雨が好き。
明日の朝は、雨が降るかもしれない。
そんなことを思いながら、ベッドにもぐりこむ。
うつ伏せになって目をとじた。
夏なのに少しだけ冷えた足先をかさね、静かに指を遊ばせる。
羽を休める鳥のように、ゆっくりと力が抜けていく。足先もしだいに温まる。
*
窓をたたきつける雨音で目が覚めた。
カーテンの下からは柔らかい光がもれている。漆黒の夜は通り過ぎたようだ。
時計の短針は、あと少しで数字の5を指すところだった。
夏の朝は始まっている。
*
カーテンを開けると、雨のわりには明るかった。
夏らしい、スコールのような雨だ。
家を出る頃にはすっかり止んで、夏の雲の隙間からは太陽の光がさしていた。
まだ濡れている路面に陽光が反射する。いつもよりも涼しい。
雨など降らなかったとでも言うように、セミの鳴き声がひびいている。
雨で濡れたアスファルトと、真夏の象徴のひとつであるセミの鳴き声の融合は、どこか新鮮さを感じさせる。
「涼しさの中の真夏」という、いつもとは違う特別感につつまれる。
*
昔から、雨が好きだった。
晴れの日も好きだけれど、雨の日は気持ちが落ち着いた。
そして私は、そんなふうに気持ちを落ち着かせることができる日を、場所を、空間をよく求めていた。
晴れの日は、時に気持ちが追いつかない。
落ち込んでてもいい。無理に気分を上げなくてもいい。雨は、そう言ってくれている気がした。
そう、雨は優しいんだ。
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