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What were you thinking???

2005年2月28日の日記。
米国ヴァージニア州の片隅にある日系企業の現地法人で、日本人駐在員である「ぼす」の元、秘書兼通訳兼「やっかいごと よろず引き受け業」的な何でも屋さんとしてお仕事をしていた頃のお話。
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朝起きたら、ものすごいことになっていたのである。寝室の窓から外を見て唖然とした。

ぽんこつくん1_1

前の日はオスカー受賞式を観ていてかなりの夜更し・寝不足だというのに、当然の如く眠気もいっきに吹き飛んで。…ぉぃぉぃ、明日っから確か3月だよなぁと思いながら、あわてて会社に行く支度をするワタシ。
ところが、何を血迷ったのか

大丈夫。自分の車で行ける!

と確信してしまっていたのである。…なぜ?

もちろん我が愛する「ぽんこつ」号は、今どきはやりのSUVこと「すぽぉつ・ゆぅてぃりてぃ・びぃくる」ではないどころか4駆であるはずもなく。ねずみ色した、ごくごくフツーの4ドア・ハッチバック。空港に行って、いちばん安値で借りられるレンタカーと同じコンパクト・カー。しかも中古で10年落ちのアメリカ国産車だ。

まさに魔がさした、としか言いようがないのだけれど。どういうわけか自分で運転すること以外なぁんにも考えていなかった。ちなみに生まれも育ちも太平洋を臨む小さな港町。遠州の「からっ風」は冷たいし、水たまりに氷は張るけれど雪なんて風花が山の方から舞ってくる程度。校庭がうっすら白くなっただけで「積もった積もったー!」って小学生が大騒ぎするような地域である。学生時代過ごした街はここより南のジョージア州。雪道を走った経験なんて、皆無。人の運転ですら数えるほどしかないというのに。雪がワタシの生活の一部であったことなどないのに。

雪を車から下ろしてアパートの駐車場を出るところまでは思いのほか快調だった。一般道に出るところで、前を走っていた車が右折した途端に道路脇にハマってしまったのを「あらあら不注意ね」なぁんて小馬鹿にしたのがいけなかったのかもしれない。カーラジオからは「州間高速道路で大きな事故がありました。運転には十分お気をつけください。」なんて声も聞こえてくる。「ほんと不注意な人がいるもんだ」なぁんてヒトゴトだと思っていたのが運のつき。

左折して、しばらくは問題なかったのだけれど、坂をのぼり終える頃から雲行きが怪しくなりだした。どうもハンドルを取られがちなのである。いわゆる「ケツフリ」状態だ。

んー、やばいかな

そう思った時には既にハンドルはちっとも言うコトをきかず。

あー、こりゃだめだわ

こういう時ってハンドル切ったりブレーキ踏んじゃぁいけないんだよね確かって今思い返すとものすごく冷静に考えている自分がいて。とりあえずペダルから足を離して、あとは惰性でそのまま行き着くとこまでするするするっと……。

見事に対向車線を横切って、進行方向むかって左側の路肩に突っ込んだ我が愛すべき「ぽんこつ」君。

幸い対向車も来ず。
木にぶつかることもなく。
ひどい段差に落っこちる羽目にも陥らず。降り積もった雪の中に突っ込むだけで事なきを得た。

ケガもなく、車も走行可能。...ぁ、今は「走行不可能」か。なんてったって脱出できないんだから。とは言え、まったくもって不幸中の幸いだったのである。

しかも。更にラッキィなことに「たまたま」そこを通りかかった同じ会社の人が「たまたま」ワタシの「ぽんこつ」君を知っている人だったのでわざわざ車を路肩に寄せて止まってくれた。会社まで乗せていってくれると言う。ほんと、嘘みたいな偶然。とってもとっても有難かった。

とりあえず「ぽんこつ」君は、他の車の通行の邪魔にはならない状態でハマってるしってことで、そのまま放置することにした。明後日にはお天気が回復するらしいし、雪が溶けるまでほっておこう。そう、思ったのである。

もちろんその考えが甘かったことをわずか数時間後に知ることになるのだが。とにかくその時は遅刻せずに会社に行けることしか頭になく。ひどい目に遭ったわりに、あまりにもトントン拍子に事が運んだのでテンションが高くなっていたのかもしれない。会社につくまでの車内では、身振り手振りを織り交ぜて、如何にして「ぽんこつ」君が雪の中に突っ込んでいったのかを笑いながら説明しているワタシがいた。

それにしても。あの「ぽんこつ」君で会社まで行こうとするなんて。あまりにも無謀としか言いようがなく。まったくもって

WHAT WERE YOU THINKING???
(いったい何考えてたのよ???)

改めて自分を問いただしてみたいところである。
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追記:3時間後に「現場」に戻ってきた時の写真。「ぽんこつ」君の、あまりにも無残な姿であります。

ぽんこつくん1_2

<つづく>

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