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やっぱりパンが好き

駅からの帰り道にある、小さな天然酵母のパン屋さんが閉店した。おじさん、けっこうお年だったから、引退されたんだと思う。閉まった灰色のシャッター。最後に買ったのいつだっけ。ナチュラルな木目調の内装はもう見ることができない。通勤の時間には開いていなくて、最近休みの日はハンドメイドに夢中だったから、めったに行かなくなっていた。閉店すると知っていれば、大好きだったイチジクとクランベリーのやつを最後に食べたかったのに。

寂しく思っていたら、しばらくして、改装の工事が始まり、今度は緑色の看板のパン屋ができた。メタルなカゴが置いてある。あれにパンを入れるのか。前のパン屋さんが私は好きだったから、なんだかすぐには買いに行けなかった。「そんな簡単にはね。天然酵母のパン屋さんの生地はしっかりしていて、派手さはなかったけど素朴で飽きの来ない、いいパン屋だったからね。」そんな気持ちだった。店先にチラチラ見える職人さんらしい方が、ちょっと若すぎるような気もして、「え。そんなに早く自分のお店持っちゃうの?」って思ったせいもある。開店後数日経って、ガラスのドアにシールで貼られた営業時間、朝は早くて夜は遅くて、その上、定休日がなかった。「いつ寝るの?パン屋って未明から生地作るから大変なんじゃないの?」と驚きながら「やる気だけは相当なんだな」と横目で見つつ通り過ぎていた。

スルーし続けて1ヶ月くらいたったろうか。
今日。仕事の帰りにいつもの角を曲がったら、パン屋がいつもより賑やかだ。店先に古着のTシャツのラックが出ている。傍にベンチが置いてあって小型犬を連れた若者がうじゃっと集まって笑っていた。音楽もかかっていて、ほとんど文化祭か夏祭りのノリだ。これはあれかな、友達が応援しに来たってやつなのかな?

いやこの店先の道はあくまでも道であってお店の土地ではないんだから、それはどうなの?と思いながら、賑わいのどさくさに紛れて私はすっと店に入った。メタルのカゴを手に持って、メロンパンみたいな形のチョコクランベリーのやつ、プレーンのフランスパン、紅茶キャラメルの小さいの。私好みのがある!しかも、関係ないけど奥の方にハンドメイドのアクセサリーが置いてあった。委託やってるんだ。でも、パン屋にそれ置いて売れると思っているんだろうか。でも、どれも可愛かったし、クリア系が中心で季節にも合ってたから、ありっちゃありなのかな?

いろんな混乱を胸に抱きながら、レジのテーブルにカゴを置いて待っていると、「セルフレジですよ。初めてですか?」と言われた。バーコードもなにも付いていないのに?画面をスクロールして番号とパンの写真をタップするようだ。いちいち振り向いて商品名を確認しつつ、ポンポンとタップ。間違いがないかどうかもう一度確認して、Suicaで支払った。
逆にめんどくさいよ、これ。ていうか、適当に安いやつタップして会計してもバレんと思うぞこれ。いいのか、パン職人。

パンを包んでるビニールにせめて番号シールぐらい貼ってくれればいいのに。これは高齢者は寄り付かないな。そんなことを思いながら帰宅し、息子に声をかけて一緒にムシャムシャとパンを食べた。

おいしい!めっちゃ美味しいじゃん!
あぁ~♡やっぱりパンが好き♡♡♡
へんな店だったけど、また行こうっと♪

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