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伊豆堂ヶ島紀行

 2008年4月2~3日の土日に伊豆の堂ヶ島まで旅行した。義母の7回忌を兼ねて家族旅行したのだ。兼ねて旅行ちゅうのも変だが、ナマコの家族が言うのだからしかたがない。弔い旅行のつもりなのだろうか? 理解できないが、そういうところが義理家族の文化の違いなのだと諦めて同行した。

 ところが当日早くに義妹から「父が行方不明だ」という電話があった。

 そこで義父の携帯電話を呼び出したが応答がない。それでも僕がしつこく何度も電話するうちに「なんだ?」っていうとぼけた感じで義父が電話に出た。「今どこにいるの?」って言うと「わからん」と言う。こりゃ困った。義父は認知症なのだ。

 しかし、会話するうちに「ああ、そうだな、オレは西葛西●丁目の公園にいるな」と言ったので、すぐに義妹に連絡する。連絡を受けた義妹は急いで現場に駆けつけるのかと思いきや、起きたばっかでノロノロ身支度に時間がかかってる。こっちは千葉なのですぐに現場に駆けつけられない。そうこうしてるうちに…義妹がやっと準備を整えて出発…しばらくして義妹から連絡あり。マンション入り口にて義父発見とのこと…疲れるな…。

 ひと段落してこちらも東京駅に向けて出発。義父&義妹とは12時過ぎに東京駅で待ち合わせた。しかし…またまたなかなか来ない.発車ぎりぎりに義父&義妹到着。今朝の行方不明事件のことで義妹は義父を叱りつけたが、義父が逆ギレしたことから喧嘩になって、なかなか家を出かけられなかったと言うのだった。

 さて、伊豆である。僕とナマコの新婚旅行の地…。うーん思い出すなあ・・・若いな頃の僕とナマコ…おほほほほ。ふたりとも病気もせず、健康ヘルシーだったよなあ。ま、おれが辛い目にあわせたばっかりにナマコは乳がんになってしまったに違いない。

 さて、東京を出発した185系踊り子号はぷいーんと伊豆に向かって東海道を走る。うーん…やっぱ、普通の早さだねぇ。新幹線と違うね。でも横須賀線より遅い感じ…ってそんなことどうでもいいか。それにしてもこの列車はガラーンとしてる。乗客がいないの。前の席に外人さんが座ってるぐらいだ。とか何とか言ってると義父が「弁当買わないのか?」なんて言いやがる。

 尊敬する義父に対して「おめえたちが遅れたから東京駅で弁当変えなかったんだろうが!」って言えないから、僕は電車の中をウロウロと歩き回って売り子さんを探す。

 と…乗務員が来たので「弁当の売り子さんは?」って聞くと「この列車には乗ってません。熱海駅で切り離す下田行きの列車に売り子がいますよ」と言う。あ、この列車は熱海で切り離すのか?って気づいた。

 「じゃ、このまま歩いて行けばいいんですね」

 「いや、列車と列車の間には連絡通路がないので、どこかの駅で降りて、前の車輛に乗りこまなくては買えませんよ」なーんて言うのよ。

 仕方がなく、義父と義妹に「前の列車に弁当売ってるんだって。オレとナマコが次の湯河原駅で前の列車に乗り移って弁当買うから」と言うと義父と義妹は「おお、頼むよ」ってにっこりと笑った。こういうときだけ人の良さそうな屈託のない笑顔になりやがる。

 そのうちに列車は湯河原駅に着いた。

 ナマコと二人で湯河原駅にて前の車両に乗り移って、車内で弁当を買うべく売り子さんを探した。何だか客層が違う。

 「こっちの車輛には人が悪そうな乗客がいっぱい乗ってるね、ナマコちゃん」

 「うん、それになんかタバコ臭いね」

 やっとのことで売り子さんを見つけた。

 「弁当ちょうだい」って言うと「鯵の押し寿司しかありませんよ」って冷たい返事。

 「ほんじゃ押し寿司3つにサンドイッチひとつちょうだい」って言うと、どかどかっと弁当をビニール袋に放り込んだ。口の利き方も態度も大きいと言うか乱暴なやつだなあ…って思いながら「あ、お茶もちょうだい」って言うと「お茶もですかぁ」ってめんどくさそうに言うんだ。このブス。でもなかなか横柄な態度が俺の胸を打ったから感動して許してやる。

 熱海駅に着くと、腹を空かせた義父と義妹が待つ「修善寺行き踊り子号」に乗り換え、後方の踊り子号で待つ義父&義妹に弁当を渡した。

 「ええええ!押し寿司なんかヤだよ!」

 「ったく…」

 身勝手で好き嫌いが激しい義妹にはサンドイッチを与え、義父には鯵寿司を渡した。「これしかなかった」と言うと義父は「旅行とは弁当買うのも含めてしっかりしないとダメだ。あんたらは旅行が下手だ」と言う。

 「くぉのやろーおめえがボケて遅刻したから弁当買えなかったんだろう…」と、義父に聞こえぬようにぶつぶつと独り言を言う。義妹も「サンドイッチだけぇ?」とか、わがままを言うのであった。先が思いやられる…と思ったらそれは的中した。


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