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旅記 出発

 午前四時を回るほんの少し前に料金所を通過しました。高速道路の車どおりは少なく、代わりにどの車もずいぶんとスピードを出しています。危ないな、と思いながら走行車線をゆっくりと走らせます。ハンドルを操る腕がなんだか、重い。

 サイドミラーにライトが反射して、消えたと思ったら追い抜かれていきます。眠気覚ましに口に放り込んだフルーツガムをもぐもぐ。県境のトンネルを抜けて少しすると見晴らしがよくなりました。ここからしばらく、高速道は平地を横切るように伸びています。

 変わり映えしない直線が眠気を連れてきました。

 すっかり味のしなくなったガム。時刻は四時半。ウインカーを出して左に分岐し、SAへと入ると乗用車も大型トラックも、思いのほか混んでいました。深夜割を狙って入ったご同輩でしょうか。建物から少し離れた場所に駐車して一旦お手洗いへ。それから少し悪いと思いながらエンジンを再始動、オートライトを消し、暖房を入れ、ドアをロックし、座席を目いっぱい倒す。携帯のアラームを七時に入れて毛布を被ります。周りをチラチラ見たけれどこうやって仮眠を取っている車ばかりでした。みな考えることは同じ、同じ。

 車での仮眠は慣れています。仕事の休憩時間、大体寝ているのです。体に悪いことは百も承知ですが……

 眠ったのか眠っていないのか、よくわからないうちにアラームが鳴りました。ブルートゥースだから車のスピーカーからトゥルトゥルトゥルトゥル明るい調子が流れ出します。体を起こして座席を起こして、体をうねうねねじねじ。ずっと意識を保って真っ暗な中考え事をしていたような気がするけれど、あれは夢を見ていたようです。

 食堂でそばを頼んで力なくずるずるすすります。隣の人が慌ただしく出て行くのをのんびりとした気構えで見送りました。こちらは旅程を立てていないから、急がなければいけないのかのんびりしていていいのかわかりません。そういう外出にしようと決めたのだから、まあ、のんびり向かえばいいさ、という気持ちです。

 水を買って出発しました。

 後方を確かめながら合流。交通量は少し増えている……気がします。すっかり明るくなって辺りがよく見えるからかもしれません。田んぼの広がる中、住宅と工場のそばを通り抜けていきます。

 途中、道路の崩落した場所もありながら、順調に進みます。JCTで道路を乗り換えると山と正面から向かい合いました。今からあれを越えていくのです。やがて車線が減って対面通行になると道路の標高もぐんぐん上がる。軽四のエンジンが唸りを上げるけど大して速度は出ません。トンネルが目前に迫ってきます。

 ここから先、山腹を穿ったトンネルが連続します。十本? 二十本? 一本十キロ以上なんて大物も。よく掘ったものだと思います。そういう過去の偉大な土木工事のおかげで利便を享受できるし、これがやがて複々線化すればさらに便利です。文明の力、文明の力。

 ここからはひたすらまっすぐ、まっすぐに進みます。高山市へ分岐する大ストラクチャをくぐり抜け、延々と続くトンネルを我慢強く抜ける(ちなみに親不知IC付近の迫力があるストラクチャも好きです)。トンネルの先は雪でした。当日は二月の下旬、車内温度が段々下がってきているのは感じていたし、上り坂ばかりで相当高い場所を走ってるのだとは思っていたけれど、なるほど、まだこれほど雪が残っているとは。いや、というか降っている。雪、降っています。

 カーナビがそろそろ休めと言うので、ひるがの高原SAに入りました。吹雪になりかけの中、車を降りる。冷やかしのつもりでお土産コーナーを見て回る。家族連れが多い。外国人もちらほら。名前に聞き覚えがあると思ったら近くに有名なスキー場があるみたいです。スキーの時期はさすがに過ぎているだろうけれど。

 お土産、買うか買わないか迷う。学生時代はよく買っていました。サークルや家族、友人。買わなければいけない、と思い込んでいました。今はあんまり。よさそうなものがあればってくらいです。自分と、家族と。気が向けば友人にも。今回はプリンがおいしそうだ。蕗味噌なんてものもある。こちらは自分用にしよう。問題は今が行きの行程だということ。下りのSAにも同じ品物があることを祈ります。

 蕗味噌は冷暗所保存のようで、こちらだけ先に購入。プリン、なかったら諦めよう。

 少しの間に雪は止んでいました。薄らフロントガラスに積もった雪を落としてさあ出発。目指すは掛川市。まだまだ先は長い。