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旅記 加茂荘花鳥園・母屋
アニメ『氷菓』の千反田邸を俯瞰したとき、一番心惹かれたのは塀の中に塀が巡らされているという造りでした。外門をくぐると田んぼ(実際は菖蒲畠)があり、その間を抜けて内門、その中に母屋が建っています。この二重構造は加茂荘でも同じでした。
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けれどスケールは加茂荘のほうが大きい。加茂荘は山を背負って建っています。外塀は山と並行して伸びていて、塀は途中で茂みに代わりますが、これがとにかく長い。母屋の敷地の何倍もの土地を囲っている。母屋裏は直接山に続いていたから、境は三方を囲むのみなのだろうけど、本当に果てしなく長い。これを見ると、アニメは家屋としてまとめるために両翼の部分をかなり切り落としているのだとわかります。
傘を開き、外塀とその向こうの霞んだ景色を眺めながら内門の前までやって来ました。伸びた枝が斜にかかって、古い屋根瓦から雨が滴る。まるで古城だなと思いました。
内門をくぐって順路に従い、玄関から土間に入ります。薄暗く、使用人の出迎えもありませんが、土間の向こうからおばさんが出迎えてくれました。見学の旨を辺りを見回しました。
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土間で三十畳ほど、上がってすぐの座敷は板の間も合わせて四十畳はあるんじゃないかと思われます(適当)。そのくらい広い。
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福部が似合わない床の間を背負っていたシーンで座敷は二間続きになっていたけれど、実際は襖を開け放たれた部分に床の間が拵えられていました。福部がこの床の間を背負うのは確かに似合わないなあ、と。
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フィクションで何かモデルを取り入れる際、どの部分をそのままにしてどの部分を改変するか、そして切り捨てるか。そういう問題を考えさせられます。先の温室もそうです。フィクションなのだから細かい部分まで再現する必要はない。けれど、細部のこだわりを捨てれば作品の強度に関わる。作品の強度と言うのは……いやいや、そんな話をしたいんじゃなくて。
何度も曲がる廊下のせいで方向が分からなくなる。奥には茶室が拵えられていました。天井材の柾目だったり襖の絵柄だったり、なんとなく格式高い風情。しばし池を眺めて、あ、右手が先の土間座敷、正面はお食事処か。
いずれ池付き座敷付きの家に住みたいなあ……と思うなど。
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お食事処(見学の前に空腹に耐えかねて先に食べた)では二色にゅう麺を。せっかくならお茶セットも……と迷っていたところ、なんとなしに出されたお茶を飲んでイスから転げ落ちました。いえ、転げないし落ちもしませんが、そのくらい衝撃的にお茶がおいしい。サービスで出されたお茶です。ふつうの湯飲みに入った。でもこれが、なんだろう、桜餅の甘みとほのかな苦み、それに……うまみ? なんかよくわかんないけどすごくおいしい。おかわり。さすが本場。
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帰りがけ、内門の脇に売店を見つけました。先日被災した大藤漆器店から輪島塗を取り寄せて販売しているとのこと。少しでも力になれればとのこと。ちょうどその日の新聞で、大藤漆器店が金沢市神谷内町に店舗兼住居工房を移して再開する旨の記事が掲載されたらしく読ませてもらいました。
一日でも早くねえ、と言い合って店を出ました。雨はまだ降っています。
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