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夏休み。「感染症がある社会で生きる」ために、子どもと一緒に考えていきたいこと。

 2022年度を迎え、感染状況も落ち着いたかのように見えたのも束の間、7月27日には全国で新型コロナウイルスへの新たな感染者が20万9000人を超え、過去最多を更新しました。

 一方、子どもたちも夏休みに入り、ニュース等で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の情報に触れたり、家族で話題になったりする機会が増えていると考えられます。

 報道に過度に不安になるのではなく、親子で一緒に考えるきっかけにするために、どんなことが重要なのでしょうか。『みんなはどう思う? 感染症』(堀川晃菜 著、2022年6月刊)の監修の先生にも第7波についてコメントをいただきながら、お伝えします。

※本稿は『みんなはどう思う? 感染症』の第3章「問3 感染症の報道の仕方って、問題ある?ない?」を保護者向けに再構成したものです。

●事実はゆがめられていることも

 例えば、わたしたちがテストの点数を気にするように、テレビ局は視聴率を気にします。ときには多くの人の注意を引くために、誰かを傷つけるような過激な言葉を使ったり、不適切なグラフを作成したりするなどの過剰な演出で、事実をゆがめて伝えることが問題になることがあります。それが、感染症を伝えるときにも起こりうるのです。

 以前、COVID-19に関する内容のテレビ番組では、取材を受けた医師が、実際には「PCR検査をいたずらに増やすべきではない」とコメントしたにもかかわらず、放送では「PCR検査を増やすべき」と真逆に見えるように編集されたことが問題となりました。

 専門家にもいろいろな意見の人がいます。1つの意見だけが正しいわけではありません。それなのに、「増やすべき」という意見がほしかったテレビ局が、自分たちの都合のよいように編集してしまったようです。

●それって事実、それとも意見?

 テレビに登場するコメンテーターは、専門家や芸能人など、いろいろな立場の人が登場し、意見を述べています。その際、本当にあったことや誰もが確かめられる「事実」と、その人の思ったことや考えである「意見」が発言の中に混ざっています。
 そもそも、コメンテーターを誰にするかを決めているのは番組をつくる人たちです。誰を選ぶかを決める時点で、少なからず番組をつくる側の考えが反映されていることも念頭においておきましょう。

 また、われわれ大人が、子どもたちにその情報を伝えるときも「~なんだって」「~らしいよ」と言ってしまうと、どこまでが事実で、どこまでが誰かの意見なのかが、曖昧になってしまいます。情報を受け取るときも、伝えるときも、事実と意見の区別を心がけたいですね。

●「それ、ほんと?」とツッコんでみる

 情報に流されないためには、「それ、ほんと?」「他の見方は?」というツッコミが大事です。
 例えば、感染症については「新規感染者は何人です」と報じられます。でも、感染の拡大に検査が追いつかない状況では、検査を受けられない人が多くいます。一方で、だんだん検査数が増えてくると、陽性者も増えます。だから、新たな陽性者の数だけを比べるのではなく、検査を受けた人のうち、どのくらいが陽性になったのかを示めす「検査陽性率」も確認したほうが、より全体の状況を把握できます。
 
 このように1つの指標ではなく、複数の指標から物事をとらえること、そして、1つのテレビ番組や新聞、SNSに頼らず、あえて、いつもとは違ところから情報を集めること。こういったことが大切です。
(本書95ページ~98ページより)

☆くもん出版公式noteでは、監修の小泉周(こいずみ あまね)医師に現在の状況をお聞きしました。

 日本の第6波までは、BA.1系統が主流でしたが、世界の流行は現在BA.4やBA.5が主流になっています。
 本書の監修者の一人、小泉周医師は変異株BA.5について、このようにおっしゃっていました。

『BA.5は、現在、世界各国で主流となっているオミクロン株の亜型の変異株です。これまでのオミクロン株よりも、より広がりやすく、日本でも、BA.5に置き換わることによって感染が急速に広がっています。一方、症状としては普通のカゼ症状と思われるものが主となっており、重症化のリスクは、高くはなっていないと考えられています。
 ただ、BA.5については免疫回避が起こっているのではと言われており、これまでに感染した方やワクチンを打たれた方でも、BA.5に再感染する可能性があるので、注意が必要です。
 一方、これまでのワクチン接種によって、重症化は抑えられるとも考えられています。ウイルスそのものの感染の仕方が大きく変わっているわけではないので、油断せず、これまで通りの感染対策をとっていくことが肝要です。』


 日々の報道に過剰に反応しすぎるのではなく、情報の1つとしてとらえ、判断材料とするのにふさわしいのか冷静に検討すること。そして、複数の情報をもとに自分なりに考えていくことは、今後、お子さまにとって、とても大切です。この夏休みをそのきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
(本記事のデータは、2022年7月時点の情報をもとにしています。最新の情報にはご注意ください。)

堀川晃菜(ほりかわ あきな)
科学コミュニケーター、サイエンスライター。新潟県出身。長岡工業高等専門学校卒業後、東京工業大学生命理工学部に編入学。同大学大学院生命理工学研究科を修士修了。農薬・種苗メーカー、日本科学未来館勤務後、Web メディアの編集者を経て独立。著書に『化学技術者・研究者になるには』(ぺりかん社)他。監修に『どうなってるの? ウイルスと細菌』(ひさかたチャイルド)。

堀川さんの著書『みんなはどう思う?感染症 大人も悩む「正解のない問題」に挑戦』は大人でも答えをだすことが難しい問題に対して、問を立て、考える姿勢を引き出す本になっています。ぜひこの夏休み、親子で一緒にこの本を読み、考える機会にしてみてはいかがでしょうか。詳しくはこちら

(タイトル写真:ピクスタ)