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湯島の夜「護れなかった者たちへ」

推理作家、中山七里さんの本は読んだことがないのですが、中山さん原作の映画「護れなかった者たちへ」をWOWOWで観ました。僕は人が沢山いる映画館が嫌いなので、よほどのことがなければ映画館には行きません。ほとんどテレビ放送で観賞するのです。ですから感想を書くのも公開日よりだいぶ遅くなっちゃうのです。

瀬々敬久監督の作品「護れなかった者たちへ」は、佐藤健さん、清原果耶さん、阿部寛さん、倍賞美津子さんという演技派(阿部さんは滑舌が悪いけれど、顔面芝居が素晴らしい)顔ぶれの映画です。最近観た日本映画の中でも僕が勝手に考えた「邦画ベストテン」(笑)のベスト3に入る名作だと思われます。特に東日本大震災に端を発する映画としては最優秀作品(僕個人の賞です)となりましょう。

東日本大震災発生時の悲劇と、その9年後(原作は4年後)に起こる2件の殺人事件(放置餓死事件)の捜査を対比させて描かれます。物語のポイントは、殺人という手段が何故、緊縛されて放置された挙げ句の餓死なのか?という点にあります。

真相は、重く暗いものですが、よく考えてみれば、江戸時代ならば「仇討ち」としてOKかもしれません。といっても今はそうはいきませんね。

物語の根底を流れるものは生活保護です。「健康で文化的な最低限度の生活」がおくれる手段である生活保護は、「皆さんのおさめた税金で生活するのは心苦しい」という善良な方々もいれば、「俺たちのおさめた税金で遊んで暮らしている奴ら」という考え違いの方々もいる…アレです。

実は僕も仕事を辞めて生活に困った際に市役所に相談に行ったことがあります。しかし、簡単には生活保護が受けられないのが現実なのです。その際には、生活保護を断る担当の市役所職員に追い返されました。こういう人が各自治体には必ずおります。

映画「護れなかった者たちへ」は、東日本大震災によって家が破壊され、家族が亡くなって生活保護を受給しなければならないほどに生活困窮してしまった人が、言葉巧みな担当者にうまく丸め込まれて生活保護を辞退した挙げ句に起こる悲劇が元になっています。

生活保護受給者のイメージは、働かずに遊んで生活している人といった印象があると思いますが、違います。彼らの大半は働いているのです。しかし、薄給であることから、足りない分(微々たる額です)や医療費(これが大変なのです)などを援助してもらっているのです。

生活保護者の悪いイメージは、ほんの一部の人たちの不正受給によって作られたものです。イメージを作っているのは政治家や役人たちです。

少し脱線します。

江戸時代には身分制度ではないのですが、いつの間に身分が重要となったのです。江戸時代には士農工商(身分制度ではありません。職業表現です)があり、武士も百姓も商人も継続しなくてはならなかったのです。農業(百姓)が、現実的には低い身分でしたが、それでは農業従事者のストレスが溜まって、いつか叛乱を起す危険がある(実際に百姓一揆や打ち壊しが起こりました)ので、さらに低い身分を作る必要がありました。そこでエタ、非人という賤民、被差別民を拵えたのです。しかも、それは現在でも差別される情報として続いているようです。

生活保護も実はそれと同じなのです。

富裕層は中流層に、中流層は貧困層に、貧困層は生活保護者に、それぞれ侮蔑、人として意味のない怒りをぶつける…。生活保護は、賤民、被差別民と同じ身分制度のようなものなのです。そういった印象を根付かせようとしているのは政治家や役人です。

税金で食べて、しかも楽して威張っていられるのは生活保護者ではありません。政治家や役人です。彼らこそ世界で一番最低の身分であるはずなのです。

柏木ハルコさんの漫画「健康で文化的な最低限度の生活」小学館

生活保護を担当する役所職員を描いた漫画「健康で文化的な最低限度の生活」(柏木ハルコさん著、小学館刊)が、だいぶ前にドラマ化されました。吉岡里帆さん演じる生活保護担当者(ケースワーカー)を描いた明るいドラマでした。これは漫画の方がいいですね。

WOWOWでも生活保護のケースワーカーが殺されてしまうドラマ「パレートの誤算」がありました。橋下愛さんが主演でしたが、これは暗く重い物語でした。

映画「護れなかった者たちへ」は、東日本大震災や生活保護を考えるための貴重な資料と言えましょう。お時間があれば是非ご覧下さい。

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