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鎌倉時代の不倫事情

かつてNHKにタイムスクープハンターという番組があった。説明はめんどくさいのでwikiを見てちょ。

見直したいのだが、なかなか再放送しない。一昨年に時代劇専門チャンネルでシーズン1を放送したが、それきり音沙汰なしである。NHKのオンデマンドにもない。あそこは見たい番組に限ってないのである。見たけりゃNHKエンタープライズのDVD買え、ってことだろうと思われる。阿漕な商売しやがって。

そのタイムスクープハンターで、鎌倉時代の不倫事件を取り上げたことがあった。主要人物は、鎌倉の切り通しを見張る小役人二人。ドラマを見た時は朝比奈切り通しか、寿福寺裏の切り通しでロケをしたんじゃないかと思ったが、未確認。

この小役人たちにはある密命があった。さる御家人から、妻が通ったら尾行して密通の現場を押さえてくれ、というものだ。30分しかない番組の都合上、問題の妻はすぐ現れた。妻は道を外れ、やぐら(鎌倉特有の横穴式墓地)に入っていく。果たして中には男が待っていた!ところが捕まえて事情を聞くと、密通でもなんでもなかった。男は酒売りだったのだ。鎌倉市中に入ると税がかかって酒の値段が途端に跳ね上がる。それで鎌倉に入る直前で売買するというのが、この当時の賢いお買い物の仕方である。

なあんだ、一件落着。ところが番組はまだ半分しか進んでいない。この後、妻は意外な人物と密通をし逢瀬を重ねていたのが発覚、現場を押さえられるというオチになる。

鎌倉時代の武家法令、御成敗式目には、不倫についての罰則が記載されている。わざわざ罰則を設けるってことは、不倫が横行して社会問題化してたのかもしれない。平安時代には比較的おおらかだった不倫も、鎌倉時代に入ると、道徳的観念から、やっぱダメでしょ、ということになる。それには鎌倉仏教の影響があったんではないか。調べたわけではないけど。なんせ宗派ひしめき坊主だらけの鎌倉には、慣習改めろ、道徳的観念もてという説教が飛び交ってたわけだ。

御成敗式目の罰則は意外にも軽い。人妻と不倫した侍は「所領半分没収」と「出仕停止」のみである。所領がない場合は「遠流」といって追放される。出仕停止はそのうち解かれるし、所領半分没収で済めば御の字だろ。遠流されてもまたどっかの土地でやり直せばいいわけだし。

不倫の人妻も同様の罰則だ。バレたら二人で手に手を取って仲良く遠流、なんてこともあった。番組では追放されて切り通しを行く人妻の寂しい後ろ姿で終わっていたと記憶するが、相手は出仕停止だけで済んだのだろうか。

これが江戸時代だと大変だ。命懸けである。不義密通された亭主は、二人とも殺してもお構いなしである。武士も町人も同様である。現場を取り押さえ、その場で有無とも言わさず斬り殺してもいいし、逃亡した場合は捜索して殺害してもいい。この場合、武士は手続きを踏んで書類提出し、奉行所からその謄本を受け取るのが習わしだった。これを女敵討ちという。逆に女敵討ちせず、ほったらかすと、仕方不届きである、と罰せられるというから、江戸時代の武士はつらいねえ。何においても武士は体面第一、面目を保つのが大事、というのが根本にある。しかしまあ、奉行所に「すみません、妻を寝取られました」と訴える方が、うすらみっともねえし面目も丸潰れじゃないのかねえ。

実際そういう人もいたようで、ことがおおっぴらになってない場合は、秘密裏に示談で済ますことも出来たという。相手から詫び状と慰謝料を取る。その場合の相場は七両二分。約50万円だという。またこういう習わしは、それを利用した美人局が横行するという犯罪の温床にもなった。

このような江戸時代と比較すると、鎌倉武士は殊更おおらかに思う。御成敗式目の処罰はほとんど追放か所領没収で、処刑は殆どなかった。血生臭い暗黒の中世鎌倉時代といったイメージがあるからこれは意外である。武士の体面を保つために不倫一つとっても、やたら斬るのを推奨してた江戸時代の方がよほど残酷武士道である。



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