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【#一日一題 木曜更新】 帰省と郷愁の味

山陽新聞の「一日一題」が大好きな岡山在住の人間が、勝手に自分の「一日一題」を新聞と同様800字程度で書き、週に1度木曜日に更新します。 

 年末年始は2年ぶりに北海道の実家へ帰省した。
 口数が少ない父と、立板の水の如くよく喋る母。久しぶりに会った70半ばの両親は動作に少し老いが進んだか?という程度で、コロナ禍以前とそう変わりなく見えて安堵した。
 持病のある母は「老化だからしょうがない」と体のだるさはありそうだけどみょうに楽観的。父はというと自営業と畑仕事で培った肉体は後期高齢者に差し掛かった今も屈強で、商売を畳んでからは知人やシルバー人材センターの依頼で庭木の剪定や冬囲い、除雪を引き受けて生活費の足しにしているらしい。

 私たち家族が大晦日の夕方に実家へ到着すると、父と母は即おせちや海鮮を振舞ってくれた。北海道は大晦日の夜からおせちを食べる習慣があり、道産子の私には普通のことだが、夫は私の父からの「ビールでいいか?蟹食うか?今年の昆布巻きはうまいんだ」という怒涛のもてなしに毎度のことながら戸惑っていた。   
 数の子やいくら、毛蟹が並ぶ豪華な食卓を楽しみながら、父の体の懸念は尿酸値と聞き大いに笑う。子どもたちはいくらが分厚く乗った丼を好きなだけおかわりし、紅白歌合戦を見ながらスナックや鮭とば、みかんをつまんでいた。しかし大晦日の食卓はそれでは終わらず、紅白歌合戦終盤には母の陽気な「蕎麦屋開店します〜」の声と共にかしわの入った年越し蕎麦が配膳される。ちなみに蕎麦つゆは、そのまま元旦の雑煮の汁になる。

 元旦は角餅の雑煮とおせちの残りをつまみ、昼食は夫のリクエストで元旦からオープンしている札幌ラーメンの店へ。午前中に雪の中で遊んだ息子は濃い味噌ラーメンに大喜びして大盛りを平らげ、その姿を横目に胃もたれが怖い私はハーフラーメンをちびちび食べた。
 そして夕方からは弟家族も揃いジンギスカンを囲む。元日の夜にビールとジンギスカン。ぼっちゃん育ちの夫が目を白黒させているのがわかる。すまん、夫よ。大晦日からいいだけおせちと海鮮をつまんだので、もう残るもてなしは肉しかない。

 帰省はタイトなスケジュールで、短い滞在の間に年金暮らしの父母に申し訳ないくらいのご馳走を出してもらい北海道の味を楽しんだ。
 しかしこれだけの華やかな食事を用意してもらったのに、私がこれだこの味だと懐かしくなったのは至極単純なものだった。泣けるほどおいしくて食べ終わるのがもったいないと思ったそれは、早朝出発の私たちのために母が握ってもたせてくれた、大きな大きな筋子のおにぎりだった。

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