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【#一日一題 木曜更新】 錯覚

 山陽新聞の「一日一題」が大好きな岡山在住の人間が、勝手に自分の「一日一題」を新聞と同様800字程度で書き、週に1度木曜日に更新します。 

   【本日やや長め。1000字ちょいあります】

    岡山駅の周辺には大きな商店街が三つ。そのうちのひとつで岡山城にほど近い表町商店街は、全長1km以上あるアーケード商店街で、やや古びたアーチ形の屋根を見上げながら歩くと、私の故郷、札幌狸小路商店街が思い出される。
    アーケード内には古くからここで商いをしている洋品店や近年オープンしたであろう洒落たカフェ、さらに色褪せたてはげた店名のシャッターが混在している。シャッター上部を覆うテントは朽ちて骨組みが剥き出しになり、そのみすぼらしさが、下りたシャッターが決して定休日のそれではないことを物語る。
   虫食い状態のアーケードに悲しくなり、目と鼻の先にある巨大ショッピングモールを少し恨めしく思ったが、むすこと食べたコロッケの肉屋も、雨の降る寒い日にかき込んだ生ゆば丼も、ここ表町商店街にある店で、店を題材になんとなしにエッセイめいたものを書きたくなるのは、きっとこのややさびれた雰囲気のおかげだと捉えると、照明の明るすぎるショッピングモールの存在もそう疎ましいものではないかもしれないと思った。

 表町商店街の東側に並行して南北に走る城下筋という道路を南下すると、江戸時代に栄えたかつての城下町の京橋町があり、すぐそばを流れる旭川の河川敷では、月に一度、岡山の観光スポットにもなっている京橋朝市が開催される。京橋朝市は、岡山市の市政施行100周年を記念して1989年から始まったという。岡山在住5年も超えたというのに、私はいまだ町で有名なこの朝市を訪れたことがない。朝4時というとんでもない開始時間が、私の足を朝市から遠ざけている。

   そして表町商店街には、わが町の老舗百貨店天満屋がある。天満屋は城下筋から見ると商店街を挟んだ西側にあり、建物東側の出入り口の一部はアーケード側に面している。天満屋東側から退店のためにガラスドアを押すと、化粧品やハイブランドが並ぶラグジュアリーな空間から一気に庶民的な商店街へ出られるのがとても愉快である。自他共に認めるとんでもない方向音痴の私は、天満屋でアーケードに面していない正面玄関から入店して商店街側から退店すると、自分が東西南北どこを向いているのかさっぱりわからなくなり、岡山駅へ向かうには右へ行けばよいのか、それとも左へ歩けばよいのかと考えてほんの数秒棒立ちになる。

    作家の乗代雄介さんが、知らないことでも調べて書いて発表すれば、その事柄について「詳しい人認定される」と笑っていた。さきほど私は、表町商店街と京橋の位置関係を東西南北を使って書き表した。東西南北を明らかにしながら文章を書くと、自分が途端にその町に詳しく、方向感覚に優れた人間になったような錯覚に陥る。もしかしたら私は町歩きのエキスパートで、タウン誌の記事取材なんてお茶の子さいさいのベテランライターなのかもしれない?表町商店街の各店で、あらクニさん今日は何?と気さくに声をかけられる岡山生まれの古い住人なのかもしれない?
まあそんなもの、もちろん絵に描いた餅であり、そして錯覚である。

   


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