にお魚がよい。そして地元農家に太いルートでもあるのか、パプリカの大袋とか不揃いきゅうりの大袋など、他の店なら見当たらないような野菜をどーんと気前よく売ってくれたりする、それがわたなべ。

ふふん、わたなべなら間違いなく栗の瓶詰めくらいあるはず。

ほーら、メイン導線の目立つところに「おせち」棚ができていて、乾物や瓶詰めが並んでいた。でもそこにあった栗は、ものすごく小さな瓶詰めだった。うっそん。その高額さにちょっとビビる。そういや、秋に栗が高騰だとニュースに出ていたっけ。小さな瓶詰、栗自体は100グラム、シロップ込みで200グラム900円弱。国産だ!国産だ! 控えおろう。ふむ。

1月2日にお客さんを迎えるので、栗きんとんは多めにこしらえたい。2瓶買うか? そうなると栗だけで2000円!  ふと見ると栗の瓶詰めの横には不自然にスペースが空いていた。もしかしたら、外国産の安い栗の瓶詰めがここにあったのかもしれない。そうですよね、正月三が日で食べきる総菜のためだもの。見栄えがよくて安いなら、外国産を選ぶもの。うぇいどうしよう2000円分の栗を買うか?と迷い、いやいや時間があるんだからと、違うスーパーマーケットへ再び車を走らせた。こうなったら近郊スーパーマーケットを全て回ってみせましょう。安いもの、希望のものを求めてスーパーマーケットをはしごするなんて、ここ数年やっていなかった。心意気が正月っぽくて笑える。

3軒目、わりと食の安全性やブランドにこだわっているスーパーマーケット。みんな大好きco-opです。おかやまコープ。

co-opなら悪いもんはないはずっていう、私の親世代からの謎の安心感。しっかしco-opというのは、一体どういう組織なんだろう(わかっているけど)。生活協同組合。基本的には組合員になって買い物をするシステムだけど、住む場所が変わるとそれまでのco-opとは違うco-opがあったりして戸惑うのである。どこのco-opも「組合員が安心して買える商品」というようなコンセプトらしい(たぶん)。宅配型も有名ですね。

コンセプトがそんな感じなので予想はしていたが、店に並んでいたのは、「国産栗、無着色、無添加」と意識高め。栗自体はおそらく100グラムほど、そして確か1280円(うろ覚え)。きゃん!とうとう千円超え!

瓶を手に取り、色の素っ気ないぼやけた栗をながめて、それで作った栗きんとんをシュミレート。用意したさつま芋は徳島の鳴門金時なので、ベースの色はきっと淡くなる。そこへ無着色の栗を投入。栗とお芋の色が一体化したビジュアル。いやあまて、なんだかとてもつまらない。そんな白っぽい栗きんとんにわたしは心躍らない。

おせちの中でも、特に栗きんとんなんてものは砂糖たっぷり、糖質バンザイのジャンクフードなんだから(雑)、ここはまっ黄っ黄の栗を投入したい。お好み焼きやたこ焼きの紅ショウガと同じであり、うすぼんやりした無着色の紅ショウガではなく、たとえお腹の中が赤くなろうと、粉もんにはこれでもかというくらいの真っ赤な紅ショウガでお願いしたい。みょうばん上等!栗も黄色くあってほしいではないですか。

無着色ノーサンキュウと心の中で謝罪して、移動だ移動の4軒目。イオン系のスーパーマーケット、価格と質のバランスが安定のマルナカ。本社はおとなり香川。

マルナカには大きな店舗と駅前型の小ぶりな店舗がある。大型店舗は週末や年末年始はそらもう混雑するけれど、駅前型はレジと売り場の距離がほどよく、なおかつ品ぞろえが標準的でいつ訪れても安心。最近、大手メーカーの加工食品は、マルナカのような大手企業系列のスーパーマーケットの方が価格が安い。企業努力的なアレなんだろうなと。地元野菜とか魚はまたそれは別なのですけどね。仕入れとか流通とかのシステムに、アレがアレでアレなのではと(アレとは)。

さて栗。マルナカに手頃な栗はありますか。

メイン導線を進んだ先、とってもわかりやすい場所で韓国産栗を発見。瓶詰めではなく袋詰め180グラム・シロップ込みで400グラム、価格は980円。パウチグッジョブ。例年に比べるとやはり高いは高い、かも? 正直言うと昨年の価格なんてさほど覚えていないけど、それでも3軒をめぐってきた後なので量もたっぷり、黄色くてつやつや、これでじゅうぶんである。その横には、こだわりの国産栗無着色バージョンもきちんと鎮座していたので、12月31日でもこの品ぞろえ、さすがマルナカだなあと思った。

4軒のスーパーマーケットをまわったのでおよそ2時間。暇なのか?と思ったけど、たしかに年末年始なんて暇なのである。自宅へ戻ると「一体どこまで行ってきたの」と家族に笑われた。

炊飯器には、出かける前に玄米モードでセットしておいた鳴門金時がほかほかに蒸し上がっていた。皮をむいてフードプロセッサーにかけてから、根気よく裏ごしにする。フードプロセッサーだけでも栗きんとんの形になるけれど、せっかくなら滑らかさがほしいのでがんばって裏ごしにする。

裏ごしは大半を、勉強に飽きた受験生むすこが気まぐれでやってくれた。難儀な作業に「これ、やる必要あるの???」と言ったので、裏ごしの前後の芋を食べさせて、食感の違いを恩着せがましく教えておく。さらさらと口の中でほどける繊維のない芋ベースに彼は「おお、ちがう。うまー」とつぶやいていた。

こんな手間のかかる裏ごしの作業、年に一度しかやらないけれど、それが「栗きんとん様」だと思ってそんなもんだと思うことにする。年末のたびに、わたしは栗きんとんを裏ごしながら「そんなもんだと思えばいい」と新しい年を思うのである。


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くにとみゆき(牡蠣ミユキ)
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