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WANTED 〜「モトム!」ッテ イワレテモ〜

2005年5月7日の日記。米国ヴァージニア州の片隅にある日系企業の現地法人で、日本人駐在員である「ぼす」の元、秘書兼通訳兼「やっかいごと よろず引き受け業」的な何でも屋さんとしてお仕事をしていた頃のお話。
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ありがたいのだけど、やっぱりちょっと迷惑なのである。

金曜日の午後、同僚のローズ女史がワタシのオフィスにやってきた。現場で働いているという若い男の子をひとり連れて。

“This is Howard. Look at his shirt! What does it say?”
(彼はハワードっていうの。ねぇねぇ、彼のシャツ、何て書いてあるの?)

アジア・ブームは相変わらずなのか、彼が着ているTシャツには縦書きで、漢字が8文字。








思わず笑い出すワタシに、たたみかけるように再度訊ねるローズ女史。

“So, what does it say? What's so funny?”
(なんて書いてあるのよ。何がそんなに可笑しいの?)
“...well, it says, "Japanese Girlfriend Wanted"!”
(「日本人の彼女募集中」って書いてあるのよ!)

笑いながらそう答えると、ローズ女史は訳知り顔でふふふ...と含み笑い。不審に思ってよくよく聞いてみると「日本人の女の子と知り合いたいっていうから」ワタシのオフィスに連れてきたらしい。

またかよ...。

とりあえず ”It was nice meeting you” と言ってハワードをオフィスから追い出してから、ローズ女史に釘をさすワタシ。

“How many times do I have to tell you that I'm not looking for a new relationship! You know, I'm going back to Japan in a few months!”
(だーかーらー、何度言ったらわかってくれるのよぉ。誰ともお付き合いするつもりはないってば。あとちょっとで帰国するんだし。)
“We know that...that's why we are trying to hook you up, so you can stay!”
(わかってるわよ。だからイイ人見つけてあげようとしてるんじゃない。そしたら日本に帰らなくてもいいんでしょ?)

. . . . . 。

“We don't want you to leave us!!”
(クミに辞めて欲しくないのよ。)

引き止めてくれるのはとっても嬉しいけれど、「グリーンカード(米国の永住権)は申請しない」と2年半前に決めたのは会社である。H-1Bという就労ビザからの雇用によるグリーンカードへの切り替えは2年半~4年ほどかかるので、2002年に現行のビザを更新した時点で並行してグリーンカード申請を始めていなければ間に合わない。

それでもビザが切れる一年前までに書類申請さえしていれば米国への滞在は許可されるのだけれど、それを知りつつうちの会社は最終締切日が過ぎてしまうのを横目で黙って眺めるだけで何もしないことに決めたのだ。

今更「クミがいなくなったら困るわ」と言われても、ワタシが困る。

「会社としてグリーンカードは申請しない」と通告された時は確かにヘコんだ。それは紛れもない事実。まだ、帰りたくなかった。一方的に期限を切られるのは、耐えられなかった。

でも不法移民になる気はないし、雇用ベースのグリーンカードへの道が絶たれてしまえば、残されている道は非現実的なものばかり。抽選枠に引っかかる可能性は宝くじに当たる確率より低いし、今更学生に戻ったところで就労ができなければ家賃も払えない。かと言って、まだまだ結婚する気なんてさらさらない。となれば、帰国するしかないじゃんか。

ブッシュ政権に落胆したり、賃上げ凍結を決めた会社に絶望したり、不毛な遠距離恋愛に辟易したり、少しずつ少しずつアメリカへの未練を断ち切って、数年かけて自分の中で折り合いをつけてきたのだ。
ワタシ的には「この地にとどまる」という選択肢は既にない。もう、終わったことなのだ。

引き止めてくれるのは嬉しいけれど、今更どうしようもないのである。

例えアメリカ人と結婚したところで、労働局から許可が下りなければビザが切れた後も今までと同じように仕事をすることはできないのだとこれで何度目になるかわからない説明をローズ女史に聞かせるワタシ。

“But didn't you think he was cute?”
(でも彼、キュートだったでしょ?)
“Yes, he WAS cute, but it doesn't change anything.  I have no choice but to go home.”
(確かにキュートだったわ。でも、だからってワタシが帰国することに変わりはないのよ)
“Well, maybe you can have a pen pal!”
(んー、だったら文通相手になればいいのよ!)

...文通って。

なぜ、そうなる?絶句するワタシをその場に置き去りにして、廊下を曲がったところにあるキッチンに向かったローズ女史。しばらくして様子を窺いに行ってみると、そこでは自称「クミにダンナを見つける会」会長のローラリン女史をはじめ、同僚達数名が異様に盛り上がっている最中だった。

“She is so picky!”
(だいたいクミは、選り好みしすぎなのよ!)

そういうことでは、ない。

気持ちは、ありがたい。
引き止めてくれる皆の想いは、ほんとに嬉しい。たとえ理想が高いだのストライク・ゾーンが狭過ぎるだの言われようとも。善意からの行為なので、多少茶化されるくらいは大目に見よう。

だが、しかし。
「見つける会」名誉会員のマイヤーズ氏に、どうしても言っておきたいことがある。

“How'bout him?”
(こいつなんてどうだい?)

と言いながら御子息の写真を見せるのは、お願いだからやめて下さい。

まだ、高校生じゃないですか!!!

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