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【活動録】第9回カムクワット読書会【李琴峰翻訳小説/エッセイ】

こんにちは、カムクワット読書会です。本日は渋谷にて読書会を開催しました。

課題作品は李琴峰さんのエッセイ集『透明な膜を隔てながら』と李屏瑤さんの『向日性植物』の翻訳小説でした。

今回の課題作品

今回の参加者は一名だったため、すこしシックな雰囲気のお店を選びました。「珈琲茶館 集」は個人的に好きなお店なので、こちらで読書会ができてうれしかったです。

『透明な膜を隔てながら』


「死」を書くことから始まった李琴峰さんの日本での作家生活は、『生を祝う』で出生を描くに至りました。

台湾で生まれ、「漢字にひらがなとカタカナ」が混じり合う日本語にひかれて勉強し、留学を経て現在は日本で生活をしています。いまでこそ、台湾が親日国として語られる機会が増えましたが、実際には侵略などの歴史があり、一筋縄では語れません。

その国で日本語を学ぶことの困難さ、そして性的な生きづらさから日本での生活を選ぶまでの個人史は、わたしが語るべきことではありません。ぜひ本書を手にとってもらいたいと思います。

さて、このエッセイですてきだなと感じたことは、各章題を「セイ」で統一していることです。「声」や「性」、「星」など、彼女の文学を語る上では欠かせない要素が詰まっています。

わたしは「生」と「性」などで語られる、青春時代の葛藤がありありと感じられる文章について語り、参加者の方は文学への向き合いかたについて語りました。

中でも印象的なことは、日本と台湾の文学界隈のあり方の差異です。日本では文芸誌で新人賞を受賞して、編集者がついて……という道がありますが、台湾では学生時代からさまざまな形で作品を発表する機会がある一方、パイの大きさから専業作家であることの難しさが感じられます。

どちらも良さがありますが、どちらも選べそうな李琴峰さんが日本での作家活動を選んでくれたことは、一読者としては幸運でした。一方で、中国語で書かれた作品を読みたいという欲求もあります。日本での作品を翻訳するのではなく、そのまま中国語で書かれた作品を……(多和田葉子さんのように)。

『向日性植物』


この作品は台湾でベストセラーになったレズビアン小説です。女学校での先輩・後輩関係から恋愛に発展し、紆余曲折があり……という構成要素だけを切り取ると、さまざまなマンガなどの作品を想起します。

しかし、この作品が優秀な点は、描かれる恋愛が美しいものではないことです。恋愛は美しくない、嫉妬や束縛など個人的感情はもちろん、家柄や性別など社会的要請によって関係は歪み、光にみちあふれた関係が暗闇におちることは珍しくありません。

本作品も先輩の元彼女との三角関係、忘れられない恋い、両親の反対など、困難の壁が立ちふさがります。幸せな記憶と困難な現状。大人になったからといって幸福をあきらめてはいけません。

「永遠の青春」を生きること、苦しみの果てに死を選ぶのではなく、光を目指すことを示唆するこの作品は、理想的なラストではないかもしれないですが、ひとつの指針になるのではないでしょうか。

「FLAT」でいたい


生きづらさにはさまざまな形があります。小説家はそれぞれが異なる形でそれを表現し、ときに重なりときに反発しながら、多くの作品が生み出されてきました。

その作品を「レズビアン」小説だから「~である」や「○○人」作家だから「~である」と、作品の外から定義することは暴力的です。それは作品と向き合っていることにはならず、あなたではなく社会が小説を読んでいるようなものになってしまいます。

わたしが好きな感想は、社会的な声ではなく、あなたの声なのです。閑話休題。

今回、この2冊を読んでいて思い浮かんだ歌があります。女王蜂の「FLAT」です。この中で歌われるように、ジェンダー作品の多くは不幸な結末を描かれることが多く感じます。それは、この現実を反映しているためだと思われます。

しかし、『向日性植物』は死なないことを目指すなど、当たり前に生きることを否定しないという、それこそ当たり前に実現されなければならないことが描かれています。

まだ、生きることは(誰にとっても)「平坦な戦場」かもしれません。ですが、この戦場には言葉があります。これらの言葉を胸に生きたいです。

次回の読書会について


さて、本年も残すところ40日ほどになりました。

12月の読書会に向けて、さまざまな「カムクワット」な小説を読んでいるのですが、1冊に絞り込むことができませんでした。

そこで初めての試みですが、自由紹介形式での開催を考えております。

開催予定日:12月24日(土)10:30ー
開催場所:横浜駅付近の喫茶店
募集人数:3名

紹介していただきたい本は、以下の2冊(1冊でも可)です。
1、紹介する本の条件:2022年に出版された小説(文芸誌も可)
2、2022年に読んで最も印象に残った小説

参加をご希望の方は、TwitterのDMまたはリプライでお願いいたします。

クリスマスイブで、年末も近くてお忙しい時期かと存じますが、ご参加いただけるとうれしいです。

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