発狂した地球、あるいはひと夏の旅の物語

恒星間移民システム「クトゥルー」が大事故を起こした翌年の夏、わたしはなっちゃんと一緒におばあちゃんちまで歩いていくことにした。

『おはよ、マナ』
わたしが待ち合わせ場所の丘の上公園に着くと、透き通った青と赤紫が渦を巻く夏空の下、半分が触手状に変質した滑り台の横になっちゃんはいて、手を振ってこちらに近寄ってきた。
背後の木々の葉状器官の赤と橙のうねりが、なっちゃんの黒髪によく映えている。
「おはよう、なっちゃん」
わたしも触手――去年からあるのにまだ慣れてない――を振り返しそばまで行く。

丘の上から目的地の方を眺める。
これから、半生命化した都市の廃墟や異形の森、わたしよりもっと変質した生き物たちのいるなかを抜けていかなければならないのだ。
無事につけるだろうか。

『大丈夫、私とマナなら』
思念を受け取ると同時に顔を覗き込まれる。
『行こう?』
顔の無いなっちゃんが笑ったような気がして、わたしも微笑み、頷き返した。

(続く)

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みかん