見出し画像

竹山団地プロジェクト、神奈川大学サッカー部大森監督の挑戦



神奈川大学サッカー部、大森監督の挑戦

 神奈川大学サッカー部大森監督は、これまでの様々な経験から、全国上位レベルのアスリートがもつべきスキルは、地域活動を円滑に進める「社会的スキル」と重なる部分が多いと考えていました。

 それらの社会的スキルとは、①非言語コミュニケーションスキル(アイコンタクト、声のトーン)②交友関係を築くスキル(挨拶、質問応答など)③相手と仲良くなるスキル(感謝の伝え方、誤り方)④問題解決スキル(交渉、他者との協同など)の4つです。

 竹山団地という社会の中で、学生たちが、生活に密着した様々な地域活動を通し、この地域が更に良い循環を生み出す一助となることを目指す。それが、これからの社会に必要される人材育成であり、そういった活動を通して、チームとして強くなることができるはずです。与えられた良い環境の中で「受け身」で過ごすのではなく、自らが「自発的」に取組み、経験を重ねることで、サッカーを通した人材育成の一環とできるのではないかと大森監督は考え、そういった活動ができる場所を探していました。

 神奈川大学の建学の精神のひとつである「中正堅実」な人材育成に地域貢献は親和性が高く、それをサッカー部の活動と連動した取組にできないかとも考えていました。

 団地も公社も課題を抱え、それに対して関心を持っているサッカー部がいます。でもよく考えてみてください。思いを共有できたとして、この3者は一体、どのようにして出会うことができたのでしょうか。そのハブを果たしたのが、原さんです。原さんがいなければ、このプロジェクトは生まれていなかったかもしれません。なかなか表には出ることがありませんが、実はそれくらい、ハブが果たす役割は大きいのです。

スマホ教室をきかっけに起きた変化

 竹山団地中央のバス停を降りると、すぐ近くに掲示板があります。そこには、神奈川大学サッカー部による取組み紹介のチラシが掲示されていた。中でも目を引いたのが、「神大サッカー部 応援バスツアー」です。

スマホ教室をきかっけに生まれた、試合観戦バスツアー

 これは、学生たちが実施する「スマホ教室」に参加した女性たちの声から生まれた企画です。「スマホ教室をやっていると、女性がみんなきれいになっていくんですよ」と自治会メンバーが言います。学生自身も、試合の結果を楽しみに待ってくれている、地域の方の存在に支えられているそうです。

 「学生たちが引っ越してくる」。そう聞いた住民の方から、「どこで学生と話せるのか」という問い合わせが来る中で生まれた“はじめの一歩”となったのが、竹山未来先取り倶楽部が主催する、学生による「スマホ教室」でした。

神奈川大学サッカー部による、様々な取組み
サッカー部員によるフレイル予防教室

地域で頼られる存在に

 部員による活動の対象は、高齢者だけにとどまりません。竹山小学校の「宿題をやって来ない子どもたちの学力低下」という課題に対して、学生たちが「宿題応援団」として学習支援に加わりました。竹山連合自治会から依頼を受け、介護予防教室のあと、場所を2時間開放して、夏休みの宿題を見てあげる時間を設けました。それを見た他の住民が「うちの孫が、読書感想文が書けないといっている。ここに来たら教えてもらえるか」と訪ねてきたり、夏休みが終わっても「ここで宿題をやってもいいですか」と子どもたちが集まったりするようになりました。

 試合があって部員たちが来られない日に、涙を流して残念がる子どもたちもいたそうで、「学生が来ないことに、子どもたちがこれほどにまでショックを受けるのか」と自治会の方が驚いたといいます。「大掃除をやるから一緒においでよ」という学生からの声かけで、小学生が地域の大掃除に参加するようになるなど、多世代に交流が広がりつつあります。

 また、どの地域でも担い手不足が課題として挙げられている地域消防団ですが、竹山では7名の学生が学生消防団員として参加。更に25名が入団を希望しましたが、定員オーバーのため、1年生は4年生が退団したあとに入団させる事になっているそうです。地域の清掃行事でも、「学生はまだか」とお年寄りたちが集合時間の前から待ち構えているといいます。

地元消防団での活動
地元消防団での活動団地内の池の掃除を手伝うサッカー部員

竹山プロジェクトが目指すこと

 地域社会と共に「健康・つながり・まちづくり」を掲げる神奈川大学サッカー部は、神奈川県公社、自治会と共創する次なる挑戦として、国交省補助事業による、空き物件を活用した2つのプロジェクトを計画しています。

 ひとつは、地域住民が活用できる低酸素ジムの導入。1時間の運動が難しい方が、同等の運動の成果を15分で出せる、健康指標の低さの解消を目指す取組です。地域交流スペースで語り合い、運動し、QOLを高めて健康増進ができれば、という思いで、2024年5月にオープンを予定しています。

 もう一つが、銀行跡地をリノベーションした「官民共創」による多世代交流拠点づくりです。ここでは、介護予防・生活支援拠点、スマホ教室、カフェ・コワーキング・イベントスペースの運営、学習支援・スポーツ支援などを展開していきます。横浜市、企業、竹山小学校など、様々なプレイヤーとの共創にて進められており、神奈川大学建築学部、人間科学部、社会連携センターも巻き込み、大学としても、サッカー部を超えた取組みへと広がっています。

 竹山団地は「水と緑の共生」というコンセプトで、自然との調和を目指して建築され、2021年にはDOCOMOMO Japanによる「日本におけるモダン・ムーブメントの建築250選」に選ばれるなど、後世に残していく価値のある素晴らしい建築と言われています。水辺に面した銀行跡地が、どのような場所に生まれ変わり、この竹山プロジェクトに彩りを添えるか、今後の展開が楽しみです。
【都市内過疎事例1-2】 (【都市内過疎事例1-3】へつづく)

都市内過疎事例1-1】高齢化に悩む竹山団地と神奈川大学サッカー部による地域再生の挑戦【都市内過疎事例1-3】


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?