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トランクにはいつもシャンパーニュ(2)

私はかなりの方向音痴だ。特に、丸の内のあたりはいけない。立方体のビルが林立して見分けがつかない上に、ビルに入っている店は同系列のチェーン店ばかりで、それがどのビルなのか見分けがつかない。プリントアウトした地図とグーグルマップを両手に持って、宇宙空間にたった一人で浮かんでいるような気がするのだ。

でも、地方に行くと鉄道やバスをいくつも乗り継いでいく先でも、時間に遅れることはない。使い古したボルドーのスーツケースを引きながらクライアントが待つ選挙事務所へ迷うことなく到着する。スイッチが入るのだろうか。頭の中が妙にスッとしているような気がするのが常だ。

今回の東京都知事選挙は、候補者が40人を超えると言われているけれど、どうも本当らしい。2020年の前回は22人だから二倍になるってこと。でもこの現象は都知事選挙に限らない。今、日本のどこへ行っても、立候補者は軒並み増えている。町議会議員選挙でも、県議会議員選挙でも、立候補する人が増えているのだ。生活のために職業として選ぶ人が増えてきたのだろうと思っている。


参議院議員選挙公営掲示板 ここは1人枠に3人の候補者

公営掲示板に貼られているポスターを見ると、その候補者の心の底が見えることがある。

たとえば、
政党色とは別にピンクを主に使うのは新人の女性候補。可愛さをアピールしたいのだろうか。その戦略が効きそうな気はしないんだけどなぁ。
そして男性の新人候補者にあるのが、目線を外して遠くを見るようなオシャレ風ポーズ。新しさをウリにしたいんだろうなぁ。
全体が白で、ベージュの服装にベージュの丸ゴシックで名前を入れているのは、地元有志のご子息かご令嬢。自分はそんなに目立とうとなんかしないのだ。そんなことしなくてもゆとりがあるのよ、とでも言いたげ。クールなつもりなのかなぁ。それで勝てるのかなぁ。


誰にしよう

乱立する候補者の中で、勝とうとするなら、しなけばならないことがある。組織選挙なら票はある程度固めることができるけれど、ボランティア型の市民選挙になるなら、組織型を捨てなければ一歩も前には進まない。

今、目の前の1票に拘ること。今、目の前を通り過ぎるひとりの1票に拘りぬくこと。ひとりからひとりの紹介にしがみつくこと。これ以外にはないからね。

林立するビルの中で「あ、ここのビル良いかもね」と思わせるには、隣と同じ安定的なチェーン店を並べたらダメなのよ。うちの強みはこれ!ここを使ってほしい!あなたのためにこれを提案する!という根拠あるアピールをしっかり続けることしかない。そうじゃないと、お客は選ぶ基準を見失って、そもそもビルに興味を失う。今の政治はこれと同じ。

さぁ、立候補者はどこまでわかっているだろう。
あなたの個性は有権者の暮らしのどんな役に立つと言えますか。
クッキリと伝える言葉を持っていますか。
あなたが政治家として活躍すると喜ぶのが、あなたの家族とその周辺だけなら、どうぞ民業で生きてください。

選挙は、民主的な殺し合い。
その覚悟、おありになりますか。

勝たせ屋 鈴鹿久美子

6月20日㈭ 週刊モーニングで、 「票読みのヴィクトリア」 の連載が始まります!どうぞご期待ください!

6月20日㈭ 連載開始!


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