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「妄想邪馬台国」11

「創作だとしても、その話の元が何なのかっていうのはわかるよね。それを考えるだけでも、推理小説みたいで面白い」
「ははは、そうだよね。歴史パズル…パーツはたくさんあるけれど、それをはめ込んでいく作業は、まったく推理小説的だよね。じゃあ、話を続けようよ。どこまでいったっけ?」
「コノハナサクヤヒメだよ」
「コノハナサクヤヒメは、大きな産屋を作って中に入って火をつけて炎の中で子どもを産んだ。それが火照命(ホデリノミコト)、火須勢理命(ホスセリノミコト)、火遠理命(ホヲリノミコト)なんだね。ホデリはねウミヒ…」
「あ、コノハナサクヤヒメって、仲哀天皇を無視してさ、相手は武内宿禰か誰かはわからないけど、浮気して身ごもった神功皇后のようだし、ニニギがイワナガヒメを実家に返したということで永遠の命がなくなったというのは都合が良すぎるよね」

「ああ、天皇だって人間なんだから当然死ぬよ。神なのに死ぬのか?って疑問を持たれぬような都合のいい作り話はどうかと思うよね」
「何だよ、ニニギの息子たちの話をしようとしてたのに…」
「うふふ、ニニギから続くのは“海彦山彦”の話よね」
「海彦山彦って、子ども向けのお話の?」
「うん、ニニギの子のふたりのことよ。海彦はホデリノミコトで、山彦はホヲリノミコトよね」

「さっき、俺が言おうとしたのに…」
「ホヲリノミコトは、神武天皇のお爺ちゃんに当たるのかな? 海彦山彦はね、天皇家(天孫族)と九州を統治していた隼人族との闘争を表しているとも言われるのよね。ヤマトタケルの熊襲征伐に似てる話ね」
「ふぅーん…」
「だからさ、日本書紀を初めとする六国史(りっこくし)…続日本紀、日本後紀、続日本後紀、日本文徳天皇実録、日本三大実録っていうのは、“都合の良い創作”なんだよ。中国や半島の国々から、さも自分たちの家系のできごとのようにパクっちゃう…。だから、少なくとも古事記と日本書紀は、史実ではないのよ。でもね、すべてが創作であっても、創作のための元ネタというのはあるはずなんだ。それを紐解いていくってのが面白いんだよ」
「六国史?」
「ソレも知らないの?あのね、日本書紀は持統天皇まで、続日本紀は桓武天皇まで、日本後紀は淳和天皇まで、続日本後紀は仁明天皇、日本文徳天皇実録は文徳天皇、日本三代実録は光孝天皇までの記録なのよ。私が読んだのは日本後紀までよ。異能くんなら全部持ってるんじゃないの?」
「持ってるよ。あそこに並んでるよ」異能が指さした本棚の一角には古事記から日本三代実録までが並んでいた。

「壮観だね。読む気はしないけどね」
「そうかい?読んでみると漫画より面白いぜ。でも、全部、版元が違うから大きさや装丁が揃っていないのがどうもね…」
「私は読むわ。今度貸してね」
「いいよ」異能が頷いた。
「でさ、ニニギノミコトで寿命が下されて、人間らしくなったじゃん」
「でもね寿命ができたからっていっても、まだ人間らしくないのよ」
「どうして?」
「寿命が不自然なのよ。神武天皇が即位したのは紀元前660年なの。その頃は縄文時代だからね。出鱈目なのね。そのために天皇家の歴史を神武の即位年まで遡らせて帳尻を合わせなければならなくなっちゃったのね。アマテラスから続く神の血を受け継ぐ天皇としては、なんとしてでも万世一系を証明しなければならなかったのね」
「だから神武以降の欠史八代を水増ししなければならなかったんだ。神武以降の綏靖(スイゼイ)、安寧(アンネイ)、懿徳(イトク)、孝昭天皇(コウショウ)、孝安(コウアン)、孝霊(コウレイ)、孝元(コウゲン)、開化(カイカ)…の天皇に関しては、日本書紀に簡単に記載されているにすぎない。詳細は書かれていないんだよ。胡散臭いんだ。この八代の天皇に関して、史実を語れないことから「欠史八代」と呼ぶこともあるんだよ」

「神武は古事記で127歳、書記では137歳で死ぬの。綏靖、安寧、威徳は現代の寿命のような感じで、まあまあだけど、孝昭は古事記で93歳、書記では114歳、孝安は同じく123歳、137歳、孝霊は106歳、128歳、以降の天皇も100歳以上生きてるの。八代に続く崇神天皇なんか古事記では168歳まで生きてることになっているのよ」
「スゲー」
「それにさ、神武から欠史八代に関しては、「父子間での皇位継承(譲与)」されているんだけど、後世の雄略天皇の世代なんかでは「兄弟間での皇位継承が普通」になっているんだ」
「でもね、古事記や日本書紀が編纂された時代には、律令法典が整えられて、父子間での皇位継承が奨励されるようになるのよ。そのため、欠史八代の時代には兄弟間継承であるはずなのに、父子間継承となっているのは不自然だと言われているのね」
「皇位継承も不自然だというわけだ」
「そうだね」

つづく







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