【アーカイブ】「必殺」の亜流であって亜流でなし! 「影同心」②
前述の通り、「影同心」の主人公3人のキャラクターは「必殺」シリーズの顔ともいえる中村主水(藤田まこと)からインスパイアされてるワケですが、やはりその根底にある面が決定的に違っているのです。
オリジナルである中村主水の真骨頂は、表は"昼行灯"と呼ばれるぐうたらでパッとしない同心でありながら、裏では凄腕の剣客として活躍するという「二面性」とそのギャップにあります。
ところが…、「影同心」でそういった二面性をかろうじて再現しているのは、山口崇さん演じる更科右近のみです。渡瀬恒彦さんの高木勘平に至っては、ご覧の通りで髭面の強面。しかもこの頃の渡瀬さんは、数々の東映ヤクザ映画でのヤバ過ぎる熱演で"狂犬"と呼ばれていた時代ですからね。要はその裏で女に弱くお人よし、という面を出したかったようですが、既に中村主水のインスパイアというベクトルからは外れてるんですね。
そして実質的なリーダー役となる金子信雄さん扮する柳田茂左衛門。山口さん&渡瀬さんよりさらに輪をかけたぐうたらぶりで、しかも婿養子の恐妻家、とあれば確かに中村主水っぽいですが、やはり彼もまた中村主水とは決定的に異なる面を露呈します。それが愛人お佐知(范文雀)の存在です。そもそも中村主水は愛人など抱込む器量も度量もありません。でもそこが、当時のメイン視聴者であったサラリーマン諸氏の共感を呼んだわけです。しかもこのお佐知、演じているのが范文雀さんなんです。ココに集った皆様ならご存知の通り文句なしのイイ女ですw しかも惚込んでるのは范文雀さんの方なんですね。実際「必殺」をご覧になった方なら、おわかりでしょうが、もう金子さんの役は既に中村主水じゃないんです。
必殺シリーズのフォロワーのつもりが、何故こんな仕上がりになったのでしょうか?
答は簡単です。時代は1975年、制作会社は東映、主演は渡瀬恒彦と金子信雄、しかもスタッフには深作欣二までがからんでいる。つまりは必殺っぽい体を装いつつも、内容とキャラ設定自体は当時隆盛していた東映実録ヤクザ映画から実質引用が多々されてしまっているからなのです。
前述の通り、表は"昼行灯"、裏では殺し屋。コレが中村主水の魅力です。でも…基本ファンタジーですよね、リアリティは加味していても。ぐうたら同心が実は殺し屋、現実にあってはいけないけど、あったら面白い。それを見せたのが「必殺」シリーズ最大の特色であり魅力でありました。ところが、そんなファンタジーを破壊し、「現実って結局こんなもんですよ」と世知辛く非情な現実を描いてみせたのが、東映の実録ヤクザ路線だったワケです。そもそも「必殺」シリーズとは真逆の世界観なワケですから、そこにかかわった人たちが中村主水を創ろうとすれば、それは狂犬のごとき髭面のご面相にもなるでしょうし、小狡く立回って誰もがうらやむイイ女を囲込んだりするような人物像にはなってしまうでしょうね。(つづく)
※本稿は、SNS「mixi」コミュニティへ2014年7月寄稿した内容を加筆・修正したものです。