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いじめ

僕は子どもの頃に「いじめられた」という意識がない。勉強ができなくて落ち着きがなかったから、しょっちゅう嫌味は言われたし、何度か嫌がらせを受けた記憶もあるが、あれがいじめられたと言えるのか今となっては判断できない。根が鈍いのか? となれば、我ながら良い性格だと思う。それに基本的には勉強が嫌いで学校に行くのが嫌だったから、いじめなんてどうでもよかったのかもしれない。

それに、喧嘩もやった。喧嘩というよりは喧嘩ごっこだったかもしれない。相手に腹が立つことがあったり、恨みも憎しみも僕の記憶にはない。喧嘩した記憶がないからだが、確かに取っ組み合いの喧嘩をした。大抵の場合は、喧嘩相手の方が体力があった。体力的には僕の負けに決まっている。

子どもの行為だから殴られはしないが、動けないように押さえつけられたら負けということになる。ところが僕は、弱いくせに負けず嫌いだったから精神的には譲らなかった。動けなくなるほど押さえつけられても「まだまだやれるぞ」と言って、負けを認めなかった。すると喧嘩相手は、こんな奴を相手にしても仕方がないと「バカバカしい、お前の勝ちでいいよ」と言って立ち去ることもあった。

確か1度だけだったと思うが、それが通用しないしつこい相手に対しては、諦めて負けを認めてやった。さらに僕はこれを利用した。翌日、母親に「昨日、クラスメイトにやられたから体のあちこちが痛い」と嘘を言ってずる休みをした。僕の嘘を鵜呑みにした母が学校に「うちの息子が乱暴されたみたいだ」と連絡したものだからたまらない。ズル休みした翌日には担任の教師がクラスメイトたち全員を並べて「皆さん、ワタナベくんに謝りなさい」と言って謝罪させたのだ。これはちょっとやり過ぎだと思ったが引っ込みがつかないので、僕は「わかればいいんだよ」と言って皆を見回して笑った。それから僕は全員に嫌われた。当然のことだ。当時は痛快に感じたが、今思えば情けない子どもだったと後悔している。

さて、そんな僕も中学生になる。情けない性格のままに成長しないままだ。勉強しないし運動も苦手だ。僕は、ここでも、はっきりといじめられた記憶がない。それどころか父親に買ってもらった5センチほどの小さな玩具の鉄砲に思い切り紙火薬を詰めて授業中に撃って「ドカン!」と爆発させて教師に怒られたりバカな悪戯ばかりしていた。

ただ、クラス全員から水泳大会に参加させられたことがある。運動音痴の僕が泳げないことを知っているくせにである。これは1種のいじめなのかもしれない。いや、多分、いじめである。50年経った今頃になって腹が立ってきた(笑)。無理やり「ビート板部門」と、「背泳ぎ部門」参加させられた。泳げないからビート板に参加というのはわかるが、背泳ぎというのはわけがわからない。イヤがらせ以外の何物でもない。

ところが、ヤケッパチで背泳ぎに参加してスタートしてみると、泳げたのだ。しかも3位になったのである。これにはクラス全員が拍子抜けしたに違いない。ついでにビート板でも3位になったのだ。僕をバカにして笑おうというクラスメイトたちの魂胆は失敗に終わったのだった。


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