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Stack-to-Pot Ratio (SPR) の重要性(前編)

 SPRという言葉を聞いたことがありますか?

 「スタックが〇〇bbある」ということは意識していても、具体的にポットに対してどれくらいの量になるのか、そしてそれがプレイにどう関係するのか、実はあまり具体的に知らなかったりします。そこで役立つのがSPRです。

 ちょっと長くなったので、2回に分けて投稿します。これまで続けてきた「Equity」という概念も出てきますから、難しく感じた方はぜひそちらも読んでみてください。

 それでは、どうぞ。


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SPR ~ポーカーにおける決定的に重要な概念~

2018年6月15日 written by Ben Ward

 今回の記事では、Stack-to-Pot Ratio (SPR)について解説する。SPRの概念がポストフロップのプレイにどのように影響するのか、いくつか例を挙げてみていこう。

Stack-to-Pot Ratio (SPR)とは?

 SPRとは文字通りの意味で、ポットサイズをスタックサイズで割ったものだ。

 例えば、ブラインド 2/5点のゲームで500点持っているとしよう。あなたがBTNから15点にレイズして、BBだけがコールした。32点のポットに対して、あなたには485点が残されているので、

 SPR = 485 / 32 = 15.15

と計算する。SPRが上昇するほどゲームの複雑性も上昇する。このようなSPR 15.15という高い数字では、ポストフロップで決断を迫られる機会が多くなるだろう。

 UpSwing Labに、SPRの重要性が議論された一節があったので紹介したい。

 SPRは、ポストフロップでハンドの強さを測るのに有用な指標である。SPR 1.0のとき、「AT」というハンドは「T87」というフロップでは非常に強く、オールインする価値がある。しかし、SPR 10.0であれば「AT」は中程度の強さにしかならならず、オールインは悲劇的な結果となるだろう。
 SPRを意識したプレイを簡単にまとめた原則がある。SPRが小さければ、トップペアやワンペアでさえ非常に強いハンドとなる。一方、SPRが大きくなるほど、ポットを取るためにはツーペア以上の強いハンドが必要となる。

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【Deep Stack】~ SPR 10以上の場合 ~

 ディープスタックでのプレイは強いプロ達の基本的な収入源となっている。トーナメントの序盤におけるSingle Raised Pot (SRP) がこの状況に当てはまり、大抵のプレイヤーは70bb以上のスタックを持っている。

 プレイヤーの多くはこの状況が得意だと感じているようだ。しかし、ストリートが進んだときにSPRがどのようになるのか、しっかり考えることができていないプレイヤーはまだまだ多い。

 君たちの中には、これから示すハンドを知っているプレイヤーもいるかもしれない。2016年のWSOPメインイベントで、James Obst と Michael Ruane が対決したハンドだ。このときに残っているプレイヤーは25人だった。

 このハンドがポーカートーナメントの歴史に刻まれた理由は、Obstのリバーでのフォールドがあまりに衝撃的だったからだ。しかし、今回注目するのはそのリバーフォールドではなく、SPRがどのようにプレイに影響したのかを見ていこう。

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【プリフロップ】ブラインドは100k/200k。Fernando Pons がUTG からK♢Q♢で450kにレイズし、RuaneがBTNから9♣8♣でコール。さらに、SBのObstが7♥7♢でコール、BBのNguyenも9♡6♣でコールした。

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【フロップ: Q♠ J♣ 7♣】プリフロップレイザーのPonsはトップペア+グッドキッカーとなった。一方で、Obst (SB) はセットを引き当て、Ruane (BTN) はガットショット+フラッシュドローとなった。

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 ポットは2,025kとなっていた。それぞれのスタックサイズからSPRを計算すると、以下のような状況だった。

【Pons (UTG)】17,700k → SPR 8.74

【Ruane (BTN)】21,500k → SPR 10.62

【Obst (SB)】25,400k → SPR 12.54

【Nguyen (BB)】5,800k → SPR 2.86

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 Pons (UTG) は625kのCベットを撃つと、Ruane (BTN) は2,025kにレイズし、さらにセットを当てた Obst (SB) が5,300kに3ベットした。Nguyen (BB) と Pons (UTG) はフォールドし、Ruane (BTN)にアクションが帰ってきた。

 Ruane (BTN)はこれを迷わずコールした。Obst (SB)の3ベットレンジには、ツーペア以上のハンドやより強いフラッシュドローが含まれているので、4ベットを返すべきではない。

 ここでは、Ruane (BTN)の最初のレイズに注目したい。たしかに問題ないプレイなのだが、重要なのは、このように3ベットが返ってきた際に、SPRがターンでどうなるのかを事前に考えておくべきだということだ。今回はObst (SB) が強いハンドを持っていたが、Pons (UTG)もそれ以上に強いハンドレンジを構成しているので、レイズが返ってくるのは十分に起こりえたことだ。

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 もしObst (SB) や Pons (UTG) から3ベットされても、Ruane (BTN) はコールすべき状況なので、SPRがほとんど1に近い状態でターンに進むことになる。そして、彼らがターンでオールインしてきたら、Ruaneはフォールドすべき状況に陥り、Equityを放棄させられることになる。

 せっかくEquityの高いハンドを持っているのに、オッズが合わずフォールドさせられる事態は、ポーカープレイヤーが最も避けなくてはならない場面だ。今回の例では、Ruane (BTN) はレイズの代わりにフラットコールに留めることで、ターンでも相手の大きなベットにもコールできるようになるため、後のストリートでもプレイが楽になったことだろう。

【ターン T♣】Obst (SB) がチェックすると、Ruane (BTN) は3,750kベットした。これはポットサイズの28%に相当する。Obst (SB) はそれにコールした。

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 なんと Ruane (BTN) はストレートフラッシュを引き当て、Obst (SB) はドローイング・デッドとなってしまった。ポットは13,265kとなり、Ruane (BTN)には16,000kが残されていたので、SPRは1.19だ。

 このあたりからポット額が巨大になるため、ハンドの振る舞いが難しくなってくる。

 Obst (SB) のチェックは理に適ったものだった。Ruane (BTN)にフラッシュが完成した可能性があるため不利な状況となり、Obst (SB) がここでベットするのは論外だろう。

 一方で、Ruane (BTN) の小さなベットにはメリットとデメリットがある。Obst (SB)が持っている可能性の高いツーペアやセットからバリューを引き出すことができ、さらにリバーでもSPRをできるだけ高く保つことができる。

 しかし、このベットによってObst (SB) はツーペアでもフォールドしてしまうかもしれない。リバーでフルハウスを引き当てさせれば、さらに大きなバリューを引き出せただろうし、またコールしても相手がリバーでブラフしてくれる可能性は低くなるだろう。

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【リバー T♢】Obst (SB) にとって最悪な状況だ!フルハウスを完成させてしまい、SPRは0.6しかない。Ruane (BTN) はダブルアップすることが間違いない状況のように思われた。

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 Obst (SB)は4,700kの小さなベットを行った。これは一見すると小さすぎる奇妙なベットに思えるが、その理由はシンプルで、フラッシュからバリューを引き出したかったのと、最悪の事態を避けるためだった。ただ、SPRが非常に小さかったため、理論的にはオールインする選択肢しかありえない状況だ。

 このObst (SB) の小さなベットに対し、Ruane (BTN) は12,400kのオールインを撃ち込んだ。しかし、Obst (SB) はフルハウスを完成させたにも関わらず、なんとそれにフォールドしてみせたのだ。

 もうすぐメインイベントのファイナルテーブルだったことを考慮すると、このフォールドは理に適っていると主張する者もいる。しかし、これは理論的には明らかにミスプレイだ。

 この例から伝えたいのは、SPRが大きいときは、オールインするハンドに対してより慎重に、厳格に考えなくてはならない。

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 前編は以上です。

 何かを示す指標って、「有用性」と「扱いやすさ」のバランスが大切だと思うのですが、SPRはとても優れた指標だと思いました。計算も簡単で、1~15くらいの狭い範囲でしか表現されず、それがハンドの強さを示してくれるのです。とっても便利ですよね!

 後編はSPRが小さな状況が解説されていますので、ぜひ続けて読んでみてください。

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