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カルチャースクールは楽しい

今日って書いているけど、昨日(2月2日)書き始めたものです。

今日はカルチャースクールの日だった。生徒さんは3人に減った。給金はビックリするほどに少ない。少ない実入りよりも生徒さんたちと話して“ネタ”を仕入れることに価値がある。で、仕入れたネタをどうするか? 金にはならない。こうしてnoteに書き込むだけである。それで満足なのだ。

さて、今日は…。

「近況報告」

まず生徒さんたちの近況から話してもらう。その前に挨拶。

「こんにちは。さて、最近は凶悪強盗団が横行しているので、皆さん、それぞれじゅうぶんに注意して下さいね」と注意喚起を行なうと…。
「狙われているのは金持ちだけでしょ? あたしたちは貧乏だから大丈夫」と、皆、不謹慎なことを言う。
「ダメですよ、そんなこと言っちゃ。SNSに書き込んだら炎上しますよ」
「あたしたちはSNSなんて知らないもん」
「わかりました。でも注意して下さいね」
「はぁーーい」
「でね、近況を話してもらう前に、今まで危険な目に遭ったことを話してもらいましょうか? Kさん、何か危険な目に遭ったことがありますか?」
Kさんは生徒さん中では一番若い。若いといっても50代なのだがね。
「ないですねぇ…(しばらくしてから)あ、あった」
「どんなことですか?」
「東京に住んでいたときのことなんですが、よく下半身露出魔に遭遇しました」
「あら、気持悪いわねぇ~」と、Bさん。Bさんは一番の高齢者だ。
「あ、でもさ…」
「Bさんも何かありましたか?」
「あたし、山登りが趣味でしょ?」
「この間、筑波山に登ってきたばかりでしょ。また山登ったんですか?」
「違うのよ。昔の話」
「はいはい」
「女ともだちとふたりで山に登ったときにね」
「ふんふん」
「頂上を目指して登っていたんだけどね。登っていく先に男の人がひとりでコート着てポツンと立っているの。登山着じゃないのよ、普通のレインコート着ててこっちを向いて、幽霊みたいにじっと立ってるのよ」
「え、おばけ!」教室がざわつく。
「違うのよ。こっちはお婆ちゃんふたりでしょ? 山の中だから何かされたら助けを呼ぶにも呼べないのよ。でも引き返すわけにもいかないから、そのまま進んだのよ。で、その男の人の横を通り過ぎようとしたら、そしたらさ…」
皆、といっても僕も含めて4人しかいないが、Bさんの次の言葉に期待した。皆、意外な結末を期待しているのだった。しかし、Bさんの発した言葉は僕の期待を裏切るものだった。
「両手でコートをバッと広げて下半身を露出したのよ」とBさんが言う。
ええ!っと、僕はガッカリしたが、生徒さんたちには下半身話がウケたようだった。というか、講師である僕は男だ。山の中で男が下半身露出したというのは、何だか僕が下半身を露出したようで気恥ずかしい。少し赤面しながら、
「そんなことする奴の精神状態がわからないですねぇ」と照れ笑いした。
「あ、先生、赤くなってる。さては下半身露出したの?」Kさんが僕を指さしながら笑った。
「ばっか言わないでくださいよ!僕は変態ではありませんっ!下半身を露出して何が面白いのか僕には皆目見当がつきません!」
「ぎゃっははは!」生徒さん全員で大笑い。でも、それほど面白くはないのに…。
もうひとりの生徒さんHさんは「私はなにもなかったんです。ただ、厨房が忙しすぎて…」Hさんは和食レストランの厨房の仕事をしている。仕事が終われば家に帰るだけで「平凡な毎日なんです」と言ってため息をつく。僕もHさんと同じ。目黒に出かけるのとカルチャースクールに来るのと、外出するのはそれくらいで、日々、自宅でパソコンをカチャカチャ打っているだけだ。実に平凡な日々…。

「課題修正」

近況報告のあとに、前回提出してもらった「読書感想文」の課題修正を行なった。Kさんは「自分が読んだ本が面白かったから他の人にも読んでもらいたいという気持ちで書きました」と言うと「あたしは人に読んでもらおうとは思わないんだけど、面白かったところだけの感想を書きました」とBさん。Hさんは「わたしは自分勝手なので何も考えずに書きました」と言う。
するとKさんが「私はBさんとHさんの感想文を読んで、私の知らない本の感想文だったので、読みたいと思いましたよ」と言うのです。

「Kさんは自分が読んだ本の面白さを人に伝えたいという気持ちで書いているのがよくわかります。BさんとHさんの感想文は自分の世界にこもっていて、自分が読んだ本を人に読んでもらおうという気持ちで書いていないのもよくわかります。でもね、Kさんが言うように自分の知らない分野の本って興味が湧くものですよ。だって、手に取ったこともない分野なんですから。それがね、感想文の面白いところです。感想文を書いて、みんなで読み合わせっていうのが一番文章力がつくかもしれませんね。

「文章ゲーム」

文章教室では、毎回、文章力の向上を狙って、僕が面白そうだなと思うゲーム的な課題を提案しています。それを生徒さん全員で楽しみながら解いてというか解答を文章に書いてもらうのです。

今回は推理小説的な短文で文章ゲームをしていただきました。以下はその課題です。

 ①「鍵がかかった密室で男性が死んでいた」

 高層ホテルの一室で中年男性が死んでいた。部屋の窓とドアには鍵がかかっており、男性の胸にはナイフが突き刺さったままだった。男性は人に恨まれるような人間ではなく、家族(妻45歳、娘21歳)仲も良好だった。警察が捜査したが、犯人どころか密室の謎さえ、わからなかった。
 それから3日後、娘が縊死自殺した。遺書が残されており、その遺書には何と書いてあったでしょうか?

②「雪の密室」

 前日の深夜まで雪が降った翌日、中年男性が自宅の玄関前で首を切られて死亡していた。玄関には鍵がかかっており、男性は玄関方向に頭を向けて倒れていた。帰宅したところ、何者かに首を切られて、そのまま死亡したと思われた。死体には雪が積もっていなかったし、倒れた死体までくっきりと足跡までが残っていたので男性が帰宅したのは雪が降り止んだ午前1時以降と思われる。不思議なことに男性を切った凶器は発見されなかった。

 現場を見た名探偵、錦戸雷蔵は「これは自殺だよ」と言って笑った。男性はどのような方法で自殺したのでしょうか?

①は、有名なガストン・ルルーの「黄色い部屋の秘密」のトリックをそのままいただいたものです。

②は誰でもわかる「溶けてなくなる氷の凶器」トリックです。

生徒さんは面白がって2問を答えます。トリックを真剣に考えたり、課題文章を曲解していたり、個性があって面白いのですが、課題の狙いはそこではありません。

「この短文だけではよくわからないでしょう?①は、娘が自殺したのが父親の死に関係があるのだということはわかりますが、家族関係に関する描写がないので、“娘が父を刺して致命傷を負いますが、刺された父親は愛する娘を殺人犯にしたくなくてドアを内側から閉めて密室にしてしまう”というトリックはわかったとしても、何故、娘が父親を殺すのか? という動機がわかりませんよね。

②も、氷の欠片で自分の首を切って、体温で氷は溶けるという単純なトリックですが、なぜ男性は、自宅の玄関前で自殺しなければならなかったのか? 自殺に至る状況がまるきり見えません。推理小説というのは、小説ですから、ゲーム的なトリックだけではなく、登場人物たちの関係が描かれていなければ不完全なんです…ということを理解していただきたくてこの課題を解いていただきたかったんです」

「ふーん、なるほどね」生徒さん全員が納得してくれたようでした。

さて、次回の課題も、生徒さんたちの好奇心が動くようなものを作らなくちゃね(笑)。

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