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タヌキな上司を見抜くには

 小太りで、ふっくらした顔が柔和な印象を与えるマネージャーが私の部署
に異動してきた。周りの人たちの受けもよさそうだ。良い職場雰囲気の中、
仕事に打ち込めるかと思われた。

タヌキ

 人の良さそうな振りをして、実際にはずる賢いもの。そのような人を称し
て「タヌキ」とあだ名される。彼は、少なくとも私にとっては「タヌキ」だ
った。

タヌキ上司のプレゼン

 勤めていた会社では、会社全体で「キックオフミーティング」と称する年
度初めや新しいプロジェクトをスタートさせる時などに行われるイベントが
あった。新しく管理職になったもの、異動してきた管理職は、そこでプレゼ
ンテーションをすることが習わしだ。

 「前の職場から飛ばされたとうわさされていますが」と話し始めたのには
驚いた。そんなうわさは聞いたことがないし、あったとしても自ら言うこと
ではないだろう。
 タヌキ上司は、営業部のあるグループのマネージャーだった。その彼が、
私のいる技術サポートの部署に異動してきたのだ。「新しいことにチャレン
ジするため、自分の意志でここに来ました」と決意表明していた。最初に感
じた違和感があって、これを正面から受け取れなかった。営業部から追い出
されたのだろうと邪推してしまった。

あなたはマネージャー?

 「私はエンジニアではないので分かりません。他の人(エンジニア)に聞
いてください」。同僚が顧客との問題についてに相談しにいった時のタヌキ
上司の第一声だ。元営業だから技術的なことにあまり詳しくなくてもしかた
ないかと、随分譲って考えてもあまりに無責任な態度だ。
 営業グループの長から技術グループの長への転身というチャレンジは嘘だ
ったのだろうと感じた場面だ。

マネージメントを観る

 月に少なくとも一度は上司と部下が1対1で話し合う1on1ミーティングがあ
った。仕事の進捗状況の確認。達成すべき目標の設定。抱えている問題への
対処。等々を個室で話し合う。

 このミーティングでタヌキ上司からよく「自責で考えること」と言われた
。これは実に便利な言葉。組織の上の問題であっても「タヌキ」は責任から
逃れ、私に責任を押し付けることができる。「タヌキ」は組織の中で何もす
る必要はなく、問題点を見つけたという貢献を示すことができる。

 私に非がなかったとは言えないにしても、彼は問題に介入することなく、
問題の原因を私に押し付けようとする意図が見え透いていて閉口した。彼は
問題解決のために働いてくれたことはなかった。「私は知りません。あなた
が解決してください」それが彼のスタンス。

 もう一つの口癖は、「お客様は神様」。バブル期に営業職だった人らしい
言葉と思った。

 物理現象を再現するシミュレーション・ソフトウェアの技術サポートをし
ていた。ある電気的特性のデータをソフトウェア上で再現したいという顧客
からの質問を受けた。データは物理現象にそぐわない異常なもの。それを顧
客に説明したが納得できなかったようで、回答に対するアンケートに、「ソ
フトウェア上で再現できなければ、上司と共にそれなりの対処を求める」と
書かれてしまった。それを見たタヌキ上司は「電話してわびなさい」「お客
様のいうようにソフトウェア上で再現しなさい」と高圧的に命令してきた。

 タヌキ上司の言葉に従い、顧客に電話してわびた。そして、一週間毎に顧
客に進捗を報告した。
 完全に不可能なことなのに自分が間違っているとわびて、再現できない言
い訳を考え続ける。他の仕事が手につかなくなるくらい辛かった。

若作りな言動の裏

 「これって、めっちゃいいよね」。タヌキ上司が彼より若い世代の社員と
会話するとき、よく使っていたのは「めっちゃ」という言葉。昭和三十年代
の男がそんな言葉を使うのはおかしい。彼と同世代のマネージャーは「めっ
ちゃ」なんて言わなかった。

 問題に介入しようとしない上司についていく部下はいない。うっすらとで
も感じていたのだろう。だからグループの中で浮かないようにするため何と
か取り繕うための行動だったように思える。

ゆがんだ性格

 ある同僚に仕事をお願いしたタヌキ上司。その後、グループ全員に、だれ
かその仕事を引き受けてくれませんかとメールした。その同僚がやる気があ
るか試したのだと、迎合する部下にささやいているのを聞いた。本心観たり
である。

タヌキ上司を見抜くには

 「タヌキ」な人物を見抜くには次の点に注目し、長期間定点観測すること
だと思っている。

 ・発言の端々
 ・些細な行動

 好きな人もいれば嫌いな人もいる。感情の動きが先入観をつくりだす。だ
から、なるべくそれを排するため時間をかける。そうすることで感情を抑え
た見方ができるし、情報も集まる。
 あの人ならそんなことはないだろうと発言や行動を無視しないことだ。長
期的に定点観測することで色々なことがみえてくる。

おわりに

 人の第一印象は信じない。タヌキ上司の第一印象は良かった。しかし、彼
の下ではかなりつらい経験をした。第一印象に裏切られたのはこればかりで
はない。人を観る目がないと言われれば、返す言葉はない。

 「第一印象を信じない」というのは正確には「第一印象を鵜呑みにしない
」ということ。表裏がない人だっている。タヌキ上司のように表裏のある人
物もいる。自分に近い人ほど見極めた方がよいだろう。タヌキ上司の下働い
た経験は、その方法を具体化させてくれたと思っている。



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