運命を紡ぐ三つの星:ヴィタリス、エルデリア、ユウキヨの物語 第15章

古代の神殿、その名は「セラフィンの秘密」。壁には細工が施され、薄暗い灯火が古代の神々への崇拝を物語っていた。彼らが進むにつれ、古代の神殿がその秘密を少しずつ明かしていくようだった。

蒼汰とアリアーナは、謎解きや試練を解きながら、時折小さな休息を挟みながら前進していった。それは彼らの信頼関係が試されるような場面もあり、また、それぞれの長所を活かして協力しなければならない状況も多かった。
「アリアーナ、あの壁の紋様、何か分かるか?」蒼汰が一つの壁画を指差した。
アリアーナはじっくりと壁画を見つめた。「これは……古代エルフ語だわ。なんとか読み解くことができるかもしれない。少し時間をください。」彼女は真剣な顔で壁画に向き合った。
蒼汰は彼女をじっと見つめていた。彼はアリアーナのことを家族同然に思っていた。しかし、彼女が集中して何かをする様子、その美しさ、その姿勢、その瞳は、彼が彼女を女性として意識するのを助けていた。(彼女は奴隷だ。でも、彼女は確かに美しい。それに、彼女は僕を尊重してくれている。しかし、僕は彼女を家族以上の存在として見ることができるだろうか?)
「蒼汰さん、見つけたわ。」アリアーナの声が蒼汰の思考を中断させた。彼女は壁画の一部を指差しながら、その内容を解説した。「ここには……『光の子が来るとき、試練を乗り越えし者は真の力を手に入れるであろう。』と書かれています。」

アリアーナと蒼汰が古代の神殿を進むにつれ、空気はさらに濃厚な魔力で満ちていった。しかし、それは二人にとって悪いことばかりではなかった。アリアーナはその魔力を吸収し、自身の魔法に繋げることができたのだ。
「蒼汰さん、この神殿、すごく強い魔力があるわ。ここには何か重要なものがあるはずよ。」アリアーナが神殿の壁に手を当てながら言った。その目には確信と興奮が宿っていた。
「そうか?でも、それが何かはまだ分からないな。」蒼汰は言いつつ、アリアーナの目の光を見つめた。彼女は一体どうやって古代エルフ語を読むことができたのだろうか?彼女の家族はかつてエルフと何か関係があったのだろうか?
アリアーナは蒼汰の疑問を読み取ると、微笑んで言った。「それは、うちの家系がエルフと深いつながりを持っていたからよ。古代エルフ語の知識も、その一部なの。」
そうか、彼女の家族はエルフとの深いつながりを持っていたんだ。だから古代エルフ語を知っている。
しかし、それだけで満足しきれず、更なる疑問が彼の心に浮かんだ。「それなら、どうしてお前が奴隷になっていたんだ?」

アリアーナは一瞬、顔色を変えた。しかしすぐに笑顔を取り戻し、蒼汰の目を見つめ返した。「それは…また別の機会に話すわ。今は神殿の探索が先よ。」
アリアーナの過去。それはまだ蒼汰には全てが明らかになっていなかった。
蒼汰とアリアーナは古代の神殿の奥深くへと進み続けた。回廊に響く、彼らの足音だけが静寂を破っていた。大きな扉、高くそびえ立つ柱、壁に刻まれた象形文字、どれもこれも古代エルフ文化の謎を秘めていた。
「アリアーナ、そこに何かいる。」蒼汰が囁いた。その指先には、闇に紛れて見えないガーゴイルがいた。鋭い爪を隠し持ったその飛行タイプのモンスターは、物陰から突如飛び出し、獲物を驚かせるのを得意としていた。

(ここで戦うと、他のモンスターに気づかれてしまうかもしれない。油断できない...)蒼汰は一瞬、戦闘の選択を迷っていたが、アリアーナがすでに魔法の準備をしていた。彼女の掌からは静かに風の魔法が渦巻き、ガーゴイルに向かって放たれた。
戦闘が続く中、アンデッドスケルトンやミニマムゴーレムも彼らの道を阻むように出現した。アンデッドスケルトンは剣や盾を使う戦士型と魔法を使う魔法型がおり、ミニマムゴーレムは小さいながらも強固な防御力とパワフルな打撃が特徴で、戦闘は容易なものではなかった。

しかし、蒼汰とアリアーナは共に疲労や怪我を感じつつも、絶えず進んだ。彼らは思わずため息をつきながら、次の戦闘に備え、神殿のさらに奥へと進んだ。
「主人、そちら!壁の陰から影が…!」アリアーナの警告を受け、蒼汰はすぐさま星光を構えた。目の前から現れたのは、骨と黒いローブで形作られた異形の存在、ネクロマンサーロードだった。
「ネクロマンサーだと!?」彼の目は、その強大な魔力を感じ取り、一瞬で独特の感情が湧き上がった。(一筋縄ではいかない…)
「私が援護します、主人。」アリアーナは火の魔法を手に、後方から支援する体勢を整えた。
蒼汰は足元に意識を集中し、星光の引き金を引いた。しかし、ネクロマンサーロードはただそこに立っていて、古代エルフ語で何かを呟いていた。
その時、ネクロマンサーロードの周囲に骨が浮かび上がり、それらが組み合わさり、骸骨兵士たちが立ち上がった。
「くっ、まさか…アンデッドを!?」蒼汰の顔色が一層青ざめた。
「アリアーナ!これは大変だ!」蒼汰が叫んだ瞬間、アリアーナは強力な火の魔法を骸骨兵士たちに放った。しかし、ネクロマンサーロードは古代エルフ語を呟き続け、そのたびに新たな骸骨兵士が立ち上がる。
しかし、アリアーナと村人たちのためにも、新たな決意で星光を構え直した。「くそっ、まだまだだ!」そう言いながら、蒼汰は再び星光の引き金を引いた。

蒼汰は銃をネクロマンサーロードに向けて構えた。
一方、アリアーナは火の魔法を駆使し、ネクロマンサーロードに呼び出された無数のスケルトンたちと戦っていた。
彼女の心は冷静で、その瞳には焔の熱さだけが映っている。
「燃えろ!」アリアーナの口からは命令のような呟きが洩れ、その言葉と共に彼女の手から放たれる火の球はスケルトンたちに向かって飛び、接触した瞬間には爆発する。
一つ一つのスケルトンを焼き払い、戦場の均衡を彼らの手に戻そうと彼女は闘い続ける。スケルトンたちの数が多ければ多いほど、アリアーナの魔法の炎は更に強く、更に激しく燃え上がる。
蒼汰の射撃とアリアーナの火の魔法、二つの力が闘いの中心に交錯し、彼らはネクロマンサーロードとその不死の軍勢に立ち向かう。
蒼汰は、一心不乱に銃を撃ち続けていた。しかし、その間隙を狙ったネクロマンサーロードの一撃が彼に襲いかかった。その黒い魔力の一撃は彼の肩を直撃し、蒼汰はその痛みに顔を歪め、ひざまずいてしまった。
蒼汰は痛みを堪えて息を切らせながら、自分の傷を見つめる。それは深く、また致命的ではないものの、それは彼の行動を大いに制限するだろう。
アリアーナはその様子を見て、すぐに反応した。「蒼汰!」「大丈夫だ、アリアーナ。」と、彼は強がる。しかし、彼女は彼がどれほど苦しんでいるかを理解していた。
彼女は彼の痛みを和らげ、彼の体力を少しでも回復させるために、水の回復魔法を唱え始める。彼女の声は静かで穏やかで、その魔法の言葉が空気を震わせ、青い光と共に蒼汰の傷に吸い込まれていく。
しかし、その一方で、彼らはさらなる危機に直面していた。アリアーナが蒼汰の治療に専念している間、スケルトンたちが彼らを取り囲む形に移動していたのだ。
スケルトンたちは、その骨格の手で武器を振り回し、彼らを包囲していた。それぞれの動きはコーディネートされており、ネクロマンサーロードの命令に従っている。
蒼汰とアリアーナの2人は、背中合わせに立ち、両手に武器を握りしめ、必死の表情で周囲のスケルトンたちを睨みつけた。

その時、突如としてアリアーナの身体が光に包まれた。彼女の目が開いたとき、その瞳には新たな力が宿っていた。
彼女は自分が何をすべきか、何をすることができるかを知っていた。その心の中には明確な答えがあり、それは新たな力、新たな魔法の形を形成していた。それは神聖魔法、スケルトンやネクロマンサーロードに対して特別な効果を持つ力だった。
彼女は蒼汰に向かって言った。「蒼汰、信じて。私たちはこれから戦い抜くのよ。」その声は力強く、確信に満ちていた。
彼女が手を広げると、白い光が手から放たれ、周囲のスケルトンたちに向かって飛んでいった。その光はスケルトンたちを貫き、一つ一つが砕け散っていった。
スケルトンたちは一瞬で灰になって風に飛ばされ、ネクロマンサーロードの掌から逃れた。
ネクロマンサーロードはアリアーナの新たな力に驚愕した表情を見せた。「何てことだ... そんな力が...」
「この力で、私たちはあなたを倒す!」アリアーナの声は堂々としていて、その目は固い決意で輝いていた。
蒼汰もまた、その光景を見て元気を取り戻し、星光を手に取った。アリアーナの新たな力を信じ、そして自分の力を信じ、彼は再びネクロマンサーロードに立ち向かう準備をした。

蒼汰は星光を見つめて、深呼吸をした。その目には確固たる決意が宿っていた。彼の頭の中には、一つの思いが鮮明に浮かんでいた。それは、"星光閃"を放つというものだ。
星光閃... それは星光の全てを解き放つ、最大の力だ。だが、それは同時に大きな代償を伴う。放った後、一時的に魔力を使えなくなる。だから、これは最後の一撃、確実に命中させなければならない一撃だ。

彼はアリアーナに向けて、決意を込めた視線を送った。「アリアーナ、援護を頼む。」
アリアーナは、蒼汰の言葉を聞いて頷き、「了解」と返答した。彼女は身体全体から神聖な光を放ち、その光をネクロマンサーロードに向けて繰り出した。
ネクロマンサーロードは彼女の攻撃に対して防御を固めた。しかし、アリアーナの魔法は想像以上の力を秘めていた。彼女の魔法が彼に直撃すると、彼の姿は一瞬で消えた。
その間隙を見逃さなかったのは、蒼汰だった。彼は星光を満載し、銃口をネクロマンサーロードに向けた。「これで、終わりだ!」

その瞬間、星光からは絶大な光が放たれた。その光は一直線に飛んでいき、ネクロマンサーロードに直撃した。
同時に、アリアーナも神聖魔法をネクロマンサーロードに放った。「これで、おしまいよ!」
二つの力が一点に集中し、爆発的なエネルギーが解放された。ネクロマンサーロードの姿は、その強大な光の中に消えていった。

戦いが終わった後、蒼汰とアリアーナはネクロマンサーロードの落としたアイテムや遺した魔法の残滓を調べていた。突如として現れたダンジョンとモンスターたちの存在。その全ての謎が、ここにあるはずだと信じて。
「見つけた、蒼汰さん?」アリアーナが声をかける。蒼汰は無言で頷き、アリアーナに見せるために一つのアイテムを持ち上げた。

それは、黒く深淵を思わせるような宝石だった。宝石は不気味な光を放っていて、ただ見ているだけで何かを引き寄せる力があるような気がした。
(この宝石...それはまるでダンジョンそのもののようだ。そして、その中には強大な魔力が秘められている。)
「これが、全ての原因だったのか...」蒼汰がつぶやいた。アリアーナは、黙って頷いた。
「この宝石、ネクロマンサーロードが持っていたものよ。多分、これが彼の力を増幅させ、ダンジョンを作り出し、モンスターを呼び出す原動力だったのだと思う。」
蒼汰は、宝石をじっと見つめていた。「だとすれば、これをどうすればいいんだ?」
アリアーナは考え込んだ。「それは...わからない。でも、一つ確かなことがあるわ。このまま放っておいてはいけない。」

蒼汰は、宝石を手にしながら頭の中を駆け巡る記憶を整理し始めた。「知識の吸収」の力により、彼は一度読んだ本や情報を鮮明に記憶することができた。
蒼汰の頭の中には、数え切れないほどの知識や記憶が溢れていた。その中から彼が探し出したのは、かつてレムニアの図書館で見つけた一冊の古い文献だった。その中に記されていたのは、この黒い宝石に関する記述だ。
それは、あらゆる時代に突如として現れ、災厄をもたらすとされる黒い宝石...闇の軍団が必ず関わっているとも書かれていた。
アリアーナが蒼汰を見つめる。「何か、思いついたの?」彼女の瞳には、深刻な状況を打開するための期待が宿っていた。
蒼汰は宝石を見つめたまま、ゆっくりと口を開いた。「アリアーナ、この宝石についての話を聞いたことがある。レムニアの図書館で見つけた文献に、これと似たような宝石が書かれていたんだ。それが...」
彼の言葉は、深刻な現状を打開する一縷の希望となり、アリアーナの心にしっかりと響いた。

蒼汰はアリアーナの瞳を直視した。「アリアーナ、これが闇の軍団と関わっているとしたら...」彼は言葉を一旦切り、再び深呼吸をした。
「それはつまり、ドラクシアの魔王アゾゴス...、それもしくは彼の手下が関与している可能性が高い。この黒い宝石が引き起こしている現象、そしてダンジョンの出現、モンスターの異常発生...全部、彼らの仕業かもしれない。」
冷たい静寂が二人を包み込んだ。
アリアーナの目は驚きで見開かれた。"ドラクシア"という名を聞くと、彼女の心はいつも不安と恐怖で一杯になった。ドラクシアという国は、大陸の北部に位置しており、その土地は荒涼とした山岳地帯と深い森林、そして広大な地下洞窟のネットワークに囲まれていた。永遠の夜が続き、高く輝く月が唯一の光源となっていた。そして、その国の中心部には、黒曜石でできた巨大な城が立っていた。そこからは魔王アゾゴスの力が溢れ出ており、ドラクシアの全ての生物に影響を及ぼしていた。
「でも、それが本当なら...」アリアーナの声は震えていた。「私たちには何もできないわ。魔王アゾゴスは強すぎる。」
蒼汰はアリアーナの手を握りしめた。「まだ絶対ではない。そして、私たちは一人じゃない。」

シルバーグローブへ戻った蒼汰とアリアーナは、村長のエルデンを訪ねた。村の中心部に位置するエルデンの家は、大きな樹木をくり抜いて作られていた。静謐な森の中で、その家は知識と叡智、そしてエルフの誇りを象徴するかのようにそびえ立っていた。
彼らがエルデンの前で黒い宝石のことを話し始めると、エルデンは真剣な表情で聞き入った。時折彼はうなずき、そして思索の表情を浮かべた。話を聞き終えると、エルデンは静かに言った。
「それは非常に深刻な問題だ。確かに、その黒い宝石が引き起こしている現象は、魔王アゾゴスとの関連性を強く示唆している。」
蒼汰とアリアーナはエルデンの言葉に緊張した表情を浮かべた。それは彼らの予想を裏付けるものだった。
エルデンは続けた。「アリアーナ、君が新たに覚醒した神聖魔法は、その宝石を浄化する可能性がある。」
アリアーナの瞳は驚きで広がった。「私が、その宝石を浄化できるのですか?」
「しかし、それには強い力が必要だ。そして失敗すれば、君自身に危険が及ぶ可能性もある。だからこそ、君がその決断をするべきだ。」エルデンの声は穏やかだったが、その中には深刻な警告が込められていた。
蒼汰はアリアーナを見つめ、彼女がその重大な選択を迫られる様子を見て、心の中で何度もアリアーナの安全を願った。そして、彼女がどの道を選ぶにせよ、彼は彼女を支え続けることを心に誓った。

「私がやります。私がこの宝石を浄化します。」
アリアーナの声は固く、その決意は揺るぎなかった。エルデンは彼女を長い間見つめ、最終的に頷いた。蒼汰は、同じく彼女の勇気に敬意を表し、力強く頷いた。
「ありがとう、アリアーナ。あなたの勇気には、本当に感謝しています。」エルデンの声は深く、重々しく響いた。
夜が訪れ、シルバーグローブの村は静かに眠りについた。しかし、蒼汰とアリアーナは二人だけ、まだ目覚めていた。
彼らはアリアーナの部屋で、互いに向き合って座っていた。部屋は暖かな木の香りに包まれ、幾つかの小さな魔法灯が穏やかな光を放っていた。アリアーナの目は蒼汰を真剣に見つめていた。
「蒼汰、私はあなたに何か伝えたいことがあります。」アリアーナの声は少し震えていたが、その中には固い決意が込められていた。

アリアーナは長い間沈黙を続け、その後ゆっくりと口を開いた。「蒼汰さん、私、浄化の儀式が怖いです。」
その瞬間、部屋の中に広がっていた静寂は、アリアーナの心の中に広がる恐怖と緊張によって、一層深く、重くなった。
彼女の瞳には明確な恐怖が浮かんでいた。そして、それは彼女自身が浄化の儀式に向けた期待と希望、そしてそれ以上に、自身の怖さを明確に認識していることを示していた。
しかし、彼女はそれを自分の中に閉じ込めることなく、彼に打ち明けた。それがアリアーナの強さだと蒼汰は思った。
彼は彼女の手をそっと握り、彼女の恐怖を共有することを選んだ。「アリアーナ、私がここにいる。君と一緒にいる。」彼の言葉は固く、揺るぎなかった。
彼の言葉は彼女の心に響き、彼女の恐怖を少しでも和らげるための励ましとなった。アリアーナは彼に感謝の微笑みを送り、深呼吸をして再び彼を見つめた。
「ありがとう、蒼汰さん。あなたがそばにいてくれること、それが私の一番の力になります。」彼女の声はまだ震えていたが、その中には新たな決意が宿っていた。

アリアーナは突然笑顔を見せ、ふと口を開いた。「蒼汰さん、成功したら、ご褒美が欲しいな。」
その言葉に蒼汰は驚き、彼女を見つめた。彼女の瞳にはいつもの温かさと、ある種の期待が見えた。
蒼汰は彼女の表情をじっくりと観察した。その表情は少し恥ずかしそうだが、同時に何かを期待しているようにも見えた。
「そうか、何が欲しい?」蒼汰は真剣に彼女を見つめた。彼女の瞳には明らかに何かがあった。それは彼女が何かを強く望んでいるという事実を物語っていた。

アリアーナの手は微かに震えていて、その瞳は不安と期待で輝いていた。火のように熱く、湖のように深いその瞳が蒼汰の心に響いた。
「アリアーナ、大丈夫か?」彼は心配そうに彼女を見つめながら問いかけた。
アリアーナは彼を見上げ、しっかりと頷いた。「大丈夫よ、蒼汰さん。ただ、少し緊張しているだけで……」彼女は言葉を途切れさせ、自分の手を見つめた。その手は彼女の心情を表しているかのように、まだ微かに震えていた。
蒼汰は彼女の手を取り、力強く握り返した。「大丈夫だ。どんなことがあっても、僕がここにいる。」
その言葉に、アリアーナの瞳は再び光を取り戻した。「ありがとう、蒼汰さん。」彼女は言って、彼の手をきゅっと握り返した。

ドアがノックされた。音を立ててドアが開き、金色の髪が月明かりできらきらと輝くエルフの少女がそこに立っていた。リリアナ・シルバーシャイン、シルバーグローブの一員であり、その美しい瞳は翠色の森を思わせた。
「すみません、邪魔していませんか?」リリアナが静かに訊ねた。彼女の声は、深い森の中に響く風のように、柔らかくて優しい音色だった。
蒼汰は笑顔で頭を振った。「大丈夫だよ、リリアナ。何か用事でも?」
彼女は頷き、蒼汰とアリアーナの方に歩み寄った。「実は、今日の昼間、フェンリルから私を助けてくれたお礼を言いに来たんです。」
彼女は心からの感謝をこめて深く頭を下げた。「本当に、どうもありがとうございました。」
蒼汰とアリアーナは少し驚いたが、すぐに笑顔を返した。「それは僕たちの務めだったんだ。無事で良かったよ、リリアナ。」蒼汰がそう言うと、リリアナはほっとしたように微笑んだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?