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雨が好き。




明日の朝は、雨が降るかもしれない。

そんなことを思いながら、ベッドにもぐりこむ。


うつ伏せになって目をとじた。

夏なのに少しだけ冷えた足先をかさね、静かに指を遊ばせる。


羽を休める鳥のように、ゆっくりと力が抜けていく。足先もしだいに温まる。









窓をたたきつける雨音で目が覚めた。


カーテンの下からは柔らかい光がもれている。漆黒の夜は通り過ぎたようだ。


時計の短針は、あと少しで数字の5を指すところだった。


夏の朝は始まっている。






カーテンを開けると、雨のわりには明るかった。

夏らしい、スコールのような雨だ。



家を出る頃にはすっかり止んで、夏の雲の隙間からは太陽の光がさしていた。


まだ濡れている路面に陽光が反射する。いつもよりも涼しい。



雨など降らなかったとでも言うように、セミの鳴き声がひびいている。


雨で濡れたアスファルトと、真夏の象徴のひとつであるセミの鳴き声の融合は、どこか新鮮さを感じさせる。


「涼しさの中の真夏」という、いつもとは違う特別感につつまれる。




昔から、雨が好きだった。

晴れの日も好きだけれど、雨の日は気持ちが落ち着いた。


そして私は、そんなふうに気持ちを落ち着かせることができる日を、場所を、空間をよく求めていた。





晴れの日は、時に気持ちが追いつかない。



落ち込んでてもいい。無理に気分を上げなくてもいい。雨は、そう言ってくれている気がした。


そう、雨は優しいんだ。

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