現代のショートスタック戦略 Part 1/4
ポーカーはとても複雑なゲームで、いろんな難しい概念が紹介されています。その1つ1つを理解することと、それを体系的に頭の中でまとめるのは、また別の難しさがあります。
これから翻訳に取り組むのはショートスタック戦略についての記事で、かなり長編です。様々な要素を考慮した上で解説されています。
これまで「Equity」や「SPR」についての記事を投稿しましたが、長編の解説を読むことでその実践方法が頭の中で整理されたように感じました。正直、読むのにはちょっと根気がいりますが、レベルアップで悩んでいる方にはとてもおすすめです。
「現代の」と銘打ってありますが、この記事が書かれたのは2016年の11月です。5年前は「現代の」とは言えないかもしれませんが、十分に役に立つ記事だと思います。
それを踏まえた上で、どうぞ。
Part 1: BBディフェンス
2016年11月29日 written by Miikka Anttonen
ここ10年で、トーナメント戦略は大きな変遷を遂げてきた。
例えば、2010年の標準的なオープンレイズ額は3bbだった。BTNでは2.5bbのこともあったが、それでもほとんど全員が3bbを使っていた。
また、当時はBBを15%以上の頻度でディフェンスするのは馬鹿げていると思われていた。BTNからの2.5bbのオープンに対し、「T9o」でディフェンスできるかどうかが議論の的になっていたものだ。
ここ5年間オンラインをプレイしてこなかった人が、現代のトーナメントに参加したらきっと面白い感想になる。勝ち組の常連プレイヤーに対して「フィッシュ」ラベルを付けるだろう。BBを「85o」でディフェンスするプレイヤーを目の当たりにして、「この訳が分からないプレイはなんだ?」ときっと困惑することだろう。
この連載のテーマは、現代のショートスタック戦略だ。それぞれのパートで異なるサブテーマを扱っている。
まず、Part 1では20bb以下のショートスタックにおけるBBディフェンスについて解説する。
(随所で「Holdem Resources Calculator」や「ICMizer」を利用する。まだ知らないプレイヤーがいたら、ぜひダウンロードしてほしい)
リスチール(Resteal)戦略
現代のトーナメントで熱く議論されているトレンドは「どれだけ広くBBをディフェンスできるのか?」ということだ。
私が初めてオンラインでプレイしたのは2007年のことだった。すでに当時は、BBをかなり広くディフェンスすることが一般的になっていた。ポットオッズが合うからだ。
しかしその数年後、すべてのトレーニングビデオで、あまりに広くBBをディフェンスしすぎるのは間違いだと主張されるようになった。そのEquityが実際にどれだけ実現されるのかを考慮されていなかったからだ(Equity Realization)。
例えば、プリフロップのRaw Equityを根拠にコールしたとしても、投機的なハンドでは失うチップが増えてしまう。BBで「86o」のようなハンドでコールするプレイヤーは、フィッシュだと認定されるようになった。
つまり、結局のところポットオッズが合わないというのだ。
そして、2016年、現代。私たちは再度、BBを広くディフェンスすることが良い戦略だと考えられるようになってきている。それはなぜか?
何を隠そう、ポットオッズが合うからだ!
数年かけてBBの戦略が行ったり来たりしてきたが、それもついに終焉を迎えたと思う。結局、10年もの年月をかけて私たちは何も学んでこなかったのか?その答えは、イエスとも言えるし、ノーとも言える。
例を挙げて考えてみよう。
【シナリオ】ブラインド 800/1,600点、アンティー 160点のフルリングゲーム。BTNが2bbにオープンレイズし、SBがフォールドした。BBには「97o」が配られている。
まずは、ポットオッズの計算から始めよう。コールするには追加で1,600点が必要なので、ポットの総額は8,640点になる。必要勝率を計算すると、
1,600 / (1,600 + 7,040) = 18.9%
となった。これはコールするのに必要なRaw Equity(生のEquity)を示している。しかし、この数字が持つ意味の限界を知っておかなくてはならない。
ポットオッズという数字が正確な意味を持つためには、その場でオールインして勝負が終わり、ショーダウンまで到達しなくてはならない。
当然、ここではコールするだけではアクションは終わらない。リバーに到るまでに何段階ものアクションがあり、ショーダウンまで辿り着けるとは限らない。現実に獲得できるチップはEquityが示す数値通りではないのだ。
これはBBがコールした場合の話だが、それとは別に3ベットする選択肢だってある。結論を言うと、このような状況でRaw Equityはあまり役に立たないのだ。
私たちが真に必要とするテーマは、
「BTNのオープンレイズが利益的にならないようにするには、BBはどういう戦略を取るべきか?」
という問いである。
今回の例では、BTNは3,840点のポットを獲得するために3,200点をリスクに晒している。BTNが持つ2枚のカードがただの白紙だったとしても、ブラインドスチールが45.5%以上成功すれば利益を得ることになる。さらに、ディフェンスされた場合でも、BTNはCベットによって有利な立場で利益を上げることになる。
この事実から、一般的なSBのディフェンス頻度が15%であることを踏まえると、BBは約46.4%の頻度でBTNをディフェンスしなくてはならないと考えられる。
BBディフェンスを考える上で重要なポイントが2つある。
① BBはSingle Raised Pot (SRP)に参加する非常に良いオッズが与えられている。
② 強力な対戦相手からExploitされないためには、かなり広いハンドでディフェンスしなくてはならない。
これは明らかな事実のように思えるかもしれないが、より深い洞察を持って今回のハンドレビューを進めよう。
15-20bbのスタックサイズが、BBでリスチールを仕掛けるのに適していることはよく知られている。オープンレイズに対して3ベットするのにちょうど良いサイズだ。
しかし、一体どのようなハンドがリスチールに適しているのだろうか?
ここで、少し時間を置いて考えてみてほしい。BTNのオープンに対するBBのオールインレンジを決定するためには、まずどのような問いを立てるべきだろうか?
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その問いとは「相手がオープンする頻度は何パーセントだろうか?」である。
HUDのスタッツに、ボタンからのレイズ率(Raise First in as Buttun, RFIB)は必要不可欠だ。これは常連プレイヤーの間でもかなりバラつく指標で、30%しかないこともあれば、ほぼ100%のこともある。もちろん状況にもよるのだが、少ないサンプル数でもかなり良い指標になる。
これから順に示すのは、BTNの2bbレイズに対して、BBが19bb持っているときに取るべきアクションをHoldem Resources Calculatorで解析したものだ。RFIBの数値によって、BBが取るべき戦略は大きく変化するのがわかるはずだ。
1) RFIB (BTN) = 28.8% の場合
これは非常にタイトなレンジで、BTNは22+, Ax+, K9s+, KTo+, Q9s+, QTo+, J9s+, JTo+, T9sでしかスチールしていないことになる。
数値はEVを示しており、単位はbbだ。プラスになっているハンドは、3ベットオールインが利益的になることを意味している。
この計算ソフトの注意点として、プラスを示すハンドで必ず3ベットしろという意味ではない。それでも、理論的にオールインが可能なハンドがどれほど広いのかを知っておくことは非常に重要だと思う。たとえそれが最も利益的なアクションではなかったとしてもだ。
この解析結果から、以下の2つのことが言える。
① BTNのレンジがタイトであれば、「AXs」でリスチールすることでかなりの利益が見込める。
② 驚くことに、相手のスチール率が28.8%にも関わらず、BBは22.9%もリスチールすることができる(ただし、BBが適切にコールしてくることを前提としている)。
2) RFIB (BTN) 54.8%の場合
私が持つ何百人もの常連プレイヤーのデータを見ると、その平均値は約55%となった、標準的な数値だと仮定し、BTNのオープンレンジを22+, AX+, Q2s+, Q6o, J3s+, J7o+, T6s+, T8o+, 96s+, 98o, 86s+, 75s+, 65s, 54sと設定した。
ご覧の通り、信じられない広さのレンジでリスチールオールインが肯定される。この解析結果から以下の3つのことがわかる。
① 「A2o」や「22」のハンドでリスチールしないのは致命的なミスだ。笑ってしまうほど大きなEVを取りこぼしている。
② 「K5s」はEV+で、「J9o」はEV-となっている。この点は後ほど説明するので、覚えておいてほしい。
③ この結果はBTNが適切にコールしてくる (約31.8%) と仮定した場合で、そこには「K8o」「K5s」「JTo」などが含まれる。しかし、実際はこのようなハンドでコールできるプレイヤーはほぼいないので、EVはさらに上昇することになる。
3) RFIB (BTN) 80%の場合
これは非常にアグレッシブなプレイヤーだ。あまりに大きいと感じるかもしれないが、これ以上の数値で利益を上げているプレイヤーは実際に多く存在する。RFIB 80%にすると、BTNのスチールレンジの最弱ハンドはT4o, 95o, 32s, 92sとなった。
アグレッシブなプレイヤーと敵対するときに、忘れないでほしい重要なポイントがある。ブラインドが55%以上の頻度でディフェンスしなければ、BTNはスチール率を100%にするだけで利益を上げることができるということだ。
この解析結果から、多くのことがわかる。
① 「74s」ですらオールインが肯定される。
② 「K2o」のオールインすれば大量のEV+をもたらす。
③ 「Q7s」「K3s」でオールインしないのは正気じゃない。
④ 「97o」は今回の例で示したハンドだが、これはEV-だった。
⑤ 上2行と左2列がすべてEV+だということに気が付いただろうか? ただプラスになっているだけではなく、とても大きな数値を示している。
ポストフロップでのプレイが難しい「K5o」「A2o」「Q4s」では、オールインすることで大きなEVがもたらされる。
それに対し、比較的ポストフロップのプレイがしやすい「98o」「86s」などは、なんとオールインした方がEVは下がってしまう。
これらの事実から、私たちはコールレンジとリスチールレンジを構築することができる。
当然、この解析結果からは「EV+を示すハンドはすべてオールインすべきなのか?それは数学的に本当に正しいのだろうか?」という疑問が生じる。
その答えは、もちろん「No」だ。
・RFIBを実際よりも大きく推定している可能性がある。
・BBがオールインしすぎると、それに対するBTNのコールレンジも変化し、過剰にキャッチされてしまう可能性がある。
・解析精度の低い状態でオールインを増やしても、無駄に分散が大きくなってしまう。
・Independent Chip Model (ICM) の影響で、チップEVがプライズEVを必ずしも反映しない。
もし、BTNのスチール率がTop 50%で、BBのリスチールにコールするハンドがTop 15%だとすると、BBはだいたい3回に1回の割合でコールされることになる。
こんなギャンブル染みたプレイをするのは、トーナメントで気持ちの良いものではないだろう。
様々な状況がありえるトーナメントでは、なかなかEquity計算機が示す結果通りにオールインする訳にはいかない。しかし、Equity計算機は戦略のベースとなる情報を与えてくれる。
これをうまく使いこなすことで、どのくらいオールインできるのかをある程度は想定できるようになる(私個人の感想としては、BBでのプレイは君が想像する以上に可能となる)。
今や君は、アグレッシブなスチールへの対抗策を持っている。「72o」にExploitしようとする相手には、「74s」や「K2o」でもリスチールを返してやれば良いのだ。
さあ、今回のシナリオに戻ってみよう。BTNのスチールに対し、BBには「97o」を持って19bbが残されている。
ここでプッシュ or フォールドの戦略を取るのは、明らかに間違っている。2番目の解析結果からは約40%のハンドでオールインできるのだが、それはあまり褒められた戦略とは言えない。
今回は、すぐに使えるシンプルな戦略を立ててみよう。時間と労力を掛けずに実行でき、極力ポストフロップで悩まずに済むような戦略を目指そう。
2番目に示した標準的なスチール率のBTNに対する解析結果に基づいて、リスチールオールインするハンドを赤枠、コールするハンドを青枠で囲った。
オールインするのは16.1%で、これによりBTNを60%フォールドさせることができる。このBBの戦略に対しては、BTNはよりタイトにスチール率を下げることでしか対抗できなくなる。
ただ、BTNがリスチールに対してコールするハンドは、一般的にタイトすぎる傾向があるので、私としては最適な3ベット率はこれよりもう少し高くなると思う。
この戦略の重要なポイントを以下にまとめた。
・ポストフロップでプレイしやすいハンドはコールする。例えば、「T8s」「Q9s」「JTo」などのハンドは、フロップペアに有力なドローが付くことは多々あり、相手のベットにも耐えられることが多い。解析結果からはオールインした方がEVは高くなるのだが、実際はレンジ全体の40%もオールインする訳にはいかないので、ポストフロップで戦いやすいハンドをコールに回す。
・オールインにより十分なEVが見込まれ、かつ、ポストフロップのプレイが難しくなるハンドは必ずオールインする。例えば、「A2o」でオールインすることはかなりのEV+だが、フロップを外すとプレイが難しくなってしまう。
・ピュアブラフとしてベストなハンドは、間違いなく「KXs」だ。BTNのスチール率が100%なら、「K2-K5s」「Q5-Q2s」「J5-J2s」で躊躇うことなくリスチールを仕掛ける。スチール率が60%なら、「Q5-Q2s」「J5-J2s」の方はフォールドかコールに留める。これらのハンドはポストフロップでのプレイが難しく、かつ、ブラフキャッチされたとしても十分なEquityを保持することができる。
・ときどき「AA」でスロープレイするのが良い。コールレンジとバランスを取り、相手を騙すことができる。
・ほぼすべての「AX」はオールインする。ただし、「A5」「A8s」などの例外もある。
・オールインするのが際どいマージナルハンドはコールに留める。「Q5s」「75s」などは、リスクを冒しても小さな利益しか得られない。
・ディフェンスするのは全体の45.4%だ。SBは恐ろしくタイトでもない限り、これでBTNが自動的にスチールだけで利益を上げることはできなくなる。
なぜ数学的な戦略もExploit戦略も完璧にはなりえないのか?
オールインがEV+になったとしても、実際に必ずオールインすべきだという意味にはならない。特にトーナメントでは、チップの大半は弱いプレイヤーからもたらされるからだ。
どんなトーナメントでも、ひどいプレイヤーは大勢いる。まるでチップを献上しているかのように思えるほどひどい。そのようなフィールドで、強いプレイヤーに対して疑問の残るハンドでオールインするリスクを取る必要が、一体どこにあるというのか?
相手からExploitされてしまう隙があることと、シンプルな戦略を取ることは紙一重だ。
例えば、BTNからのスチール頻度が良い例で、ほとんどのトーナメントでは70%もの頻度でスチールすべきだと私は結論付けている。
ただ、70%ものハンドをプレイすると分散も大きくなってしまうし、ポストフロップのプレイができなければその分チップを失う原因にもなるだろう。
私には160万ハンドにも上るデータベースがあるのだが、実際はほとんどのプレイヤーにとっては55-60%ほどにするのが最適だと思う。直接的なExploitが目的ではなく、もっと大きな視点からこのように考えている。
もし私にDoug Polkほどの実力があれば、スチール率100%、BBディフェンス率95%でトーナメントをプレイしただろう。しかし、悲しいことに、私は「85o」で参加してフロップで3rdペアができても致命的なミスをしてしまうだろうし、「63o」のガットショットでダブルバレルを撃つべき場面にも自信がない。
より簡単な手段があるのだから、世界最強のプレイヤーでもない限り、いくつかのEVを犠牲にするのは賢い選択だと思う。
オールインすべきかどうか迷ったときは、相手より上手く振る舞える自信があればコールすれば良い。私がDoug Polkなら、上の図でオールインすべき多くのハンドをコールに留めることができるだろう。
今回の例の私個人の回答を示す。
この記事の前半で、「97o」のEquityは18.9%だと述べた。私ならこのハンドを必ずコールするのだが、ほとんど同じEquityを持つ「74o」はフォールドするだろう。実現できるEquityが異なるからだ。
Raw Equityは後に3つもストリートが残っている段階では、ほとんど意味を持たないことを覚えておいてほしい。プリフロップでのプレイを完全に示すことは不可能だが、それでもこの記事が役に立つことを祈っている。
Part 1は以上だ。
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Part 1の翻訳は以上です。とても長かったですが、さらにPart 4まで続きます。興味をお持ちの方は、ぜひ少しずつ読み進めてみてください。
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