現代のショートスタック戦略 Part 2/4
Part 1の続きです。ストイックにかなり長文の記事が続きますが、ぜひ読んでみてください。
「スタックが10bb以下ではPush or Foldすべきだ」「もうスタックが小さいから、どんなハンドでもオールインするしかない」なんて言葉をよく聞きます。ポーカーを覚えたての頃はこの言葉を真に受けて、自分自身でよく考えずに真似をしていました。
たしかに簡単で便利な戦略ではあるのですが、今では非常にもったいないことをしていたと考えています。今回の記事では、その詳細について解説されています。
「Chip & Chair」は過剰表現でもなんでもありません。小さいスタックでも最大限に利用する戦略を取ることが、最後のカギを握ります。
Part 2. スタックが小さい状態でのスチール対策
2016年12月6日 written by Miikka Anttonen
ここ何年もの間、スタックが小さい時はコールすべきではないと考えられていた。3回に2回はフロップにヒットせず、ブラフの効果も小さくなる。Equityを実現できないこともその理由とされていた。
また、様々なポーカーの教材を見てみると、強いハンドは常にオールインすべきだと書かれている。オールインすれば必ずボードは開かれ、ハンドのEquityを奪われずに済むからだ。
たしかに、この戦略には多くのメリットがある。しかし、BBでのプレイに関しては決して最適とは言えないと思う。
Part 1ではBTNに対するBBのリスチール戦略について解説した。そこでのスタックは15-20bbを前提としていたので、BBのオールインに対してBTNがフォールドするという可能性も十分にあった。
しかし、スタックが十分に大きければ「BTNにフォールドを迫るオールイン」となるだろうが、スタックが小さくなるにつれて「必ずオッズコールされるオールイン」となってしまう。
その間に明確な境界線はあるのだろうか? この問いに対して明確な答えはないのだが、私の考えとしては、必ずプッシュ or フォールドしなくてはならないスタックサイズは、3bb以下の状況しかありえないと思う。
スタックが10bb以下の状態におけるBBディフェンス理論は、私たちポーカープレイヤーが何年もの間いかに無知であったかをよく示している。
これから例を示して説明する。これは、私が今まで何度も間違って相手をフィッシュだと判定してしまっていたプレイだ。
【プリフロップ】トーナメントゲーム。私は十分なスタックを持っている状態で、BTNからA♢K♠で2.2bbにレイズした。BBにコールされたが、相手には8bbしか残されていなかった。
【フロップ A♠ 6♢ 6♣】BBはチェック。私が2bbのCベットを撃つと、BBからチェックレイズオールインが返ってきた。私はそれにコールし、BBは5♠6♠をショーダウンした。
私は訳が分からず「8bbしかないのに56sなんかでコールしやがって、このフィッシュが!!」と相手にコメントを投げ付けてしまった。しかし、あれから時が経ち、そのフィッシュは自分だと知ることになった。相手のプレイは理に適っていたのだ。
・スタックが少ない方がショーダウンまで到達しやすく、Equityを実現しやすい。
・56sのようなハンドはポストフロップでシンプルにプレイできる。
もしスタックサイズが30bbであれば、56sのようなハンドでコールするとポストフロップが難しくなってしまっていただろう。例えば、フロップで「5」でも「6」でもペアができれば、相手のCベットに1回はコールできるかもしれないが、ターンでも続けて「5」「6」などのラッキーカードが出ない限り、結局はフォールドするしかない。「56s」のEquityを十分に実現するには、30bbというスタックサイズは大きすぎるのだ。
一方、スタックが5bbしかなければ、フロップのヒットだけでオールインしてEquityを実現することができる。もし「A K J」のように不利なフロップになればすぐにフォールドし、僅かながらチップを残すこともできる。
スタックサイズ 7.5bbでのポストフロッププレイ
スタックがこれほど小さくなると、ポストフロップでできることは少なくなるが、それでもまだスキルを発揮する余地はある。例をみていこう。
【プリフロップ】ブラインド 500/1,000点、アンティー 100点のトーナメントゲーム。BTNが2,200点にレイズし、SBがフォールドした。あなたはBBで7,500点が残されており、8♡7♡が配られている。どのようにアクションすべきだろうか?
BBのスタックが小さいことを考慮すると、BTNのスチールはややタイトになるため、ここではBTNのオープン率を約37.3%と想定した。これをEV計算ソフトに入力すると、BBは約半分のレンジでオールインすることがEVプラスとなる。
しかし、私はこれが最善の戦略だとは思わない。
BBには「フォールド」「コール」「オールイン」の3つの選択肢があるが、まずは「フォールド」or「オールイン」の2択に絞って考えることにしよう。BBがオールインした場合は、7.5bbしかないので必ずBTNからコールされると設定し、HoldemResources calculatorで解析した。
8♡7♡はたしかにEVプラスだが、その数値はほんのわずかしかない。
だが、ここで「オールイン」ではなく「コール」することで、この数値より遥かに大きなEVを上げることができると私は信じている。これからいくつかのシナリオを示すので、一緒に見ていこう。
【シナリオ① Flop: A♠ K♠ 2♣】
BBは完全にフロップをミスしたので、諦めてチェック/フォールドしよう。BBからドンクベットしたとしても、BTNのレンジにフォールドするレンジは少なく、本当に「A」「K」を持たれていたらデッドも同然だ。そうでなくても、JTsでさえコールされてしまうだろう。
このフロップでは、BTNのレンジに対する「8♡7♡」のEquityは8.33%しかないため、BBは何の躊躇いもなくフォールドできる。プリフロップの段階ではオッズが合っていたが、フロップで合わなくなっただけの話だ。
プリフロップでオールインしていたとしても、きっとBTNはコールしただろう。このシナリオではフロップでフォールドできたので、僅かながら5,300点のチップを残すことができた。
【シナリオ② Flop: 7♣ 2♢ 2♡】
これは5bbをオールインする価値のあるフロップだ。BTNのレンジに対してBBには70.85%のEquityがあり、ドンクベットやチェックレイズを狙うのも良いだろう。ときには「JJ」以上のモンスターハンドにぶつかることもあるだろうが、プリフロップでオールインしたとしても結局コールされていたので同じことだ。
特に、先にドンクベットしてオールインすることには、以下の2つのメリットがある。
1. Equityが十分に高いかなりの数のハンドをフォールドさせることができる。例えば、BTNの「KQ」には22.8%のEquityがあるが、これを奪えるのは大きなメリットだ。
2. 不利なハンドにコールしてもらえるかもしれない。例えば、「AK」などにコールされると、有利な状態でダブルアップが狙える。
また、チェックレイズを狙うのも良いと思う。特に、トーナメントではこのようなフロップが出ると、現実的にはCベット率が高すぎるプレイヤーが非常に多いからだ。チェックレイズした場合でも、上で述べたような効果が同様に期待できる。
【シナリオ③ Flop: 9♡ 5♣ 2♢】
非常に小さなスタックでこのようなフロップになると、難しい状況のように感じるかもしれない。BBはBTNのレンジに対して34.71%のEquityがある。もし、BBがチェックしてBTNがベットをしてきた場合、Equityだけを考えればコールする選択肢もあるだろう(必要勝率 32.3%)。
しかし、このようにスタックが非常に小さくなっている場合は、OOPから最初にアクションを仕掛けることが有効に作用する。
先にドンクオールインすることで、IP(BTN)の多くのハンドが難しい局面に追い込まれることになる。BTNがペアを持っていればコールされるだろうが、そうだとしても決して最悪の事態ではないのだ。BTNのペアに対するEquityの例を以下に示す。
【vs. A2o】41.5%
【vs. 33】44.2%
【vs. T9s】22.8%
【vs. AA】23.3%
もちろん、トップペア以上にぶつかってしまうとEquityが低くなってしまうが、BTNのレンジ全体を考えるとそれほど多くは含まれていない。BBと同じように、BTNもフロップをミスしていることがほとんどなのだ。
さらに、OOPからドンクベットでオールインすることが本当に利益的なのかどうか、以下の2つの疑問を通して考えてみよう。
1. BTNはどれくらいの頻度でコールするのか?
2. BTNにコールされた場合のBBのEquityは?
Flopzilla/Equilabというソフトを使って、シンプルなシミュレーションを行った。BTNのオープンレンジを以下のように設定した。
さらに、フロップでBBがオールインした際のBBのコールレンジを以下のように設定した。
・全てのポケットペア+フロップヒット
・オーバーカードを含むガットショット(A3o, A4o, A3s, A4s)
・AT+
・ツーオーバー、かつ、バックドアフラッシュ
この設定は数学的とはいえないのだが、ここではBBにとってかなり不利になる設定で検証を進めることにしよう。BTNはまったく何もフロップと絡んでいない場合しかフォールドしないように設定した。
この場合、BTNのコール頻度は63.9%になる。このレンジに対するBBのEquityを計算すると、以下の結果が得られた。
BBには32.4%のEquityがあることがわかった。なんと、BBの「7♡8♡」にはガットショットしか希望がないように思えるが、実はこれほどのEquityが残されていたのだ。
よって、BBが5,800点のポットに対して5,300点のオールインを先に仕掛ける効果をまとめると、以下の2つのポイントにまとめられる。
1. 36.1%の頻度でBTNをフォールドさせることができる。この場合、チップは11,100点にアップする。
2. コールされても十分にEquityが残されている。16,400点のオールイン対決になったポットに対し32.4%のEquityがあるので、EVは 16,400 × 32.4% = 7,367点となる。
もしプリフロップでオールインしていた場合、0.04bbしか期待値がなかったことを思い出してほしい。かなり美味しい勝負のように思えてこないか?
【シナリオ④ Flop: K♠ 8♢ 2♠】
これはガッツポーズして喜べるフロップではないが、それでもオールインする価値のあるシナリオだ。
先にドンクベットでオールインすべきか、チェックしてから相手のベットに対してオールインすべきか、これは興味深い問題だと思う。これは相手のCベット頻度に大きく依存する。数学的な話ではないのだが、私は相手のミスを期待してチェックすることが多い。
ここでは、ドンクベットしたらどうなるかを一緒に考えてみよう。BBのドンクベットに対するBTNのコールレンジを以下のように設定した。
BTNは「K」「8」ヒットやスペードのフラッシュドローでコールすると設定し、その頻度は38.5%になった。この場合のBBの期待値は以下のように計算することができる。
1. 61.5%の頻度でBTNをフォールドさせることができる。この場合、チップは11,100点にアップする。
2. コールされても19.3%のEquityが残されているので、BBのEVは 16,400 × 19.3% = 3,165点となる。
つまり、平均して1.5bbもの利益を上げることになる。さらに言えば、私の感覚としてはドンクベットせずにチェックレイズすることで、さらに利益が上がることが多いと思う。
非常に小さなスタックではOOPが有利になる
小さなスタックでコールされて、そのままドンクベットでオールインされるのは非常に困った事態だ。本心を言えば、読者の皆さんにはこの記事を読んだことを忘れてほしいくらいだ。
例えば、BTNで「AK」が配られてオープンレイズしたとしよう。小さなスタックのプレイヤーにコールされて、「T 8 5」のようなフロップでドンクベットオールインされたとしよう。
もう、どうしようもなく、本当に困った事態だ。ポーカーにおいてポジションの重要性の議論は尽きることがないのは、皆さんご存じだろう。非常に小さなスタックの場合はOOPにいることが非常に有利になるのだ。
フロップの段階でOOPのスタックがポットサイズほどしか残されていない場合、OOPは先にアクションすることで、ほぼ完璧にミスなく戦略を実行できる。それとは対照的に、IPのレンジの大部分が難しい局面に追い込まれることになる。
OOPがとてもシンプルな戦略を取ると決めていたとしよう。ワンペア以上や何らかのハンドだけでオールインし、その他はチェック/フォールドする。これだけでもBTNは非常に困ることになり、Equityの高いハンドをかなり放棄させられる。
現実的には、あえてバランスを崩したプレイをすることで、相手を大きくExploitすることができる。例えば、モンスターハンドで相手を罠にかけたり、Cベット頻度が高すぎる相手にドンクベットを控えたりするプレイがある。
よくよく考えてみてほしいのだが、大抵のプレイヤーは7bb以下のスタックでの最適なプレイなど慣れていないのだ。いまだに理解しがたいオールインをしている場面を頻繁に目にする。
今回はいくつかのシナリオを追って一緒に考えてみた。どのくらいオールインすべきかは様々な要素を加味して考える必要があるが、間違いなく言えることは、その頻度は100%ではないということだ。
プリフロップでオールインせずにコールに留めることで、相手にミスをさせる機会が増えるはずだ。
次の状況を想像して、自分自身に問いかけてみてほしい。あなたはBTNで50bbを持っている。「A4o」でオープンレイズして、7bbしか残されていないBBにコールされた。フロップは「T 8 2」となり、BBはチェックした。BTNにいるあなたはどうすべきなのか、自信を持って堂々と答えることができるだろうか?
これまで見てきたように、BBのフラットコールによりBTNは窮地に追い込まれる。BTNは「A」を含むハンドで必ずオープンレイズし、その割合はレンジ全体の38%にもなるのだが、このようにフロップに「A」が落ちなかったら非常に困った事態に陥ってしまうのが現実だということを知っておいてほしい。
BBはどのくらい広くフラットコールすべきなのか?
結論を言うと、かなり広いハンドでフラットコールすることができる。BBは単純にフィット or フォールドの戦略を取るだけで良いからだ。ただし、さすがにすべてのハンドで可能な訳ではない。
AAをコールに入れる戦略も悪くないとは思うが、やはり基本的には多くのハンドは素直にオールインする方が良いだろう。オールインした場合の期待値をもう一度以下に示す。
「22」や「A4o」などのハンドは1.1bbもEVプラスとなっているため、私ならオールインする。フロップでややこしい事態にならないようにしたい。
一方、EVの小さな「J8s」「K6o」はコールすべきハンドだ。またEVが若干マイナスになっている「56s」や「Q8o」なども、フラットコールする方がかなり良い結果となるだろう。
どこに境界線を引けば良いのかは明確ではないが、今回の例では「-0.25bb ~ +0.25bb」となっているハンドはすべてコールでも良いと私は思っている。「85s」などのハンドまでコールに含めたとしても、それほど的外れな判断だとは思わない。
スタックが本当に本当に小さい場合のプレイ
スタックが小さくなればなるほど、オールインに対してコールされやすくなる。つまり、4bbほどの小さなスタックになってしまったら、相手側がフォールドする可能性は間違いなくゼロだ。
しかし、この事実はある意味では必ずしも悪いことだとは言えない。相手が必ずコールしてくれるので、私たちはフロップを見て勝負するかどうかを考えるだけで良くなる。例を挙げてみよう。
【プリフロップ】ブラインド 500/1,000点、アンティー 100点のトーナメントゲーム。BTNが2,200点にレイズし、SBがフォールドした。あなたはBBで、7,500点が残されている。
下の表は、ブラインド 500/1,000点、アンティー 100点のゲームで、BTNがミニマムレイズ 2,000点を行った(レンジ設定はこれまでと同様に37.3%とした)。BBにいるプレイヤーがブラインドを支払って残り3bbしかない状況で、オールインした場合のEVを以下に示す。なんと、ほとんどのハンドがEV+となった。
驚くかもしれないが、これほどスタックが小さくなっていたとしても、EVがゼロに近いハンドをフラットコールに留めて、フロップ次第でフィット or フォールドする戦略は肯定されるのだ。
フロップでのポット額は5,400点であり、あなたには2,000点が残されている。相手がオールインした場合、あなたのハンドに求められるEquityは21.2%だ。「32s」をフラットコールしてフロップが「Q J T」だったら、あなたにはEquityが8.55%しかないため、迷うことなくフォールドすることができる。
BBの小さなオールインに対して、BTNがフォールドすることはないため、プリフロップのFold Equityはゼロになる。このような状態でBBにミスをさせるためには、フロップ以降でオールインすべきハンドをフォールドさせなくてはならない。
「87」でコールしてフロップが「J T 2」となった場合、BBのEquityは25.8%とかなり不利ではあるが、それでも必要勝率は満たしている。
基本的には、完全にデッドハンドで突っ込むような最悪の事態が避けられれば良いのだ。ゲームを諦めてプリフロップで何でもオールインしてしまうよりは、よっぽど良いプレイだと言える。
ショートスタックのBBに対するカウンター戦略
私の予測では、数年以内にBTNのスチール額は2.5bbくらいに戻るのではないかと思う。みんな数年前まではBBを守らな過ぎていたので、BTNからかなり広くスチールができていた。
だが、ポーカーへの理解が進むにつれてBBのディフェンス率は適切に高まってきているので、もはやそれをフォールドさせるにはベッドサイズを大きくするしかない。
まとめ
今回の記事を頭の中で消化するのは大変だったろうし、かなり圧倒された人もいるかもしれない。内容をすぐに思い出せるように、BBでのプレイの要点を以下にまとめた。
・かなりのショートスタックになった場合でも、すべてのハンドでオールインだけを選択すべきではない。ハンドによってはフラットコールに留め、フロップに応じてフォールドを選択するのが良い。
・スタックが6~10bbのとき:ショートであることを利用してEquityを実現させることができるため、かなり広くフラットコールできる。
・適切に一進一退することが良い戦略となる。事実、このゲームではなかなかワンペアすらできない。
・プリフロップで何でもオールインすることなくフラットコールに留める戦略は、ポストフロップでも適切にプレイできることが前提だ。もしポストフロップに自信がなければ、プリフロップの時点でオールインがEV+になるハンドはそのままオールインしてしまおう。
最後に、特に重要なことを伝えたい。完全にプッシュ or フォールドを行わなくてはならないスタックサイズは、5bbを下回るほど非常に小さくなったときだけだ。
スタックが深くなるほど、慎重なディフェンスを要する場面も、Equityを放棄せざるを得ない場面も増えていく。このどちらにも偏りすぎても、EVを失うことになるだろう。例えば、ガットショットで相手に突っ込んでいくリスクは、スタックサイズが大きいほどミスの度合いも大きくなる。
この記事は、学習のスタートとしては優れたものになったと思う。今後も自分自身でシミュレーターを駆使して考えてみてほしい。
Part 3では、SBの立場からブラインド対決の戦略について解説する。
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Part 2は以上です。根気のいるテーマですが、付き合ってくださると嬉しいです。
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