見出し画像

「子どもが算数を好きになる一瞬を見逃さない!」子どもが算数を大好きになる秘訣について「数学のお兄さん」横山明日希さんに聞いてみた!

わたしには、いま3歳と0歳の子どもがいます。子どもたちには、算数を大好きになってほしいのですが、どんな取り組みをしたらいいのか……

「いそぎではないけれど、機会を逃していたら嫌だな」
そんなぼんやりとした不安を抱えながら、子育てをする日々。

そんなとき、『10歳からのおもしろ!フェルミ推定』著者である、算数・数学教育のスペシャリスト、横山明日希さんにインタビューをするチャンスがきました!

表向きは、「くもん出版のフォロワーさん・本書を買ってくださった読者に寄り添う質問をするんだ!」という企画書を書きましたが、わたしの不安と、フォロワーの皆さんの不安は共通していると勝手に信じて、聞きたいことをどんどん聞きました。

インタビューを通じて、目の前の霧が晴れたような気がしましたが、みなさまの不安を吹き飛ばす記事になっていればうれしいです!
(インタビュアー マーケティング部 小宮   企画開発部・担当編集者 小田)

横山さんはこんな人

画像1

▲ 刊行記念イベントの様子。YouTube math channelでご覧いただけます。

小宮:
横山さんは、「株式会社math channel」の代表取締役であり、算数・数学の本も多く出版されていますね。どんな活動をされているのですか。

横山:
株式会社math channelは、「算数・数学の楽しさを伝える会社」です。算数・数学のコンテンツを、あらゆる形で届けています。
たとえば、子どもたちの前で算数の授業をやったり、全国の方々とオンライン上で繋がり、イベントをやったりしています。子どもだけでなく、大人の学び直しや、社会人向け・教職員向けの、仕事に役に立つ数学の話をすることもあります。

授業のような形式以外にも、算数ショーや算数クイズラリー、算数ゲーム開発などあらゆるツールを使っています。時には、気軽に楽しく、そして時には深い気づきを与えられるように本を出版したり、教育系の雑誌に出稿したりしています。
また、日常と関連するような数学の話題を、SNSで発信しています。いろいろなところ・切り口で「算数・数学の楽しさを伝える活動」をしています。

小宮:
先日のオンラインイベントも息子と楽しく参加させていただきました。
驚いたのは、参加者の方々が沢山コメントされていて、やり取りが活発だったことでした。「子どもたちとのやり取りをとても大切にされている!」と強く感じました。そのあたりも、力を入れているポイントなのでしょうか?

横山:
そうですね、算数を届ける側も、受け取る側も、いろいろなシチュエーションがあるかなと思っています。一方的にお話しして、映画・ドラマのような形で届ける方法もあれば、算数で対話するという方法、さらには、その子の興味を引き出すため、僕が聞き手になるという方法もあります。

様々な方法で届ける中で、算数を楽しんでもらうために、大事な方法のひとつは対話だと思っています。オンラインでもチャットでご参加いただけるので、対話は意識してやらせていただいています。

子どもの興味を引き出すポイントは?

画像2

小宮:
興味を引き出す」という言葉、まさにお聞きしたいポイントです。横山さんが、「あ、この子、算数に興味を持ったな」「あ、ちょっと切り替わったな」と感じるのはどんなときでしょうか?

横山:
子どもが「自分で気づく瞬間」ですね。「子どもたちの中から気づきが生まれる」という部分が、子どもたちの変わる瞬間だと思っています。
これは、難しいことではなく、実はいろいろな瞬間にあります。
たとえば日常との繋がりを知ったとか、自分に関連のある数字にこんな性質があったとか、自分で発見したとか。あとは、自分の言った意見が周りに大きく影響を与えた、などもありますね。

そんな瞬間に、「あ、このことはみんな興味を持つんだな」とか、「あ、これって意外と自分に関連がある算数の話だったんだな」というふうに繋がっていきます。こんな、子どもたちが1番変わる瞬間は、僕が逃したくない大切な瞬間です

小田:
一方的に知識を与えるというよりも、子どもたちに気づいてもらうというか、そういう環境を用意していくというイメージですか?

横山:
まさにその通りです。僕は、やり取りの中で、いろいろな「話題となるボール」をたくさん投げているイメージです。一方的に伝える機会だったとしても、いろいろな切り口でお話ししたり、一見関連性がなさそうな、ふたつの話題を繋げてみたり……

子どもたちが気づくポイントとか、子どもたちがわかったと思うポイントを、いろんなボールを投げて探ります。すべての知識を持ち帰ってもらいたいというよりは、なにかひとつふたつでも印象に残ってもらえればいいな、というスタンスです。

小宮:
横山さんが持っているいろいろなボールのコツや一例をお見せいただけないでしょうか。

横山:
ポイントは、「視点」とか「考え方」を、わかりやすく切り取って伝えることです。
たとえば日付を見て、その数字に関するおもしろい話を考えようといった投げかけですね。
2月8日だったら足して10だね、足して10となるような日付って他にあるのかな?──こんな簡単な話でいいんです。「数字を見たらなにか考える」というクセをつけるというか。

そんなことをくり返していると、体温計が36度4分なのを見て、子どもたちは「あと1で大晦日だね」などと言いだします(笑)。まさに、数字を見てなにか考えるということをしている結果ですね。子どもは364日目と考えたんでしょう。

そういう考えるヒント、おもちゃみたいなものを投げかけるということですね。フェルミ推定もそんなふとした疑問を扱います。

小宮:
渋滞中に車のプレートを見て、10になる方法を考えるとかをやっていたのを思い出しました。大人でも楽しめますね。
親の立場として、興味を引き出す方法について悩んでいましたが、難しいことを考える必要はなく、身近なものから、いろいろな角度でボールを与えていくイメージでしょうか?

横山:
そうですね。扱う題材自体は、逆にシンプルじゃないと子どもに伝わらないですしね。
ただ、シンプルであるがゆえに、「子どもが興味を持つ問い」に気がつかない大人も多いと感じます。車のナンバーの話も、意外と大人でもやりますが、実は子どもにもずっと遊んでもらえるコンテンツであるという部分ですね。

もっと大好きになってもらうためには?

画像3

▲『10歳からのおもしろ!フェルミ推定』にも、大好きになってもらうポイントが満載です。

小田:
親の悩みとして、興味をせっかく持ってくれた子どもをもっと伸ばしたいとか、算数を大好きになってもらいたいと思っている方も多いと思います。子どもをさらに伸ばす秘訣があれば、ぜひ教えてください。

横山:
土台は、「子どもに寄り添う」ということです。どんな手段をとるにしろ、「押しつけ」は子どもが受動的になり、興味の芽を摘み取ってしまいます。「その子にとって一番いいペース」というのを見抜くというのは大切ですね。
その上で、計算や演習の練習は、ほかの新しい算数・数学の知識を生かす・学ぶためにとても大切です。

それ以外にも、いろんなアンテナ・モチベーションを持ってもらうために、「子どもの興味・強みに寄り添う」ということが大切です。たとえば、自分で問題を作るのが好きという子に対して、一緒にそれをまとめてみようとか、親が試しに解いてみようとかですね。

人と話すのが好きだったらそれを誰かに出してみようとかでもいいですし。「その子が興味を持ったもの」と「その子の強み」を絡めてネクストアクションに導くというのはいい方法でしょう。

基礎能力を高めつつ、その子の特性を活かした次のアクションを提供することがポイントです。このようにして、算数に対するコミュニケーションの場をたくさん用意することがいいと思います。

小宮:
KUMONでも「ちょうどの学習」という考え方があります。「学年などに関係なく、その子にあったものを与えるのがポイント」というところが共通していると感じました。
強みに寄り添う」という視点も、胸に刺さりました。子どもの強みに寄り添った親子のやり取りを通じて、どんどん興味を引き出すことがポイントなんですね。

横山:
加えて、「おもしろい情報が沢山まとまっているところに導く」というのも手かと思います。たとえば、生物に興味がある子を動物園や博物館連れて行きますよね。算数も同じですね。

自分のレベルにあったものに取り組めるような学びの場――書店、図書館、科学館など情報がぎゅっと詰まっているような場所――をうまく活用することも選択肢として持っておくのは大事ですね。

小田:
興味を持った子にそういう場所を提供すると、よりエネルギーが湧くイメージがつきますね。横山さんが開いている学びの場、「math channel」もそのような場所なんですね。

横山:
弊社も目指しています。弊社に授業を受けに来る子たちの中には、某テーマパークよりも弊社の教室が好きという子もいます(笑)。授業に来るというよりは科学館に来るような感覚に近いという話を聞いて、すごく嬉しかったです。子どもたちは相当に興奮しているんでしょうね。

小宮:
勉強という言葉に収まらないですね。その子にとって、エンターテインメントなんですね。

横山:
僕たちの会社では、教育事業とエンタメ事業という2本の柱を立てていて、「算数×教育」と「算数×エンタメ」がキーワードです。科学館とかでもイベント開催していますし、まさに書籍もひとつのエンタメだと思っています。

子どもが算数を好きになってくれないときはどうする?

小田:
逆に、「あの手この手を尽くしているのに、子どもがなかなか算数を好きになってくれない」という悩みを持つ大人もいると思いますが、いかがですか。

横山:
僕もよく相談されます。よくよくお話を聞くと、「親のほうが慌ててしまっている」というケースが多いですね。共通しているのは、「子どもの苦手な部分に目が行きがち」なところです。

そんな親には、その子の良さを伝えてあげること、少なくとも僕たちはその子の良さを見つけていますよということをお伝えしています。そんな風に目線を広げてあげると、親と子どもとのコミュニケーションが違った形で行われ、課題が明確になったり、状況が好転したりすることはあります。

小宮:
いまの横山さんのお話が、ある小学校の校長先生の話とリンクしています(「思考力・判断力・表現力を鍛える『活用型学習』について、校長先生に聞いてみた」)。その校長先生も同じようなことをおっしゃっていました。

悩みを持つ親は、周りの子と比較してしまったり、苦手の部分に目が行ってしまったりしていて、「できることが当然」と思い込んでいることもあると聞きました。

横山:
人間は「知りたいと思う、知れたときにそれを楽しいと思う生き物」だと思っています。この特長を強く持つのは人間しかいないですし、文化が発展した要因のひとつとも感じています。子どもには、「好奇心」というタネは眠っているということを信じてみるのも大切かもしれません。『10歳からのおもしろ!フェルミ推定』もそんな好奇心のタネが芽吹く本になっていると思います。

『10歳からのおもしろ!フェルミ推定』のこだわりポイントを教えてください!

画像4

小宮:
本書は、「子どもたちに楽しんでもらえる本」という切り口でありつつ、算数の枠を超えた書籍だとも思いますが、フェルミ推定について簡単にお話しいただけますか?

横山:
誰も正確な答えを知らない・調べてもわからない数について、自分の知っている情報をもとに考えて、「これくらい!」というざっくりした答えを出すものです。

小宮:
フェルミ推定と聞くと、企業の採用試験で使われるイメージがありました。ですから、「10歳から」というタイトルに驚きました。

横山:
僕は、もともと大人向けにもフェルミ推定を紹介する講座を持っていました。大人は、ざっくりでもいいから根拠となる数字を持ってきて概算するという機会も多いですよね。
そのような場では、あえてすごく遊び心がある問題を扱っていました。「コンビニの1日の売上はいくらか?」のようなよくある問題ではなく、「いまこの瞬間、地球からジャンプしている人は何人か?」といった気軽な問題です。

そんな中、参加する方々が子ども向けの話にも興味を持ったり、子ども自身も参加したりすることも増えてきました。
子どもは「おもしろいからやる」というところが根本にあるなと思っています。「必要性」より「好奇心」という子どもの行動原理と、「フェルミ推定」は親和性が高いと実感していました。そんな経験がこの本ができたきっかけでした。

10歳というラインについては、四則演算に対し、ある程度知識がある状態のほうがフェルミ推定を楽しめるのではないかと考えて決めました。もちろん、ひとつの目安ですので、絶対「10歳から」というものではありません。

小宮:
好奇心が子どもの行動原理という部分、じつはわたしの3歳の息子も一緒にオンラインイベントを視聴していたのですが……

画像5

▲視聴のようす。授業にかぶりついています。

横山:えー!すごい!

小宮:
もちろん、詳しくは理解していませんが、「うんこ」のフェルミ推定
を紹介しているところで、「なんだなんだ」と画面に食いつき、そのまま横山先生の話を聞いていました……
子どもは「好奇心」があれば、大人の枠を超えてどんどんどんどん進むんだなということを、まさに実感しました。

本書の問題のアイディアも、何十問も作られて、その中から1問1問慎重に検討して問題を絞り込んだと聞きました。子どもが夢中になる問題づくりも本書のポイントでしょうか。

画像6

▲厳選された20問(『10歳からのおもしろ!フェルミ推定』 目次より)

横山:
そうですね、1番時間をかけたのはここです。小田さん、大変でしたね(笑)。

小田:
そうですね(笑)。
横山さんは「子どもが、しっかり興味を持ってくれるか」「わかりやすいか」「算数の学びもしっかり入っているか」という観点で、わたしは「書籍にしやすいか」「文章にしやすいか」という観点で見ていったので、かなりふるいにかけられました。

横山:
子どもが興味を持つポイントは、大前提として、「問題が子どもの疑問とマッチするか」です。そして、「算数の知識がちゃんと活かされていくんだ」という体験ができるかどうかです。

この観点から見ると、本書は「算数を学ぶ」というよりは「算数を活用する」題材のひとつです。子どもたちは、「ああ、算数は役に立つんだ」という実感を持てます。その結果、次の問題にも意欲的に取り組める全体設計にしています。

小宮:
さきほどの話では、「子どもたちが自分で気づく」ことが、ポイントでしたね。「自分たちが学校で習っていることが使える」という気づきは、それだけで衝撃というか喜びで、なかなか日常で実感できる機会は作りづらいと思いますが、そんな気づきを与えてあげられる本なんですね。

横山:
まさにその通りです。

この本を使って子どもの興味を引き出す方法

画像7

▲子どもの興味を引き出す問いと対話形式でフェルミ推定を楽しめます。

小宮:
横山さんの思いが詰まったこの本、お薦めの読み方はありますか?

横山:
家族との会話に反映されていくといいなと思っていますね。もちろん、ざっと全部読んでもらうのもいいんですが、問題に似た日常の話題を絡めていただけると、お子さまはより楽しめると思います。
たとえば本書に、「問題03 給食のスパゲティ、全校生徒分つなげた長さは?」があります。「家にある鉛筆を、全部繋げた長さは?」のような投げかけをしていただくといった形です。
自分で考える機会を、本を通して──本の中の問題でも、本以外の問題でも──作ってほしいなと思いますね。

小田:
この本を読んだお子さまからは、「あれはどうなんだろう、これはどうなんだろう」という発信が沢山されそうですね。それを拾って、やり取りするととても楽しいと思います。

横山:
そうですね、すでに「こういうものを推定しました」という声はいただいています。

小宮:
自分も本書を読んだ後に、地球温暖化について、「フェルミ推定のアンテナ」に引っ掛かりました
メタンガスは、二酸化炭素の次に地球温暖化に影響しているようですが、実はそのメタンガスを出しているのが家畜の牛や羊のゲップだというものです。
これ、フェルミ推定で量を出せるんじゃないかと思いました。フェルミ推定の視点から、そういう記事も読めて、疑問を持てるようにもなって、大人でも楽しいと思いました。

横山:
SDGsの観点とも、親和性が高いと思っています。
オンライン刊行イベントで、「日本人は割りばしをどれくらい使うのか?」という問題を出しました。環境問題とか、世の中の貧困問題とか、そういったものを考えるための数的根拠を概算する上で、このフェルミ推定は役に立ちます。
この切り口で、SDGsというワードに絡めてフェルミ推定を広げていけるのではないかと、社内でも話しています。

小田:
学校の授業でも使えそうですね。割りばしの年間使用量を単にそのまま示すより、自分でフェルミ推定を使って計算するほうが、使用に関する実感が生まれると思います。ぜひ学校の先生にも読んでいただきたいですね。

子どもが算数大好きになるための一番のポイントはこれだ!

画像8

小宮:
最後に、子どもに算数・数学を楽しんでもらいたい保護者の方や、教職者の方にメッセージをお願いします。

横山:
僕が一貫して言っているのは、「楽しむことが大切」ということです。それにはお父さん、お母さん、大人の方も楽しめることが大事です。

その楽しみ方に対して、僕が指定するつもりはありません。まず、大人が「これっておもしろいな」と思うポイントを見つけてほしいと思います。

同じく、「子どもに押しつける必要はない」というのもポイントです。自分たちが楽しんでいる姿を見せて、子どもが興味を示すようなら、「やってみる?」というふうに聞くといったイメージです。

まずは大人が楽しむ、そんなことを意識してほしいなと思っています。
楽しんでいる人から聞く話は、楽しさが伝わりやすいんです。

これは僕が1番大事にしていることです。もし、僕の発信から「算数って楽しいな」と思っていただけたら、ご自身が存分に楽しみ、子どもに伝えてほしいと思っています。


横山明日希さん
早稲田大学大学院数学応用数理専攻修了。幼児から大人まで幅広く算数・数学の楽しさを伝える「数学のお兄さん」。「“体験”を通して算数・数学をもっと身近な学びに」を理念に掲げる算数・数学コンテンツ企画・制作会社math channel代表取締役。日本お笑い数学協会副会
長。公益財団法人日本数学検定協会認定幼児さんすうシニアインストラクター。『笑う数学』(KADOKAWA)、『理数センスが育つ・算数王パズル』(小学館)、『算数脳をつくる・かずそろえ計算カードパズル』(幻冬舎)など、著書・共著書10冊以上。


『10歳からのおもしろ!フェルミ推定』 の詳細はこちら

画像9