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70年代とリーマンショック以降の市場動向(長期金利とPER、EPSの関係)
①インフレ環境の1970年代とリーマンショック以降の市場動向、②PERと長期金利、EPS成長率の関係、③S&P500株価水準のシミュレーション、について下の添付資料の通り簡単にまとめました。
米国4月CPIは8.3%と2ヶ月連続で8%台となり、失業率も3.6%と50年ぶりの低水準、平均時給も+5.5%と高く、中小企業では深刻な人手不足に悩んでいます。原油価格も引き続き100ドル超で推移しており、世界の生産工場である中国・アジアの所得水準の向上やコロナによる供給抑制、ウクライナ情勢・新冷戦によるグローバリゼーションから内向き経済への流れ、ESG対応コスト、異次元緩和による過剰流動性など、全ては構造的なインフレ圧力につながりますね。
これらの賃金上昇、原油価格上昇、供給制約、冷戦、過剰流動性などによるインフレ圧力は1960年後半〜1970年代に見られた現象でもあるので、「2020年代は1970年代に近い環境になるのでは」とみる人も少なくないようです。70年代の米国CPIの平均は8.5%程度と今くらいの水準で、政策金利も2回10%越えまで引き上げられ、添付資料1ページにあるように長期金利も上昇しました。
インフレ環境は企業にとって原材料価格・仕入れ価格の上昇につながるため企業業績に逆風と考えがちですが、同時に製品価格も引き上げやすい環境なので、仕入れ価格の上昇を上回る製品価格の引き上げによって、むしろ企業業績にプラスになったりします。実際に添付資料の1ページの通り1970年代の企業業績はインフレを除いた実質ベースでも増益になりました。
一方で同時期の株価は10年間に亘って変動幅の大きいレンジ内での横ばい推移(物価上昇の中での横ばいですので、物価上昇を除いた実質ベースでは大きくマイナスです)となり、株式市場にとっては失われた10年となりました。主な要因はバリュエーションの大幅な縮小ですが、インフレと金融引締めを背景に長期金利が上昇し、バリュエーションの低下につながりました。投資スタイルでは成長株投資が大きくアンダーパフォームし、割安株投資(特に中小型株PBR)がアウトパフォームしました。
資料の3ページにあるように、理論的には長期金利が上がるとPER等のバリュエーションは縮小しやすくなります。米国長期金利は金融引締め時は上昇傾向、あるいは高止まりしやすいのでPERにはどうしても逆風となりますが、2ページのようにディスインフレ下で長期金利が緩やかに低下していく環境では金融引締め時に長期金利が若干反発したり高止まりしてもPERはあまり縮小せず(ITバブル崩壊やリーマンショック、コロナショック時を除いて)、ゴルディロックス相場(適温相場)の中で企業利益(≒EPS)成長率が高ければ、株価は上昇傾向を維持できます。またこういう環境では高成長銘柄が評価されやすく、成長株投資がワークしやすいです。
一方で、現在のようにCPI8%台のインフレ環境で、利上げ・量的引締めを含めて金融引き締めペースが速まる場合は従来よりも長期金利の動向が読みづらくなります。つまり、
①利上げや量的引締めは基本的に長期金利の上昇要因となりやすく、その場合はPERが縮小しやすいですが、景気の好調を維持できれば、予想EPSが株価を支える形で株価は徐々に回復に向かいやすい
②ただ、急速な引締めによってインフレが早晩収まるとの見方の一方で将来の景気減速懸念が強まると、長期金利は低下に向かい、PERは回復するものの予想EPSは下方修正されて株価は広いレンジの中で横ばいとなる
③さらに急速な引締めでもインフレが想定したように収まらず、一層の引締めが必要との見方になれば、金利上昇~高止まりのまま景気後退懸念が高まり(スタグフレーション)、株式市場は70年代と同じ「失われた10年」の運命をたどる可能性も出てきます。
個人的には③のシナリオは避けたいところですが、私を含めて、今の現役ファンドマネージャーや、個人投資家のほとんどが1990年くらいからのディスインフレ環境の中でしか株式運用をしていないと思いますので、これまでの経験にとらわれずによく市場を分析していく必要がありそうです。
(4、5ページはS&P500株価水準のシミュレーションですのでご参考までです。あくまでも前提を置いたシミュレーションであり、将来を予想するものではありません。)
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➢ インフレは企業収益にとって悪くなく増益傾向へ(仕入れ価格が上がる一方で販売価格に転嫁しやすい)
➢ 金融引き締めや長期金利の上昇を受けてPERは大幅に縮小(EPSとPERはインフレ調整後の数値で、ロバートシラー教授のCAPEとREAL EPSを表示したもの)
➢ インフレと2度の金融引き締めにより長期金利は上昇傾向
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➢ 企業業績はコロナ発生当初以外は概ね増益傾向
➢ PERは概ね長期金利上昇の際は縮小、金利低下の際は拡大傾向で推移
➢ 長期金利はリーマンショック以降上下動しながらも世界的な金融緩和の中で低下傾向。2016~2018年は利上げと量的引締めで上昇。その後金融緩和等で2020年初まで低下し、コロナ禍で再び上昇。
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➢ よって(3)式は、10年国債利回り上昇すると割引率上昇⇒分母が増加⇒PER縮小となり、逆に10年国債利回りが低下するとPERが拡大します。またEPS成長率が上がると分母が減少⇒PER拡大となり、逆にEPS成長率が下がるとPERが縮小します。
※ EPS:Earnings per Share、一株当たり純利益(純利益を発行済株数で割ったもの)、PER:Price Earnings Ratio、株価収益率(株価をEPSで割ったもの)
※※ キャピタル・プライシング・モデル(CAPM)による
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➢ 図1はエクイティ・リスク・プレミアムが現在の高い水準(過去平均より高い=投資家は株式投資リスクが高いとの見方からリスクフリーレートに対して高いリターンを求める)で試算。
➢ 今後、仮に長期金利が上昇しPERが縮小した場合、株価は現状の株価水準(黄色部分)から右側へシフト。また金融引締めにより、仮にPER縮小に遅れて来期予想EPSが下方修正された場合、上方にシフトすることになり、いずれも株価は現状より下の水準となります(例えば現状の長期金利水準で来期EPSが2021年実績並みに留まった場合は3,640と、コロナ時の安値から昨年ピークまでの半値押しを切る水準となります)。
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