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断ったからサポートできた、政治家のオファーの話

政治家の相談を受けていて、ときどき耳が固まることがあります。

政治家は言葉が命。一度口から出た言葉は、他人の耳に入って姿を変え、言霊となる。
だから、私は言葉にこだわります。


――はい、その通りですね。

だから、失敗は許されないのです。


――言葉の選び方、ですか?

いえ言葉の使い方、と言うか、言葉を使わない方法もあると思うんです。


――どういうことですか?

何も言わずに、ハッキリ答えずにその場をやり過ごすことも、政治的手腕だと思うんですよ。


――時と場合によっては

いえ、今回は特に。自分は、今回、自分の方針は自分の中だけに留めておこうと思っています。


――どうしてですか?あんなに重要な政治的判断になるとおっしゃっていたことなのに。

それはですね、相手のあることですから。今回は、間違ってはいけないからなんですよ。相手がどう出るかわからない以上、正解だと思って確信をもって選んだとしても、結果的にそれが間違ってしまったら、そこでマイナス1じゃないですか、自分の評価が。マイナスの評価になるようなことを相手にわかるようにする必要性はないと思うんです。黙っていればいいだけの事なんです!失敗しないことが最重要だと。


この話を聞いていて、私は理屈抜きで、もの凄く嫌な気分になりました。答えの出ないことの相談に乗る。これは、とても大切な仕事だと思っています。考えを整理するために言葉の端緒を引き出しながら話を聞き、考えをまとめてゆく。こんなことも、今回が初めてではありません。


「決断力が勝負」と言われる政治家であっても、どんなに考えても、どれだけ腹をくくっても、決められないという場面はあります。決められない理由はその時々で様々ですが、その左右に大きく揺れ動く長い時間、伴走しながら一緒に迷い続けることが私の仕事です。

でもたまに、こんな風に一見正しそうな、でもどこかに「?」が残るような、答えにならない何かを突き付けられることがあります。そんなとき私は、目の前の彼のモヤモヤを引き出すべく、時間を忘れて相手の心の奥の声を聞き続けようと努めます。でも、そんな中でもたまに、私の傾聴耳がシャッターを下ろしてしまうことがあるのです。この時もそのようでした。こうなると、もうアウト。何も入ってこない。

あー、きちゃった、シャッター。

こうなった時に私ができることは一つしかありません。
自分の感覚的な印象を率直にお伝えする
これしかできないので。


――すみません。ここまでお話を伺っていて、聞いていること自体が急に嫌になってしまいました。これは○○さんと仕事をするのが嫌になったということとは違います。この話を聞いていることが嫌になったのです。上手く丸め込まれているような、騙されるちょっと手前のような、嫌な感覚に支配されてしまいました。私の勘違いでしたら申し訳ありません。でも、もう一度、少しだけで構わないので、ご自身をふり返ってみてください。今回の案件は本当に黙っていることでメリットが生じるでしょうか。そもそも失敗しないことが、成功に直結する最短ルートなのでしょうか。何も言わないことが失敗につながることは絶対にないのでしょうか。何かが頭に浮かんでこられたら、またご連絡ください。今日はここまでで一度終わりにしましょう。


この日はこれで終わりです。私の耳が聞こうとしないのでどうしようもありません。
でもこのタイプの場合は、そう遠くない未来に相手の反応は返ってきます。


「鈴鹿さん、俺、疲れていたんでしょうかね。逃げたら『逃げた』という評価が待っているだけでした。例え今は上手くやり過ごしたとしても、10年後、自分が中堅議員として役職が就いてきた頃に「あの難しい判断をしようとしたとき、あいつは逃げた」という評価になったとしたら、その先の自分はないと気が付きました。鈴鹿さんの言う通り。失敗をするなら今のうち、でした。恐れず果敢に挑んできます。そして、これで失敗したらすぐにここに帰ってきます。その時は宜しくお願いします!」

彼の顔は爽快な秋の空のように晴れ渡っていました。これだけ言うと、その議員は踵を返し部屋に戻っていきました。


10年ほど前のことでしたが、その後、彼になされた評価は、その後の役職となりました。ふと自分に降りてきた感覚を大切にすることが相手を大切に思うことになった、小さな思い出。

ピンときたことを大切に♪


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