「ポットコミット」かどうかを判断するのは難しい
「ポットコミット」という言葉をご存じでしょうか?
オールインするタイミングで、よく「コミットしている」という言葉を聞きます。多くの方は「もう後には引けない」「オッズが合う」などの理由としているようです。
しかし、残念ながらその全員が「コミット」という概念を正確に理解できているようには思えません。厳しい言葉になりますが、そもそも意味を正確に理解できているのかすら怪しく、安易に使われ過ぎていると感じます。
同じ趣旨の投稿がすでに日本語に翻訳されており、とても良い記事だったのでご紹介します。本当にコミットしているのかどうかを判断するのは、実はけっこう難しいと思います。
内容が被ってしまうかもしれませんが、それでも現状を見る限り解説しすぎて困ることはないと思います。僕自身もこれは何度も繰り返し学習する必要があると思っています。
「コミット」について理解するためには、とにかくたくさんの例題をこなしていくのが最善のような気がします。そこで、有名なサイトの記事をまとめてご紹介することにしました。
効率よく理解するために、それぞれの記事で被った内容は省略しています。
それでは、どうぞ。
記事① 「ポットコミットとは何かを理解する」(Poker News)
2014年12月10日 written by Neil Gibson
「コールだ......コミットしちまったからな!」
悩ましい場面でコールを正当化する際によく言われる言葉の一つだ。しかし、実はコミットしていない状況で言い訳として使われている状況も少なくない。
多くのプレイヤーは「コミット」という概念を理解しているつもりになっているが、実際は誤解しているか、理解できていても正しく実践できていないことも多い。
ポットコミットとは、簡単に言うと、どんな状況でもフォールドが間違いとなってしまう状況のことだ。これはポットオッズとハンドの強さによって決定される。正確な表現ではないかもしれないが、これは航空業界などで使われる「帰還不能点」と似ているかもしれない。
例えば、敵対する派閥が衝突している状況を考えよう。相手の領土に1歩でも侵攻すれば、もう平和な結果では終われない。ジュリアス・シーザーがローマに向かって南下して、とうとうルビコン川を渡ってしまった際に、もう戦争は避けられないという意味で「ルビコン川を横断」と象徴的に宣誓された。この言葉が後に「コミット」という意味を持つようになった。
軍隊の業界では、現在でもこの「ルビコン川」の考え方と同様に、敵地へ侵攻するのか衝突を避ける方法を取るのかの分岐点について議論されている。しかし、「ルビコン川」を渡った後でも、状況が変われば衝突を回避できる可能性は出てくるのだ。分岐点を過ぎたという早期の判断を過信してしまうと、避けられたはずの衝突を誤って支持することになりかねない。
この概念はポーカーでは「ポットコミット」と表現され、オールインを正当化するために使われている。しかし、これも実際はその必要がない場面で誤って使われていることが多い。勝負の前半であまりに多くのチップを投入してしまったせいで、それを後半で相手に譲り渡すことができなくなってしまっているだけだ。相手に自分より遥かに強い「軍隊」が揃ってしまったら、話が変わってくるということだ。
軍隊の場合と同様に、ポーカーでも戦略の選択肢が減るのは避けたい。多くのプレイヤーにビッグスタックが好まれるのは、ショートスタックよりもクリエイティブな戦略の幅が広がるからだ。つまり、ビッグスタックでコミットする場合は、自分の意志でそうならなくてはならない。例えば、非常に強いハンドを持っている場合や、ポットオッズを満たして正しくスタックを投資できる場合だ。
まずは極端な例を考えてみよう。
9人テーブルで、ブラインド 400/800点、アンティー 100点のトーナメントゲーム。あなたは序盤でショートスタックになってしまい、なんとスタックが1,000点しか残されていない。さらに最悪なことに、あなたのポジションはBBだ。MPからのオープンレイズに対し、あなたのハンドは「8♠3♡」だった。
これはポットコミットの典型的な例だ。エフェクティブスタックは100点なので、ポットオッズは「2,200 : 100 = 22 : 1」である。仮に相手が「A♠A♡」であった場合のエクイティは 88.3% なので、必ずコールすることで期待値がプラスになる。もちろんルール上はフォールドの選択肢もあるが、ポットコミットしている状況ではコールすべきだ。
「スタックの大半を投入してしまった」からといって「ポットコミットしてしまった」わけではない。これはしっかりと意識してほしい。ポットコミットしているかどうかはポットオッズで決定されるのであって、それまで投入したチップ額で決定される訳ではない。
上の例で言えば、「すでに900点も投入してしまったから」「残り100点しかないから」ではなく、「8♠3♡にはポットオッズを満たす勝率があるから」と判断しなくてはならないということだ。「スタックの〇〇%を投入したからコミットだ」と考えてしまうのはとても多いミスプレイだ。
ときには自分からコミットしに行くこともある。例えば、ショートスタックで「AA」「KK」が手に入れば、ストリートの前半でスタックすべてを投入すべき状況である可能性が高くなる。
ただし、一般的に言えば、ベストハンドでポットオッズが望ましい状況でもない限り、ポットコミットは避けなければならない。フォールドの選択肢がある限り、特にトーナメントではゲームを続行することができるのだから。
記事② 「フォールドエクイティの獲得 & よくあるミスを避けよう」(My Poker Coaching)
「ポットコミット」という言葉を聞いたことがあるだろうか。微妙なコールを決断するとき、自分を納得させるために使われることもある。しかし、その概念をどう利用すべきなのか、あなたは本当に理解できているだろうか?
事実、ほとんどの場合で「ポットコミット」という言葉を発するときは、理論的なプレイができないことへの言い訳として使われている。
本当に強いプレイヤーになりたければ、この概念を正確に理解して実践に活かさなくてはならない。ポーカーにはよくあることだが、「ポットコミットしている気がする」と「実際にポットコミットしている」との間には、とても大きな差がある。
ポーカーは数学のゲームである。コミットしているかどうかを判断する唯一の方法は、数学的にポットオッズを計算することだ。間違った決断をしてしまう原因は、間違ったポイントに注目してしまうからだ。
よくあるポットコミットの説明は「スタックの大半を投資してしまったからコールしなきゃいけない」というものだ。これはある意味では理に適っているのだが、本当の理解には浅すぎる。
正しくは、ポットコミットとはコールするためのオッズを満たしている状況であり、どれだけスタックを投資したかはまったく関係がない。
例えば、あなたのハンドが「22」であり、ボードが「Q Q 7 3 7」のダブルペアになってしまった状況を考えよう。相手はリバーで10%PSBのオールインを撃ってきた。彼にSPRの知識など皆無で、非常にブラフの多いアグレッシブなプレイヤーだ。あなたはこのベットにコールすべきだろうか?
たしかにこれは極端な例ではあるが、それは今回は問題ではない。オッズだけを考えると9回に1回の頻度で勝つだけで利益が出る計算だが、それでもこれは絶対にコールしてはいけないのだ。あなたのハンドは絶対に勝つことはないし、良くて引き分けでしかない。
オッズが合わない状況ならば、決してコミットしていることはない。スタックの大半を投資してしまったからといって、残りのスタックをオッズが合わない勝負に放り捨ててしまっても良いことにはならない。
ポットコミットを学ぶことが重要なのは、コールの判断を行うためだけではない。ブラフでフォールドエクイティを獲得するためにも重要だ。
ポットオッズとは違い、フォールドエクイティを直接的に計算することは難しい。簡単に言えば、相手はベットに対してどれくらいフォールドするのかを考えることだ。
例えば、リバーであなたが非常に小さな5%PSBを撃った場合、相手は勝つ見込みが非常に小さくてもコールするオッズが与えられたことになる。21回に1回勝てば利益が出るので、通常はリバーに辿り着いたレンジの中で、この勝率を満たさないハンドはないだろう。これが、各ストリートのベットサイズを計画的に構築するのが重要となる理由だ。
ブラフを撃つときは、相手がコミットしないかどうか注意しなければならない。例えば、フラッシュドローでブラフを撃ち続ける状況を考えよう。リバーに到るまでに、相手がフォールドを選択できるだけのスタックを残しておかなければならない。
あなたのフラッシュドローはショーダウンで勝てないことがわかっている。リバーで相手をコミットに追い込んでしまい、オッズが合うからといってAハイでコールされる訳にはいかないのだ。それよりも、ターンでオールインして、勝てる可能性を保ったまま相手にフォールドを迫るべきだ。
もちろん、このような事態は強いプレイヤー相手には起こらない。しかし、弱いプレイヤーは相手に正しいコールを行う機会を与えてしまっているのだ。
ポットコミットに関するミスは以下の2通りで表現される。
コミットしているのに、オッズが合うハンドでフォールドしてしまう。
コミットしていないのに、オッズが合わないハンドでコールしてしまう。
特に前者は典型的な弱いタイトプレイヤーの間で頻繁に目にする。コールしすぎるのと同様に、フォールドしすぎるのも長期的には大きな損失をもたらすことになる。
例えば、「K 9 7 2 J」というボードで、相手がターンまで75%PSBのダブルバレルを撃ち、リバーで10%PSBのオールインを撃ってきた状況を考えよう。あなたのハンドは「QJ」であり、ターンまで相手が強い主張をしてきたので勝率は低そうだ。しかし、リバーでは「7.5 : 1」のオッズが与えられており、Jのペアでもコールするだけの十分な強さを持っている。
もちろんあなたのプレイラインは違うかもしれないし、コールすべきかどうかは相手のプレイスタイルにもよる。しかし、通常の状況でシンプルに考えるならば、これがコミットしているということだ。
これに対し、コミットしているにもかかわらずオーバーフォールドしてしまう損失は、即座に目に見える形では自覚できない。しかし、長期的な収支をよく分析すると、オーバーコールしてしまうのと同じくらいチップを撒き散らしていることがわかるはずだ。
ポットコミットは偶然起きてしまうようなものではない。
これらの損失を避けるためには、このシンプルな事実がとても重要だ。レベルの高いトーナメントでは、スタックが少なくなっても小さなベットやレイズが好まれる。自分のスキルをフルに活かすため、可能な限りコミットしないようにしているのだ。
コミットしないために計画性を持ってプレイしなければならない。例えば、18bbしか持っていないCOからの2.5bbオープンレイズに対し、BTNで「7♠6♠」でコールした状況を考えよう。
このハンドでショートスタックを相手にコールするのはミスプレイだと思う(PokerSnowieも同意しているようだ)。例えばフラッシュドローになってしまうと、負けているとわかっていながらコールしなければならない。逆に、このようなコールしなければならない状況でフォールドしすぎるようなタイトプレイヤーこそ、あなたがターゲットにすべき相手なのだ。プリフロップの決断は収支に大きく影響する。
記事③ 「フォールドエクイティの獲得 & よくあるミスを避けよう」(The Poker Bank)
written by Greg Walker
「ポットコミット」という言葉を聞いたことがあるプレイヤーは多いだろうが、その意味を正しく理解できているプレイヤーは少ないと思う。事実、ひどいコールに対する言い訳としてほとんど使われており、それが大きな損失へと繋がっている。
ポットコミットとは、エフェクティブスタックから得られるポットオッズをハンドの勝率が上回っている状況だ。
例えば、ターンで300点のポットを争っており、エフェクティブスタックが50点の状況を考えよう。もしここでトップペアを完成させていれば、もうフォールドの選択肢は残されていない。ポットオッズは「350 : 50 = 7 : 1」であり、コールするための必要勝率は12.5%であり、多くの場合でトップペアはこの勝率を満たしているはずだ。
ポットオッズと必要勝率を比較し、フォールドすべきでない状況にいることがポットコミットしているということだ。負けている可能性の方が高くても、フォールドする方が長期的な損失をもたらすことになる。
スタックをポットに投入すればするほどポットオッズは上がっていくため、何も知らなくても多くのプレイヤーが自然とフォールドしなくなっていく。
ポットコミットについて、明らかに間違った説明をみつけた。この説明がなぜ間違っているのか、あなたは理解できるだろうか?
その答えは、「ポットコミットはポットオッズによってのみ決定され、スタックの投資額とは関係がない」からだ。
例えば、相手がロイヤルストレートフラッシュを見せながら 0.1%PSB を撃ってきたとしよう。あなたはスタックのほぼすべてを投入してしまっている状況だとしても、デッドハンドで絶対にコールしてはいけない。
しかし、現実的にはプレイ中に素早く応用しなくてはならない。「Professional No-Limit Hold 'em: Volume I (2007年)」に使いやすいルールが書かれている。
この主な理由は、スタックの1/3を投入するとSPRが1になり、ポットサイズベットがオールインになるからだ。もしスタックの1/3を投入した後にポットオッズが合わずフォールドしなければならないとしたら、それは弱いハンドで参加しすぎているということを意味する。自分に配られるすべてのハンドに対してプランが必要だ。
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翻訳は以上です。
自分のハンドがコールするための必要勝率を満たしているかどうかが重要なのですね。それまでスタックをどれだけ投資したかは直接的には関係ないですが、実践的にはスタックの1/3を投資したらポットコミットしていることが一つの目安になるようです。
しかし、ここで簡単に紹介されている必要勝率の考え方には注意しなければなりません。
エクイティを求めるためには、相手のレンジが想定されていることが前提になります。これを簡単に考えている方が多いかもしれませんが、しっかり1ハンド1ハンドにこだわって相手と向き合う練習を積まなければ、実際に相手のレンジを十分に想定することは簡単ではありません。
しっかり利益を上げるには相手をエクスプロイトする思考が必要不可欠ですが、それは標準的なレンジをなんとなく覚えているだけでは不可能です。特にアミューズメントのフィールドでは、目の前にいる相手を無視して、標準的なレンジから与えられた必要勝率だけでプレイしても、そのテーブルで勝つことは難しいと思います。
丁寧にハンド考察を行ってきた経験があれば、きっと相手のレンジと必要勝率を求めることがいかに難しいか実感できているはずです。それがポットコミットかどうかを判断するのが難しい理由です。
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