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米国1月CPI発表に向けて

今晩発表の米国1月CPIが非常に注目されていることもあり、事前に簡単にまとめてみました。

内容は、

①米国1月CPIは高めに出やすい。主な要因は年末以降のガソリン価格と中古車価格の上昇。ただし、両方とも供給制約の側面が強く、長続きはしないものと思われる

②市場は今月初めの「雇用統計ショック」を受けて、既に長期金利は上昇し、政策金利見通しもFRBのシナリオにほぼ寄っている状況

③1月CPIが予想より上振れた場合に市場センチメントは悪化する可能性はあるが、インフレが粘着性があって高水準が続くことは市場もほぼ織り込んでおり、やはり注目は今後の景気後退の有無とその深さ。短期の動きに一喜一憂せず、中長期の視点で景気や市場の方向性を捉えていくことが肝要

1. 高めに出やすい米国1月CPI

本日夜は米国CPI(1月)の発表があります。当面のFRBのスタンスを占ううえでとても注目されますが、今のところ前月比+0.5%(12月は+0.1%)、前年比+6.2%(12月は+6.5%)と、インフレ率は前月比では上振れ、前年比では緩やかな低下が予想されています。

今回の1月CPIはこの前月比+0.5%予想の通り、やや強めの数字が出るものと市場では警戒されています。その主な要因は最近の①ガソリン価格の上昇と②中古車価格の上昇です。①はCPIの4%程度、②は3%程度占めます。まず全米ガソリン販売平均価格は年末から約1か月で10%強上昇しており、また中古車販売価格は1月前月比+2.5%と12月の+0.8%に続いて2か月連続の上昇となっていますが(自動車オークション大手マンハイムデータ)、これらから1月のCPI数値がやや警戒されているところです。

ただ、この要因を見ますと、どちらも供給制約の要因が大きいようです。まずガソリン価格ですが、昨年のクリスマス時期に発生した大寒波エリオットにより、メキシコ湾岸の多くのエネルギー会社の生産設備が操業停止に追い込まれ、ガソリンやディーゼルなどの燃料生産が止まった影響が大きいようです。

また、中古車については需要の強さもありますが、在庫不足も大きいようです。米国の中古車市場は新車3年落ちの車の減価率が大きくなるため、3年落ちしてから中古車市場に出始めるようですが、当然3年落ちは人気が高く需要も出ます。ただ、3年前といえば、丁度新型コロナ感染拡大で新車生産が停滞し始めるころと重なりますので、しばらくは中古車価格も底堅くなる可能性はあります。ただし、下図の通り、前年の中古車価格の水準が高かったこともあり、前年比での価格低下傾向は変わらなさそうです。また、先日発表の全米新車販売では新車の在庫水準も以前に比べて正常化しており、今後は価格上昇圧力も弱まってくるものと思われます。

米国中古車販売価格と新車販売価格の推移

2. インフレ圧力の持続はある程度織り込まれており、注目はやはり景気の行方

2月4日の「雇用統計ショック」を受けて、米国長期金利は10日間で3.4%割れの水準から3.75%まで、すでに約0.35%も上昇しており、また市場の政策金利見通しもFRBのドットチャートによるシナリオにほぼ寄ってきているようです。

まだ市場では年後半利下げの見方が多いようですが、FRBのドットチャートからも2024年中には1%の利下げを行うシナリオになっており(FF金利誘導目標:2023年末5.125%、2024年末4.125%)、早ければ来年初回FOMCでの利下げ(0.25%など)もあり得ると考えると、年後半利下げと来年初回利下げで違ってくるのは、その時間差がどの程度景気に影響してくるかであり、引き続き景気関連指標の動向が注目されます。

インフレ率は徐々に低下に向かう方向であるものの、今回のインフレは粘着性があり、3〜4%の水準まで低下したとしても、その水準で長く留まり、目標の2%までの低下は難しい、というのが市場の大方の見方になりつつあると思われます。従って、今回の1月CPIが予想比で上振れた場合は市場センチメントは悪化するでしょうが、今回のインフレ率が上振れても上振れなくても、当面FRBの利下げが見込めないことには変わりなく、やはり注目は今後の景気後退の有無とその深さ(雇用統計の大幅な悪化につながりそうか)になると思います。

3. 景気後退入りした場合

現状は過去の景気後退入りと比べて、民間の住宅投資や設備投資などで過剰な投資ブームが見られないこと、家計の債務負担も大きくないこと、また金融システムも依然として健全なことなどから、景気後退入りしたとしても、深刻なものよりはマイルドなものになると見て(願って)います。

仮に景気後退入りした場合の頭の体操をしますと、これまでのパターンでは、2年と10年米国債利回りの間で逆イールドが発生してから1〜1.5年くらいで景気後退入りしており、仮にこれを今回に当てはめた場合、明確に逆イールド化したのが昨年7月以降ですので、やはり今年後半から来年初め頃に景気後退入りする可能性があるということになります。(ちなみに、第二次世界大戦以降の動きを見ますと、景気後退の平均期間は11カ月程度で景気後退入りしてから半年程度で株価が底を打つ傾向があります。)

景気後退入りした場合は、その深さにもよりますが、株価の下落は避けられないと思います。ただ、スタグフレーション時はEPSが意外とそれほど下がらない傾向がありますので(企業にとってはコスト上昇分を価格転嫁しやすいなどで、70年代もEPSは基本右肩上がりでした)、FRBが景気後退入り後すぐに利下げに踏み切ってくれれば、PERが反発する形で株価は底を打ってくれるのではと期待しています。家計の預貯金やMMFなど、株式市場の「待機資金」は豊富な状態ですので、株価が反発した際の戻りは早いのではないかと思います。

あまり短期的な指標に一喜一憂せず、中長期的な視点で今後の景気や市場の方向性を捉えていければ良いかと思います。

(実際の投資に際してはご自身の判断でよろしくお願いします。)

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