見出し画像

「おはよう」と言われたのに、機嫌が悪くて無視をした。それが妹をみた最後だった。

私が佐藤そのみ監督とはじめて出会ったのは、彼女が高校2年生のとき。東日本大震災の津波で、とてもたくさんの子どもたちが命を落とした大川小学校の校庭で、監督の妹”みずほちゃん”も帰らぬ人となった。

監督のお父さんである佐藤敏郎さんは中学校の先生。私は東北支援で近辺に住んでいた。お仏壇に参らせていただくためにご自宅に訪問したら、そのみさんが、進学のこととか、これからのことを考えていた。

私の目線でみずほのことと、大川小学校で起きたこと、そしてこの地域でおきていることを、映画に残したい。

そのみさんは、たしかそんなことを言っていた。そして、その次の年に受験をし、日本大学芸術学部映画学科に進学した。

「そのみが大川のことについて卒業作品として映画にしたようです。都内の映画祭で入賞したみたいで。今度、渋谷の映画館で短期間だけど上映するようです。」
昨年12月、そのみさんのお父さんの敏郎さんから連絡をいただいた。

その時点で胸にこみ上げる熱いものを感じながら、昨年の12月、渋谷に向かった。ただ、正直な話「学生の卒業作品だから」というのが、無自覚にもっていた期待値設定だった。

なんといえばいいんだろう。この作品は、311の遺族の作品である。
でも、ものすごくドライだった。観ている私たちに、悲劇の中の涙や怒りのような感情を、何一つ押し付けてこない。感想の持ちようを、こちらに完全に委ねてくるような、そんな作品だった。

かわいそうな人たちの物語ではなく、私の自分事に問いかけてくる。

29分間の作品を見終わったとき、私の中に身勝手な使命感が湧き出てしまっていた。

10年目の3月11日を迎える前に、日本中の人が見るべきだと思った

鑑賞後、すぐに敏郎さんに連絡した。「この作品、どうにかしてもっとたくさんの人にみてもらえるようにしたい」と伝えた。しかし敏郎さんは少し間をおいて、「そのみは今、メディアからの取材もそういったありがたいお話も、すべて断っているんです」ということだった。

なぜ?映画監督だったら、自分がつくった作品をたくさんの人に見てもらいたいものなんじゃないの?つくったのにどうして葛藤するの・・?

ちょうど、同じように映画館で映画を見たという、友人の日本テレビアナウンサーの鈴江奈々さんも、どうやら私と同じ想いを持ったそうで、そのみさんにお手紙を書いたそうだ。敏郎さんからそれを聞いて、すぐに奈々さんに連絡をした。

奈々さんと語り合う中で、ひとつ共通していた想いがあった。私で言うとNPOの仕事、奈々さんでいうとニュース報道の仕事をしているわけだけど、今回は仕事としてやりたくない、ということ。私たちの3月11日の向き合い方として、そのみさんがそうしたいとおもう形で、上映会を開催し、多くの人に観ていただく形が実現できないか。そんな、余計なおせっかいな、だけど、なにかに突き動かされてしまっている、ふたりともそんな気持ちだけは一致していた。

もう話せないから、手紙を書いた。これはそんな作品

そのみさんと対話を重ねる中でわかったこと。それは、あらためてこの作品は、そのみさん自身がゆっくりしたためた、妹への手紙でしかないのであり、人に見せるためにまとめたものではないということ。自分の中の、2011年3月11日、あの大川小学校で起きたことをまとめること自体が目的だったんだということ。

だから彼女は、大学の卒業作品として、ひっそりと、この作品を作り上げ、数回だけ映画祭に出したものの、これ以上の公開を計画していなかった。

それは、実はまだ彼女自身が妹の存在とあれからのことをゆっくり受け止める過程にいるということ。そして同じ地域に住む、大切な宝物であるお子さんや兄弟を失ってしまった方々の想いを思ってのことだった。

だけど、最後はそのみさんご自身がゆっくり考えて、打診からしばらく経ったある日、「この作品で何かを感じ取ってくれる人たちがいるなら」と、上映を決めたと連絡をくれた。

画像1


大切に観てもらいたい映画だから、きちんと、ちゃんと観てほしい。できることなら、せっかく公開するなら映画館の大きなスクリーンでの上映をそのみ監督も希望してる。有料にして、無理にでも映画館での上映にこだわるべきかもしれない・・とも、悩んだ。

だけど今回は、できるだけ多くの人に観てもらえる形を優先するべきなのではないか。悩みに悩んで、今回は無料で、オンラインでも視聴いただける公開の仕方を選ぶことにした。

そんな中、上映会場でも有り、オンラインの配信会場にもなる渋谷のユーロライブの会場費をどうしようかと悩んでいたら、知人の古井貴さんが応援してくださるとお申し出いただいた。さらに鈴江奈々さんの呼びかけで有志で集まってくれた日テレのボランティアの方々が、Online配信を担当してくださることにも・・。

みんなの想いのチェーンがつながって、企画が前に進んだ。

この先、この映画が公開される予定は1つも決まっていない作品。

だからこそ、この瞬間を大切に、できるだけたくさんのみなさんに参加してほしい。

私達はこころから、それを願っています。

『あなたの瞳に話せたら』自主上映会×トークライブ

●イベント概要

日時:3月7日(日)14:30-16:00
会場:ユーロライブ(東京渋谷)にて劇場上映+オンライン同時配信
人数:劇場上映は先着80名(会場の座席使用率を50%に制限します。
   オンライン上映は人数制限はございません。)
住所:東京都渋谷区円山町1-5 KINOHAUS 2F
地図:https://goo.gl/maps/TbiNReHRSZ8kFQEz8
参加費:無料
プログラム:
 14:30 『あなたの瞳に話せたら』上映(29分)
 15:10 監督とゲストによるトークセッション
 16:00 終了
運営:NPOカタリバ 担当 高木 佳
配信協力:よみひと知らず(日本テレビ)

イベント詳細はこちらをクリックしてください

観覧申し込みはこちらからお申し込みください
※peatixへのログイン/新規アカウント登録が必要です。
※劇場上映チケットは「招待枠」「一般枠」の2種類がございます。お間違いのないようご選択ください。
※関係者からの招待の場合は「招待枠」のチケットをご選択ください。
※オンライン上映用のURLは、peatixを通じてイベント前日までにご案内いたします。

●トークセッション登壇者

監督|佐藤そのみ
1996年、宮城県石巻市に生まれる。幼少期より故郷で映画を撮ることを志し、2015年日本大学芸術学部映画学科に入学。主に石巻市を舞台に、数本の劇映画やドキュメンタリー映画を製作する。2020年12月に東京で開催された「東京ドキュメンタリー映画祭」へ本作を出品し、準グランプリと観客賞を受賞。

画像2

トークゲスト|永沼 悠斗
3.11メモリアルネットワーク 若者プロジェクトのメンバー。
宮城県石巻出身で、3.11当時は高校生。現在は、大川伝承の会で語り部を行うほか、「失われた街」模型復元プロジェクト記憶の街ワークショップin大川地区 実行委員も務める。

画像3

トークゲスト|髙木 桜子
岩手県大槌町出身、大学4年生

中学一年の時に東日本大震災を経験。その後当時所属していた吹奏楽部や、放課後塾であるコラボ・スクール大槌臨学舎の活動を通して、継続して全国での語り部活動を行なってきた。大槌の発展に携わるためにまちづくりを学ぼうと東京の大学に進学。来年度からはNPOカタリバの大槌高校魅力化プロジェクトに携わる。

画像4

モデレーター|鈴江奈々
日本テレビアナウンサー

現在news every.出演。約14年報道番組を担当する中で、東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨などの被災地取材、災害報道に携わる。そうした中、東日本大震災以降続ける日本テレビの被災地支援活動「よみひと知らず」をはじめ、防災・減災活動がライフワークに。
内閣府「平成30年7月豪雨による水害・土砂災害からの避難に関するワーキンググループ」委員(2018年)、国土交通省「水防活性化調査会」委員(2018、19年)など

画像5

3月11日を迎える前に、たくさんのみなさんに届きますように・・・
観覧申し込みはこちらから

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?