「縦隔嚢胞性病変に著変なし。おまけに脂肪肝のこと」
毎年、肺のCTを撮って、信頼できる医師に診断してもらっている。先週の水曜日ににCT撮影。んで、今日は、その診断の日だった。
「肺がんだったらどうするべ?」とかみさんに言うと、「最近、咳ばかりしてるからね」と、心配顔。僕の母親が定期検診で肺がんが発覚して、その2ヶ月後に死んでしまったから不安なのだ。2年前にはこの病院に重度のインフルエンザA型感染で1週間入院したし、肺炎を2度もやっている。僕は呼吸器系が弱いのだ。
びくびくしながら、電車に乗って隣町の病院に行き、待合室で順番を待つ。
30分ほどで名前を呼ばれて診察室に入る。
担当医師は、普段、港区の病院で働く若い女医さんで、毎週水曜日に千葉の田舎まで出稼ぎに来ているようだ。見るからに聡明で、わかりやすく説明してくれる。おまけに美人だから、若ければ恋しちゃうところだ。
肺の検査は年に1度のことで、1年に1度しか会えないのが辛いが、この医師から「末期の肺がんで余命3ヶ月よ」なんて言われたら、どうしていいかわからない。
で、検査結果だった。
「画像で見ると、腫瘍は昨年より小さくなった感じですね。ええっと、大きさは13ミリってとこかしら。肺炎も起きていないし、他の部分に、がんもありませんね」と言って画像を進める。
「母親が肺の奥にがんができて、あっという間に死んじゃったんで、肺がんが心配なんですよ」
「ふうん、そうなんですか。でも、大丈夫ですよ。ほら、何もないでしょ?」と、さらにCT画像を進めて肺全体を僕に見せる。そんなこと言われて見せられても医療関係者じゃないからわからないが、恋する女医さんが言うのだから間違いがない。だから「あああ、ほんとだ!良かったぁ!」なんて話を合わせちゃう。
「ああ、これ、脂肪肝は、何とかして治さないとね…」と、画像上の白い塊をペンでコツンコツンと叩く。
「えへへへへ」照れ笑い。
「じゃあ、また1年後、12月の今頃に予約入れておきますね」
「ありがとうございます。そうだ、あの、先生、最近、咳が頻繁に出るんですけど…」
「あ、今頃だと、アレルギーだと思いますよ。寒暖の差が激しくなるとアレルギーで咳が出る方は多いんです。咳が止まらないようでしたら、また受診していただいて、咳止めの薬を出してもらって下さい」
「あ、わかりました。また、来年、よろしくお願いします」
名残惜しいが、女医さんをチラリと見てから診察室を出た。女医さんは次の患者のカルテを見ている。
「ああ、1年後まで会えないなんて、まるで織姫と彦星みたいだなぁ」って夢を見ながら外に出ると、「なんだって?」目の前にかみさんが立っていた。驚いた。そういえば一緒に病院に来たのだった。
「で、どうだったのさ?」
「あ、今年も肺がんはないってさ。大丈夫だよ」
「そうなのか?よかったね。ほんじゃ、会計済ませて帰るべ」
「はあ…」ため息をついた。
「どしたの?」
「夢から覚めて現実を見ているのさ」
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