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サイレント・コネクション 第12章

国防省の庁舎に到着した八神篤史と音道貴仁たちは、臺灣民主共和国の国防大臣、林鵬飛(リン・ペンフェイ)と面会することになった。
林大臣は、臺灣民主共和国の安全保障と防衛力向上に尽力している人物であり、八神篤史とは意気投合しそうな雰囲気があった。

八神篤史は堂々とした態度で林鵬飛国防大臣にあいさつをし、自己紹介を行った。「林大臣、初めまして。日本の八神篤史と申します。今回は特使としてお邪魔しました。どうぞよろしくお願いいたします。」

その後、八神は音道貴仁、横山啓太、音道純礼を紹介する。「こちらは、高田重工業からお越しの音道貴仁さん、そして彼の同僚である横山啓太さんと音道純礼さんです。彼らは国防技術の専門家であり、私たちと協力して臺灣民主共和国の安全保障を強化するために参加しています。どうぞよろしくお願いいたします。」

林鵬飛は八神篤史と貴仁達に対し、感謝の意を示した。「八神さん、音道さん、横山さん、純礼さん、お越しいただきありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。」

その後、林は中華連邦のSTEAドローンの脅威について八神と認識を合わせるために会話を行った。「八神さん、最近の中華連邦のSTEAドローンの開発について、私たちも大変懸念しています。STEAドローンは、僚機を除くすべてをターゲットとして攻撃を行うタイプのドローン兵器で、無差別攻撃による多数の民間人死傷者が出る危険性があります。」

八神は同意を示し、続けて言った。「その通りです。中華連邦のSTEAドローンは、私たちの国家安全保障だけでなく、地域全体の平和と安定に対する脅威となっています。この問題への対処が急務だと考えています。」

「林大臣、私たちもこの問題に対処するために、天風というドローン航空機の開発を進めています。」

「天風は、高田重工業が保有するPT-RFID技術を搭載しており、高性能な遠隔操作が可能です。これにより、より正確で効率的な対STEAドローン戦闘が実現できます。また、高田重工業の技術力により、我々のドローンは敵のSTEAドローンに対して優位な立場を確保できるでしょう。」

「この天風ドローンは、STEAドローンの脅威に対抗するために開発されたもので、我々の国防力を大いに向上させることが期待されています。」八神は林鵬飛に向けて自信に満ちた表情を見せた。

林鵬飛は、「さらに、中華連邦が開発した鉄龍と疾風虎という兵器についても触れたいです。鉄龍は2足歩行型のロボット、疾風虎は四足歩行型のロボットです。日米臺灣の防衛体制は堅固ですが、鉄龍や疾風虎、そしてSTEAドローンといった危険性を抱えた兵器が存在していることには懸念を覚えます。中華連邦軍の上陸を阻止するには、我々は常に注意を払い、連携を強化していく必要があります」と語った。

八神篤史は、林鵬飛の懸念に対して自信満々に言葉を続けた。「林大臣、ご心配なく。我々の連携がさらに強化されることで、中華連邦軍の上陸阻止は確実だと断言できます。天風をはじめとした高性能な兵器や技術が、最前線で活躍することで、敵の脅威に対抗できると確信しています。」

その一方で、音道貴仁は八神の言葉に対し、心の中で不安を覚えた。
八神議員は確かに自信に満ちているが、果たしてそう簡単に敵を阻止できるだろうか。
中華連邦の兵器や戦術が進化していることを考慮すると、油断は禁物だ。
貴仁はその思いを胸に秘め、会議が進むのを見守った。
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面会が終わると、八神篤史は大統領府へ移動した。一方、音道貴仁、横山啓太、音道純礼の3人は国防省に残り、実務部隊のメンバーと対面することになった。参謀長の李瑞昌(リー・ルイチャン)、空軍の長官である黄文豪(ファン・ウェンハオ)、ドローン部隊長の陳建宇(チェン・ジェンユー)と次々と面会した。

まず、李瑞昌参謀長との挨拶の際、貴仁は「お会いできて光栄です、李瑞昌参謀長。これからよろしくお願いいたします」と言い、李も「音道さん、こちらこそよろしくお願いします。共同で問題解決に取り組みましょう」と返答した。落ち着いた雰囲気を持つ中年の男性で、彼の眼差しには冷静さと緻密な思考が感じられた。貴仁は彼が指導力に富んでいるだろうと感じ、まさに参謀長に相応しい人物だと思った。

続いて、黄文豪空軍長官と対面した際には、純礼が「黄文豪長官、はじめまして。我々の協力が実りあるものになることを願っています」と挨拶し、黄文豪も「音道純礼さん、初対面ですね。これからお互い協力し合い、中華連邦の脅威に立ち向かいましょう」と応じた。黄文豪空軍長官は、短髪に切り揃えられた髪型と整った顔立ちが印象的な男性であった。貴仁は彼からは若々しいエネルギーと向上心を感じ取り、空軍の要職にあるだけあって優れた人物だと思った。

最後に、陳建宇ドローン部隊長と面会し、啓太が「陳建宇部隊長、はじめまして。我々が提供する技術が、あなたの部隊の戦力向上に貢献できることを願っています」と言った。陳建宇は「横山啓太さん、お会いできてうれしいです。我々も音道貴仁さんたちの力を借りて、戦局を有利に進めたいと考えています。これからよろしくお願いします」と、期待に満ちた表情で応じた。陳建宇ドローン部隊長は、小柄で痩せた体型ながらも、その表情には意志の強さが感じられた。彼の瞳は機敏さと集中力に満ちており、貴仁は陳建宇がドローン部隊をしっかりと統率しているだろうと確信した。

挨拶が終わると、音道貴仁、横山啓太、音道純礼の3人は、ドローン部隊長の陳建宇と詳細の打合せを行った。貴仁たちは、天風の運用方法や訓練の方法、さらにPT-RFID技術の概要を陳建宇に説明した。

陳建宇は、臺灣民主共和国のドローンである「翔龍(シャンロン)」についても言及した。翔龍は、旧式であり性能は天風と比較しても劣ると貴仁は感じた。横山啓太も同じ印象を持っていたようだ。

純礼は、翔龍に対するPT-RFID技術の導入について提案した。
「翔龍にPT-RFID技術を導入することで、ミリメートルの100分の1の誤差で測位を行うデバイスが搭載され、ドローンの位置だけでなく姿勢や向きも計測できるようになります。」と純礼は説明した。
そして、「メッシュ型のPT-RFIDノードを各所に配置することで、遠隔操作性能が格段に向上します。」と続けた。

陳建宇は純礼の提案に興味を示し、じっくりと考えた後、「純礼さんの提案は非常に興味深いです。翔龍の性能向上は我々にとって重要な課題ですので、この提案を前向きに検討したいと思います。」と回答した。これにより、翔龍の性能が向上し、日米臺灣の防衛協力が一層強化される可能性が高まった。

続いて、陳建宇は中華連邦のSTEAドローンである雷鳴(レイミン)の性能について言及する。「雷鳴は、GPSを用いて航行し、見つけた者に対して攻撃するシンプルな仕組みです。」と陳建宇は説明した。さらに、「民間人を含めて友軍以外は無差別に攻撃するため、危険度が非常に高いです。」と付け加えた。

陳建宇はまた、「有事の際は、数千の雷鳴が飛来するとの予測があります。これに対処するためにも、天風や翔龍の性能向上が急務となっています。」と語り、日米臺灣の防衛協力が一層重要であることを強調した。

啓太が雷鳴への対策の概要を説明し始めた。「雷鳴のAIは、人や敵の兵器を見つけた場合は正確に攻撃することができるが、回避行動についてはそれほど柔軟ではありません。人が操縦し遠隔操作できる天風であれば一方的に撃破可能だと考えられます。」

陳建宇が尋ねる。「では、翔龍でも同様のことは可能なのでしょうか?」

啓太は首を横に振り、「難しいと思います。」と回答した。
「雷鳴にはPT-RFID技術が導入されていないことが大きな問題です。PT-RFID技術では、わずか数ミリ秒のラグで搭載されたカメラからの映像が届く上、突風などの外乱や急旋回時にも姿勢をシミュレーションと同等の動きに制御する仕組みがあります。しかし、雷鳴にはそれがありません。」

「つまり、回避行動を取る雷鳴を撃破するのは、翔龍では難しいということですね。」と陳建宇が理解を示す。啓太はうなずいた。

啓太は、鉄龍と疾風虎についての懸念も伝えた。「これらの兵器は、装甲が厚く天風の火力では撃破が難しいことに加え、建物や木の陰に隠れて行動することが可能なため、天風では分が悪いと言わざるを得ません。」

陳建宇はその事実を受け入れ、「確かに、臺灣民主共和国は海に囲まれており、中華連邦による地上兵器の投入は難しいと思われますが、それでも可能性を無視するわけにはいきません。我々はそのリスクに対処するための戦略を検討し、上層部に進言する必要があります」と述べた。

陳建宇は続いて訓練計画について話し合いを始めた。「我々は、ここ8か月間で4000人のドローン操縦技術者が必要だと考えています。まず最初の3か月でリーダークラスの100名に操縦を教育しましょう。そのうち1.5か月はシミュレーターで学び、残りの1.5か月で4000人への教育を行います。」

啓太はドローン操縦の指導が担当となるが、最初の段階では貴仁と純礼も手伝うことになるだろう。一方で、貴仁と純礼は技術部門への技術移転も並行して行う必要がある。PT-RFID技術や制御理論、運用方法、メンテナンス方法などを8か月かけて伝授する予定であった。

啓太はすぐにリーダークラス100名への天風操縦教育プランを提示する。
第1週目 - 第2週目:基礎理論と操縦技術
ドローンの基本的な構造と仕組み
天風ドローンの特徴と操作方法
PT-RFID技術と制御理論の基本
空中機動や地上走行の基本操作

第3週目 - 第4週目:シミュレーターによる訓練
実際の天風ドローン操作に近い環境でのシミュレーター訓練
状況判断と適切な対応方法の習得
敵ドローンとの戦術的な対抗手段の理解と実践
緊急時の対処法や故障対策の訓練

第5週目 - 第7週目:実機による訓練
天風ドローンの実機を用いた操縦訓練
実際の状況での機動性や戦術の適用
チーム単位での連携と情報共有の練習
継続的なスキル向上と自己評価

第8週目 - 第10週目:実践シナリオと評価
仮想敵を用いた実践的なシナリオ訓練
複数の天風ドローンを用いた連携戦術の実践
模擬戦におけるパフォーマンスの評価とフィードバック

第11週目 - 第12週目:教育スキルの習得と最終試験
トレーニングスキルや指導方法の習得
教育現場での問題解決や改善手法の学習
最終試験とスキル評価

貴仁、純礼、陳建宇の3人はこの計画に合意した。

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貴仁たちが臺灣民主共和国に出発して2か月が経ったころ、日本では重大な事件が発生した。首相官邸で執務中の藤田総理を狙ったドローン攻撃であった。

犯人はすぐに逮捕された。その名前は、鄭二寿(チェン・ニショウ)。

鄭二寿は、32歳で元々はIT技術者として働いていた。彼はコンピューター技術に優れ、特にドローンの操縦や改造に関心を持っていた。彼の技術力は中華連邦の注目を浴び、彼らのスパイとして日本で活動していた。

鄭二寿の取り調べを行った警察官石川遼太郎は、不信感を募らせる。鄭二寿は確かに中華連邦に指示されて犯行に及んだと供述した。しかし、その供述内容はつじつまが合わない個所や具体性を欠く箇所が多かった。

石川は、先輩の警察官・葉山嵐斗(ハヤマ・ラント)に相談する。
葉山は状況を聞き、高橋直哉に取り次ぐ。

高橋直哉と野口慎一が店で会話をしている。ひとしきり挨拶をしたあと、高橋は口を開く。

「実はね、特別捜査課の葉山さんから、不明なことがあったって言われてさ。その内容は、首相襲撃事件の犯人、鄭二寿についてなんだ。」
「それはどんなことだい?」
高橋は説明を続ける。「取り調べを行った警察官・石川は供述内容に不自然な点を感じていたんだ。つじつまが合わないことや具体的じゃないことがあるらしい。」

「まず、鄭二寿が言っていた中華連邦からの指示についてだけど、彼は具体的な連絡方法や指示を出した人物の詳細が全く話さなかったんだ。それに、指示のタイミングや犯行計画の詳細も曖昧で、いつどのように決められたか分からないらしい。」

野口は高橋の意見に同意し、首を縦に振った。「鄭二寿のあいまいな供述がなぜ公表されたのか、私も疑問に思っていた。通常、こういった事件の場合、事実関係がはっきりしないまま公開することはないはず。外交問題に発展する可能性が高いため、慎重な対応が求められるはずだ。」

野口は60歳の地方議員であり、熱心な市民活動家でもある彼は、政治家としての長い経歴を持っており、外交問題に敏感だ。
「防衛省からねじ込まれたらしいんだ」と野口は言う。「事実を公表できなければ、日本の権威が失墜する。外交的な敗北だと警察に圧力をかけたようだ。」

高橋は防衛大臣・斉藤一郎を思い浮かべる。彼が所属する桜井派は、伝統的な価値観や文化を重視し、国家主義的な政策を支持している。彼らは、自衛隊の強化や国防政策の強化を訴え、外交政策では力強い姿勢を示すことを重要視している。斎藤防衛大臣もその考え方に近い。

高橋は、斉藤防衛大臣や桜井派がどの程度この事件に関与しているのか疑問に思い、野口にその疑念を伝える。

「それにしても、すごい人望だな」と野口は高橋に言う。高橋は自分では認めないが、警察ではほとんど誰もが彼の名を知っている。8年前、野口とともにDTS法改正のはたらきかけを行ったのが高橋だった。

彼は、この国にT-RFID認証を受けられない消えた人々が大勢いる事実を公表した。その上で、情報統制の結果ほとんどまともに機能していなかった警察内部の構造改革を進言した。「警察は市民に寄り添うことが重要だ」と高橋は力説した。

その声は警察に届き、改革の結果警察の信頼は回復し、市民との関係も改善されていく。

野口は、高橋のような警察官が出世するべきだと思っている。しかし、現状では彼の功績が十分に評価されず、どちらかといえば窓際に追いやられているような立場にある。割り振られる業務も多くない。

それにもかかわらず、多くの警察官から尊敬のまなざしを向けられ、彼に対する信頼は厚い。そのため、多くの部署、多くの警察官から話を振られることがあった。今回葉山から相談を受けたのもそういった事情だった。

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高橋はまず、鄭二寿の取り調べを行った警察官石川遼太郎に話を聞くことにした。石川との面談の日を決め、待ち合わせ場所へと向かった。

面談の際、高橋は石川から首相官邸で執務中の藤田総理を狙ったドローン攻撃について、逮捕された鄭二寿の供述を詳しく聞くことにした。石川は供述内容に不自然な点があったことを伝え、高橋に具体的な情報を提供した。

鄭二寿の供述によると、彼の犯行当日の動きは以下の通りだ。

午前8時頃、自宅を出発し、最寄りの駅から電車で都心へ向かった。その間、彼は特に何もせず、ただ電車に乗っていたという。

午前10時頃、都心に到着した後、彼は指定された場所でドローンを受け取る。このドローンはすでに改造済みで、火薬も搭載していた。藤田総理を襲撃する準備が整っていたという。

午前11時頃、彼はドローンを隠し、首相官邸の周辺で待機していた。彼は周囲に気づかれないように、公園のベンチで座っていたと供述した。

正午前後、彼は首相官邸で会議中の藤田総理を狙い、ドローンを飛ばし始める。改造された彼のドローンは高速で首相官邸に突っ込む。警備員はただドローンが飛ぶのを見ているしかなかった。窓ガラスに当たる直前、ドローンは爆発。幸い、首相は軽傷で済んだ。

事件後、彼は現場から逃走しようとしたが、すぐに警察に逮捕された。彼は身柄を拘束され、取り調べが始まることとなった。

普通、首相を襲撃するような指示を受けても、それを実行には移さない。鄭二寿はなぜ中華連邦の指示に従ったのですか、と高橋は石川に尋ねる。
石川は、鄭二寿の供述を詳細に話す。

1.鄭二寿は、中華連邦政府からの圧力が強く、拒否することができなかったという。

2.中華連邦には国益に関する法律がある。この法律上、中華連邦の国民は世界中どこに行っても、中華連邦の指示に従う義務があった。

3.この義務には連帯責任が課せられていた。すなわち、指示に従わなかった場合、その家族が訴追を受ける可能性があった。

4.鄭二寿は、自分の家族を守るために、やむを得ず犯行に及んだと主張している。

彼は中華連邦政府からの命令を無視すれば、自分だけでなく家族も危険にさらされることを恐れていた。鄭二寿は犯行を実行する前から、逮捕されることを覚悟していたが、家族の安全が最優先だったと語る。

高橋は石川から鄭二寿の供述を聞いた後、彼の家族の現状を尋ねる。石川は、鄭二寿の家族については不明だと告げる。鄭二寿は7年前この国に移住したことはわかっている。ITエンジニアとして来日している。日本に家族はいない。中華連邦にいるという彼の家族については、何の情報もない。

高橋は石川に向かって、鄭二寿の身元はどのように確認したのか尋ねる。石川は答える。「T-RFIDデバイスで認証を行いました。データベースと照らし合わせて、彼の顔データが一致することを確認しました。」

高橋はさらに詳しく知るため、パスポートについて聞く。「彼はパスポートを持っていたのですか?」

石川は首を横に振って答える。「いいえ、鄭二寿はパスポートを所持していませんでした。ですが、T-RFIDデバイスの情報と顔データの一致により、彼の身元は確認できています。」
「それでは、鄭二寿の知人や友人から話を聞いて、確かに彼が鄭二寿であると確認しましたか?」と高橋が尋ねる。
石川は高橋の質問の意図をつかむのに苦労しているようだ。しばらく考えた後、「いえ、彼には身寄りもなく、何年も無職の状態が続いています。彼と親しいと言えるような知人はいないようです」と答える。
「失礼ですが、もしかして、T-RFIDのシステムが誤っているとお考えなのですか?」
高橋は「いや、そういうわけではないんだが」と答える。

高橋は、石川に使用されたドローンについても詳細に尋ねる。ドローンのメーカーや製造番号が特定できたのか、その情報が犯行の手がかりになるかもしれないと考えたからだ。

石川は調査の結果を報告する。「鄭二寿が使用したドローンは、映像から判断すると中国製であることがわかりました。しかし、爆発によって大きな損傷を受けており、製造番号などの特定ができる部分は残されていませんでした。」

高橋は、鄭二寿の足取りについても石川に尋ねる。
鄭二寿は電車で移動したというが、その場合、監視カメラに彼が乗車した画像が映るはずだ。

石川は、現在その解析を進めていると答える。現場周辺には数多くの監視カメラが設置されており、駅員の協力を得て1つずつ確認しているが、1日で終わる作業ではないと言う。今のところ、鄭二寿が映った映像は見つかっていない。

石川の言葉に、高橋は驚きを隠せず、「失礼ですが、刑事事件を担当するようになって日が浅いのではないですか?」と尋ねる。石川は恥ずかしそうに、「まだ8か月です」と答える。高橋はさらに疑問を持ち、他の担当者も同じような状況なのかと尋ねる。

石川は考えた後、「確かに、そう言われてみれば、若手が多い気がします」と答えた。

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藤田健太郎総理大臣は、病室のベッドに横たわっている。渡辺光宏官房長官が入室し、現状を報告する。藤田はため息をつく。「まさか、斉藤防衛大臣が警察に働きかけて、中華連邦による関与を公表させるとは…」とつぶやく。

藤田は斉藤防衛大臣を罷免することも考えた。その上で、情報が不正確だったと伝えれば、あるいは問題は収束したかもしれない。しかし、先手を打たれてしまったため、その手段は使えなくなっていた。

斉藤防衛大臣は先ほど、メディアに向けて発言した。彼は力強い口調で、「中華連邦によるテロであり、相応の対応を取ること、強硬な立場を取らざるを得ないこと」と述べた。また、不確かな情報に踊らされず国民に冷静な対応を呼びかける藤田総理に対して、斉藤防衛大臣は厳しい言葉を投げかけた。「中華連邦の利益を中心に考えているのではないか」とまで言い放った。

報道陣は緊張感を漂わせながら、斉藤防衛大臣にさらなる質問を投げかける。「防衛大臣、具体的にどのような対応を取るつもりですか?」

斉藤防衛大臣は冷静に答える。「まずは、我々の情報収集体制を強化し、中華連邦の動向を把握することが重要です。また、同盟国との連携を深め、必要に応じて軍事的対応も辞さない姿勢を示すべきだと考えています。」

報道陣からさらなる質問が飛ぶ。「藤田総理との意見の違いについてはどうお考えですか?」

斉藤防衛大臣は一瞬ためらいを見せるが、すぐに答える。「私は国民の安全が第一であり、それを守るためには強硬な対応が必要だと考えています。藤田総理との意見の違いはあるかもしれませんが、私は日本国民のために最善の対応を取ることをお約束します。」

世論は一気に斉藤防衛大臣に傾く。各地で中華連邦への対抗措置を求める声と、藤田総理大臣辞任せよとの声が上がる。国民の反発は日に日に強まり、藤田総理の立場は危うくなっていく。

そしてついに、斉藤大臣から重大な言葉が発せられる。
彼は記者会見で「臺灣民主共和国に自衛隊の基地を建設する計画について言及したい」と切り出す。
報道陣は驚きの声を上げるが、斉藤大臣は堂々と続ける。「中華連邦に対する抑止力を高めるため、臺灣民主共和国と連携し、自衛隊の基地を建設することを検討しています。これにより、わが国の安全保障をより確かなものにすると同時に、アジア太平洋地域の平和と安定にも寄与すると確信しています。」

現在、臺灣民主共和国は世界の96か国がその独立を承認している。その中には日本も含まれている。一方で、米国は今のところ独立承認については留保している。また、自衛隊は専守防衛の立場から、臺灣民主共和国に軍事基地を建設していない。

斉藤防衛大臣は、記者会見でさらに言及し、「軍事同盟を結んでいる以上、基地を建設しない方が不自然。臺灣民主共和国を守るために、軍事基地を建設すべき」と述べた。彼の言葉は、国内外に衝撃を与え、様々な意見が飛び交う。

藤田総理は、この発言を聞き、珍しく声を荒げて渡辺光宏官房長官に言った。「中華連邦の立場に立てばわかるはずだ。中華連邦は臺灣民主共和国の独立を認めていない。つまり、中華連邦にとって、臺灣民主共和国は自国の領土だ。そこに自衛隊が基地を建設するというのは、侵略行為にも等しいと映るだろう。」
渡辺官房長官はうなずいて言う。「総理、その通りです。私たちがどう対応すべきか、慎重に検討しなければなりません。」
藤田総理は深刻な表情で答える。「そうだ。ただ、世論は斉藤防衛大臣に傾いている。彼の言葉が、国民の不安を煽るだけでなく、中華連邦との関係悪化にもつながっている。」

メディアは連日報道を行い、政治の動向が注目されていた。「藤田総理辞任間近」との報道も目立ち、国民の関心が高まっていた。

辞任となれば、斉藤防衛大臣が次の総理と目されている。彼の強硬な態度は、国民の不安に訴えかけ、支持を集めていた。一方で、藤田総理の慎重な対応は、国民に受け入れられにくく、彼の立場は危うくなっていた。

藤田総理は、渡辺官房長官とともに対策を練る。彼らは、斉藤防衛大臣の提案が、国際関係を悪化させる可能性があることを説明し、国民に冷静さと慎重さを求めるよう努力していた。

しかし、藤田総理の支持率は下がり続ける。


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