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カルチャースクール覚書2

木曜日はカルチャースクール講師の日でした。「話が下手で咄嗟のことに対応できない」ので、事前に台本を作ってのぞむのですが、どうもうまくいかないんです。文章講師を7年やっているけれど、そもそも人にモノを教えるタイプではないので常に緊張しているのです。その割には余計なことばかり言ってしまう。ついつい油断してしまうのです。これがいけない。受講生さんに尊敬されなくても構いませんが、バカにされるようになってはいけません。

今回は定員3名が揃いました。安心しました。いつものように近況を語ってもらいます。

Aさん(これまでお休み回)

前回、講座を休んでしまったのは、孫(16歳の女子高生)を、歯の矯正のために隣町にできた総合病院に連れて行ったからだ。矯正費用(高額)を出してあげたが、孫にはいつか返してもらうつもりだ。

Bさん(これまでお休み1回)

筑波山の隣にある宝篋山(ほうきょうさん)に2週続けて登山した。つくばから乗ったバスには私のほかにふたりしか乗っていなかったが、登山口に着いてみると自家用車で来る人が多く、駐車場は満杯になっていた。

登ってみると、それほど急峻な山ではないけれど、何でもない所で転倒してしまった。右腕を打撲した。帰宅してから痛みが激しくなり、翌日は特に痛かった。圧迫骨折になったという人が多いから病院に行けと言われたが、痛みがおさまったので病院には行かなかった。

Cさん(皆勤賞)

土曜日に調剤薬局に行った。薬剤師と男性が話をしているのを聞いた。
聞き耳を立てると、薬と関係ないことを話している。私の順番が来て窓口に行くと、薬剤師が「薬が用意できないので、後日になってもよろしいでしょうか?」と言われて了解した。

先ほどの男性は、まだ薬剤師と話している。薬剤師に言ったら、申し訳ない。「あの男性はどのくらい話していたのか?」と興味本位で聞くと、「あれから20分いました」と言って笑った。

「何を話していたのか?」と聞くと、「あなた方、薬剤師は、優秀な遺伝子を持っているから薬剤師になれた」という話を延々としていたという。

………

*講座のはじめに近況を語っていただくのは「他人に自分の気持ちをわかりやすく伝えられる」ようにする練習です。わかりやすく説明するためには「いつ、誰が、何処で、何をしたのか、その理由は何か」という要点を掴み、人にわかりやすく話せることは上手な文章にもつながるからです。皆さんの話を聞いて感じたのは、当然ですが個々の興味が違うということです。Aさんは前回のお休みに関する理由を詳しく話ししてくれました。Bさんは山登りが好きで2週続けて同じ山に登ったことを、Cさんは薬局に行った際に気になったことを話してくれました。

近況報告のあとには、受講生さんに書いていただいた課題の文章を修正してきたので、それについて説明しました。下記文章は受講生さんの文章です。

今回の課題は、僕が用意した写真(栃木県真岡駅前に停まった蒸気機関車とふたりの子ども)の情景から文章を書いてみることです。風景描写でもいいし、物語を作ってもいい…と言ったら、受講生さんたちは個々に特徴ある文章を書いてきてくれました。ちなみに太字の部分が修正箇所です。

………

Aさんの文章「蒸気機関車と蹄鉄」

(文学的なタイトルが良い)

 私の還暦のお祝いに「孫2人が「イチゴ」の大箱を抱えて訪れてくれた(現れた)。女の子のスカートは、フワフワとゆれて可愛らしい。男の子はジーパンスタイルで元気がこぼれ落ちそうだ。(こぼれ落ちそうという表現が凄く良い)
 爺ちゃんの仕事場には、久しぶりに「馬が繋がれていて、鉄を焼くふいごのズーズーという音と鉄を打つトッテンカンという音が不規則に聞こえてきた。
 孫達は目を輝かせて爺ちゃんの仕事場に走り出して行った。お馬さんの爪磨きは子供にとって興味津々。柱の陰からそっと顔を出し、ひずめの焼ける匂いを嗅ぎながら蹄鉄の仕上りに見入っていた。
 爺ちゃんの仕事は装鉄屋(装蹄師)でした(だった)
 その日の夜の還暦祝いには、(国鉄に勤務する)爺ちゃんの従兄弟も参加してくれて、イチゴを味わいながらお祝いを盛り上げてくれました(くれた)
 翌朝のこと、従兄弟が「蒸気機関車に内緒で乗せてやる」「内緒で蒸気機関車に乗せてあげる」と言って孫2人を連れ出して新得駅(北海道上川郡新得町)へ向かった。
 当時住んでいた新得は、昔の日本(新)八景の一つ(ひとつ)「狩勝峠」の出発点のあった(にあたる)駅で、蒸気機関車の要所として栄えていた(が、)昭和41年に廃線となり、その後は実験線として昭和54年まで使用されていました(使われていた)
 孫たちが乗せてもらったのは、実験用の蒸気機関車のようでした(だった)。
 「高い運転席に座ったんだよ。ボタンがいっぱいあって、(汽笛が)ピーって鳴ったんだ。タイヤが僕よりでかいんだよ」と興奮気味で話してくれた。
 「爺婆は蒸気機関車で通勤、通学していたんだよ。(煙突からの)煙で目が痛くなったり、白い洋服が汚れたり、(冬は寒くて凍るから)出入り口の氷を割って乗ったりしたんだよ」
 (この日のお祝い)は、爺ちゃんの蒸気機関車の思い出話と、孫の蒸気機関車の興奮話(に興奮した話)がつながり、爺ちゃんへの理解と愛が詰まった夜になった。
 翌日、お小遣いをいっぱいもらい、スカートをヒラヒラさせて、ジーゼル列車で帰って行った。
 (また)爺と婆(2人だけの)静かな日々が始まった。それから何年か後、(爺は)装蹄師を廃業した。

*Aさんは、毎回、ご自分がこれまでに経験してきた思い出話を書いてくれます。それは自分史のようで僕は面白いと思っています。それに文章力があるように思います。毎回楽しみに読ませていただいています。

ただし、問題がひとつだけあります。「出題した写真について書く課題」であるはずなのに、上記の文章にはそれが何も書かれていません。

そこで僕は受講生さんに「冒頭に出題写真について触れましょうね。例えば、“壁に掛けられたカレンダーの写真を見ている。蒸気機関車の前で子どもがふたり遊んでいる写真だ。それを見ていて故郷の記憶が蘇ってきた”…という具合です。それから今回の文章につなげるんです」

「なるほど、わかりました」

続いてCさんの文章です。

Cさんの文章「誘拐犯」

(人の興味をひくタイトルが良い)


 男の子と女の子が汽車の前に立ち「写真撮って」と、(年齢容貌など、若いとか中年の…)男女ふたりに言った。男は男の子からスマホを受け取ると子どもたちの写真を撮った。

 ここは駅舎で、モニュメントがあり、この駅舎は全体が蒸気機関車をかたどった巨大なモニュメントになっており、観光地にもなっている。この駅を始発として今でも観光用の蒸気機関車を走らせているのだ。

 祭日(休日)には賑わいがあるが、今日は平日のせいか閑散としている。写真を撮っていたのは親子だろうか?

 その時、サイレンの音がだんだんこちらに近づいて来る。数台のパトカーが駅前のロータリーに入ってきた。
 「何かあったんだろうか?」
 パトカーから大勢の警察官が出てきて、こちらに走って来る。そして子どもたちと男女を取り囲んだ。
 ひとりの婦人警官が子どもたちに声をかけて、パトカーの方に連れて行く。
 男女は、おとなしく警察官の話を聞いている。女性は泣いているようだった。男性は肩をふるわせながら何かを言っている。

 近づくと彼らの話が聞こえた。それは意外な内容だった。

 男女は近隣の街の人で、今日はデートをしに来たという。駅舎の前でスマホで写真を撮っていたら、先ほどの子どもたちを見かけた。幼い子どもたちだけだったので、心配して声をかけた。
「ここで何をしているの?」と聞いたら「パパとママがここにいなさいって…」と言うので、心配になって彼らの両親が来るまで一緒にいてやることにしたという。

 そのうちに子どもたちが「写真撮ってあげる」と言うので、自分たちのスマホを渡したら写真を撮る前にSNSに「自分たちが誘拐された」と書き込んだらしい。あっという間に偽の誘拐情報がSNSで拡散され、警察にも通報されたらしい。子どもたちはスマホの画面を見せて「ほら、大変なことになっているよ。どうする?お小遣いくれたら書き込みを訂正してあげるよ」と言って笑ったということだった。

 帰宅してからニュースを観ると詳細がわかった。子どもたちは、お小遣い稼ぎのつもりで他にも数件の犯行を認めた。親切な大人の良心を逆用した最近の子どもたちが恐ろしい。

 つまりあの子たちが誘拐犯だったのだ。

 「今までは、SNSのフォロワーも無関心で、警察に通報されることはなかった」ので、犯行を重ねていたようだ。犯行といっても子どもやることだから間が抜けている。今まで捕まらなかったことが不思議だ。今回はようやく警察に通報されたのだ。それにしてもSNSの無関心さには驚いてしまう。

上記文章は、Cさんが書かれた文章にかなりの修正を加えました。Cさんは横溝正史のような推理小説を書きたいと言う方です。そのため課題の写真から推理小説というかショートショートの物語を創作したのですが、物語を作るのは簡単ではないのです。

「誘拐されそうに見えた子どもたちが実は誘拐犯だった」という意外性を書きたかったのですが、Cさんが書かれたものだけでは結末がよくわからないので、僕が上記のように書き加えました。

Bさんの文章についての解説。

Bさんも文章を書かれているのですが、前回お休みされているので、修正する時間がなくて教室で説明させていただきました。ここでは解説だけ紹介します。

Bさんは、毎回、与えられた課題について(今回は真岡駅の写真ですが)インターネットで調べて文章を書くのです。それが凄く良いのです。冒頭部分のみを以下に紹介してみます。

タイトルは「D51」です。

栃木真岡市にある真岡駅は、駅全体がSLミュージアムとして観光名所のひとつになっている。

(同所には)2012年、東京の井の頭公園に展示されていた9600型49671号機を移設、同年7月には青い旧型客車スハフ4425が、2015年9月には静岡市から3日をかけてD51型146号機が運ばれてきた…。

という具合です。課題写真に興味を持ったBさんが好奇心から独自に調べてレポートのような文章を書いてくれているんです。Bさんは若い頃に記者になっていたら、力を発揮できていたかもしれませんね。

7年前からカルチャースクールの講師になって、何人もの受講生さんたちに接してきましたが、彼女たち(ほとんど男性はいません)には様々な才能があることがわかりました。文章だけでなく、たまに落書きを描いてもらったりしているとその絵の巧さに驚くことがありました。

………

以上のように見てみると、Aさんは自分の記憶を頼りに思い出を記録するのが好きなようで、それは文学的でもあります。Bさんは好奇心の塊で興味を持ったことを調べて書くという取材記者のような方です。Cさんはまったくの創作好きで、物語の意外性を好むようですが、物語を作るというのは難しいんです。今は慣れないのでそれが上手くいかないようです。

いずれにしても、これからが楽しみです。10月からは江東区の南砂町教室も開講されるので、また新しい方々に出会えることが嬉しいです。


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