運命を紡ぐ三つの星:ヴィタリス、エルデリア、ユウキヨの物語 第14章

森の中、蒼汰とアリアーナはテラクロスへ向かっていた。あたりは静かで、風が木々を揺らす音と、鳥たちのさえずりが聞こえるだけだった。2人はこれからの計画を練り、日々の生活で集めた情報を整理していた。突然だった。前方から、悲鳴が響いた。蒼汰はアリアーナに警戒するように言った。「アリアーナ、あっちだ。慎重に進もう。」

2人はその音の方向へと進み、やがて目に入ったのは、1匹の巨大なオオカミ型の魔物、フェンリルと戦っているエルフの少女だった。
彼女の目は恐怖と混乱に満ち、助けを求めていた。フェンリルは強そうだったが、この子を助けるためには、蒼汰とアリアーナにも何かできるはずだ。
蒼汰は手にした星光に魔力を込め、フェンリルを狙った。「アリアーナ、少女を守って。俺がフェンリルに対処する。」彼女は頷き、少女の元へと走っていった。
フェンリルを見据え、蒼汰は星光から魔力を放つ。魔弾がフェンリルに突き刺さった。だが、フェンリルは倒れず、怒りに満ちた目で蒼汰を見つめた。

蒼汰とアリアーナの出会ったフェンリルは、その名の通り、恐ろしい大きさのオオカミ型魔物だった。その巨体は暗闇から突如現れ、獰猛な目つきで2人を見据えていた。
「アリアーナ、少女を守って。俺がフェンリルに対処する。」
アリアーナは蒼汰の言葉に頷き、敵と友を見定めるように一瞥してから、エルフの少女の元へと駆け寄った。蒼汰はフェンリルに向けて星光の魔力を一直線に放った。魔弾はフェンリルに突き刺さったが、それによってフェンリルが倒れることはなかった。

フェンリルは蒼汰に向けて大きな口を開け、凄まじい威力の炎を吹きつけた。「炎弾」だ。しかし、蒼汰はフェンリルの動きを予想していて、その場から一瞬で離れた。
しかし、蒼汰の頭には疑問が浮かんでいた。フェンリルに対する魔弾の効果が今のところ見られなかった。それは彼の力が足りないのか、それともフェンリルが何らかの特殊な防御能力を持っているのか。
「アリアーナ、少女は大丈夫か?」
彼は一瞬だけ戦場から目を離し、アリアーナの方向を見た。彼女はエルフの少女を腕に抱きかかえ、木々の間に身を隠していた。
「問題ないわ、蒼汰!」
アリアーナは少女を守るために全力を尽くしていた。その返答に、蒼汰はほっとした。彼女たちは安全だ。だから、自分は全力でフェンリルと向き合うことができる。
フェンリルが再び蒼汰に向かって突進してきた。そのまま突っ込んでくるなら、星光で撃てばいい。しかし、前回のフェンリルの突進を見て、蒼汰はその動きを予想できた。
「今だ!」
彼は星光を構え、フェンリルの突進を予測した地点に向けて魔弾を放った。フェンリルの動きは予想通り、魔弾はその大きな体に当たった。
だが、フェンリルはその攻撃をまるで気にしていないかのように、蒼汰に向けてその大口を開け、炎弾を吹きつけた。
「避けるぞ!」
蒼汰はすぐに反応し、炎弾の射程から逃れるために身をひねった。炎弾は彼の脇をかすめ、森の木々を焼き尽くした。
戦闘は続いた。しかし、蒼汰はだんだんとフェンリルの動きに対する理解を深めていた。そして、次の一手を考え始めた。

「私がまずはフェンリルを拘束するわ。それが成功したらすぐに攻撃して!」アリアーナは蒼汰に声をかけると、自身が熟練する三つの魔法の中から一つ、水の魔法を選んだ。
「水精霊よ、我が呼び声に応えて!」アリアーナの言葉と共に、彼女のまわりには青く澄んだ水の粒子が集まり始めた。それは次第に大きな渦を形成し、その渦はフェンリルの足元に向けて放たれる。
フェンリルは驚きと苛立ちで吠えた。巨大な体を動かそうとするが、水の鎖は確実にフェンリルを地面に繋ぎ止めていた。
「今だ!」アリアーナの声が響くと、蒼汰は「星光」を構え、フェンリルの弱点を狙った。銃身から放たれる星のように明るい弾丸が、フェンリルの目を直撃した。フェンリルは苦痛の声を上げ、一瞬だけ動きを止める。
しかし、その一瞬は蒼汰にとって十分だった。次の弾を装填し、今度はフェンリルの他の目を狙った。「星光」の銃声が鳴り響き、もう一つの弾丸がフェンリルに突き刺さった。
フェンリルは怒りに満ちた声を上げ、水の拘束から脱しようとする。アリアーナは次の魔法、風の魔法を用いてフェンリルの視界を奪おうとした。
「風精霊よ、私の願いを叶えて!」彼女の手から放たれる強風がフェンリルを包み、視界を白一色に塗りつぶす。フェンリルは視界を奪われ、混乱し始める。それでも、その野獣の本能は蒼汰とアリアーナの存在を感じ取り、彼らに向かって暴れ始める。

蒼汰は、アリアーナがフェンリルの注意を引いている間に、次の攻撃を準備する。「星光」の銃身は長く、遠くのターゲットにも正確に狙いをつけることができた。しかし、目を失ったフェンリルの動きは予測が難しく、蒼汰は完全なる一撃を放つのに時間を要した。
その間、アリアーナはフェンリルの注意を引くために火の魔法を発動した。「火精霊よ、私の命令に従え!」彼女の指先から放たれた火花は地面を走り、フェンリルの足元に炎の壁を作り上げた。フェンリルは熱さを感じて後退し、蒼汰とアリアーナから一時的に距離をとった。
「蒼汰、準備はいい?」アリアーナが問いかける。蒼汰は頷き、再びフェンリルを狙い定めた。だが、その瞬間、フェンリルは身を震わせ、鋭い爪で地面を掻きむしると、炎の壁に突進してきた。その巨大な身体は炎の壁を吹き飛ばし、猛然と蒼汰とアリアーナに迫ってきた。

蒼汰はすぐさま引き金を引いた。弾丸はフェンリルの頭部を直撃し、一瞬、その巨体が後退する。しかし、それでもフェンリルは彼らに向かって進み続けた。
「星光」の銃声が再び響き、その弾丸がフェンリルの心臓部を突き刺す。フェンリルは一瞬動きを止め、深いうめき声を上げた。しかし、まだ倒れる様子はない。
「蒼汰!もう一発!」アリアーナの声に蒼汰は応えるように再び引き金を引いた。その瞬間、フェンリルの巨体は地面に崩れ落ちた。弾丸は正確に心臓部に突き刺さり、フェンリルの動きを完全に止めた。
ついに静けさが戻り、蒼汰とアリアーナは安堵の息を吐き出した。しかし、彼らの戦いはこれで終わったわけではなかった。エルフの女の子がまだ危険な状況にあることを忘れてはいけなかった。彼らは再び立ち上がり、女の子を救出するために走り出した。

彼らがフェンリルを倒し、魔物から解放されたエルフの少女は、驚きと敬意をもって蒼汰とアリアーナを見つめていた。美しい翠色の瞳で、少女はお辞儀をして2人に感謝の言葉を述べた。
「ありがとう、勇者さまたち。わたしの名前はリリアナ。この命、あなた方に救われました。」
アリアーナは微笑んで答えた。「我々も助けられたのは君だよ、リリアナ。我々はただ通りがかった旅人だ。君はどこから来たの?」
リリアナは彼女の質問に答え、自分がエルフの村、シルバーグローブから来たと語った。フェンリルに襲われる前に、彼女は森の中で薬草を集めていたのだという。
彼女の話を聞いた蒼汰とアリアーナは、リリアナが一人で森に出ていた事実に驚いた。「エルフの村…シルバーグローブはこの近くにあるの?」蒼汰がリリアナに尋ねると、彼女は頷いた。
「はい、この森を抜けた先にあります。私たちエルフの住む場所です。」
その時、蒼汰とアリアーナは、リリアナに案内してもらい、エルフの村、シルバーグローブを訪れることに決めた。それは彼らがこの世界で見たことのない新たな風景を見る好奇心からでもあり、そしてもし村に魔物の影響が及んでいるのなら、彼らの力で何か助けられるかもしれないと考えたからだった。
三人は森を抜け、リリアナの案内でシルバーグローブに到着した。見渡す限り、大樹の間に建つエルフの家々が広がっており、木々の間から漏れる光がその村を神秘的な輝きで包んでいた。新たな冒険が、蒼汰とアリアーナを待っている。

「エルデン村長、この辺りにフェンリルが現れるなんて珍しいですよね?」蒼汰が尋ねる。
「確かにそうだ。近頃、村の周囲で魔物の数が増えてきている。多くの村人がそれに困っている。」村長は深刻そうに言った。
「それはなぜなんですか?」蒼汰が更に詰め寄る。
「私たちも詳しくはわからない。しかし、村の近くに突如として現れたダンジョンが何か関係しているのかもしれない。」エルデンはうつむき、しっかりとした口調で答えた。
ダンジョン。それは通常、魔物の巣窟であり、その中には財宝や強大な力が眠っていると言われている。しかし、それらのダンジョンは長い時間をかけて自然に形成されるものだ。一夜にして出現するなど、非常に異例の事態だ。
「そのダンジョンはどのようなものなんですか?」
エルデンは少し考えた後、答えた。「それは深い森の中にある。外観は古代の神殿のようだが、中には強力な魔物が溢れている。それが原因で、近くの魔物たちが異常な活動を始めたようだ。特に夜間、彼らの活動は活発になる。」
この状況が続けば、村人たちはますます苦労するだろう。さらに、そのダンジョンから出てくる魔物たちは、他の地域へと広がり、更なる混乱を引き起こす可能性がある。
「それならば、私たちがそのダンジョンを探索し、問題を解決するのはどう?」アリアーナが提案する。エルデンは彼女の提案に少し驚いたようだが、すぐに納得の表情を浮かべた。
「それが可能ならば、ありがたい。しかし、そのダンジョンは危険だ。あなたたちが無事でいてくれることが、私たちにとって最も重要なことだ。」


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