現代のショートスタック戦略 Part 3/4
Part 2 の続きです。
Part 3. ショートスタックのブラインド対決(SB編)
2016年12月6日 written by Miikka Anttonen
かつて、私はブラインド対決がとても苦手だった。
どのように学習に取り組めば良いのかさえ、さっぱりわからなかった。計算ソフトを使ってみると、20bbものスタックがあってもかなり多くのハンドでオールインできる結果となった。
しかし、目の前のたった1bbのために、「A2o」のような中途半端なハンドで20bbをリスクに曝すのは、どうしても馬鹿げているように感じていた。
一方で、SBから小さくレイズした後に、BBからオールインされて降ろされてしまうのは、それよりもっと馬鹿げていると感じていた。フロップを見ることなくスタックを大きく削られてしまう。SBからスチールしようとすることが、BBにはもうバレバレなのだ。
ポジションがSBのとき、特にスタックサイズが約20bbの状態のとき、私はもう何年も負け組の気分だった。悲惨とまではいかなくても、BBを打ち負かしてきたとは決して言えなかった。
SBからのオープンには4つの選択肢がある。オールインするのか(#1)、2~3bbへレイズするのか(#2)、コンプリート(リンプ)(#3)か、フォールドだ。それぞれの選択肢を見ていこう。
12bb以下の場合は、私はプッシュ or フォールド戦略を勧めている(レイズしてフォールドする戦略もたしかにあるのだが、個人的にはあまり好きなプレイではない)。
今回は12~20bbのスタックサイズを想定して解説する。
#1. オールイン
優れたトーナメントプレイヤーは、スタックサイズが5~20bbのときのSBのオールインレンジを暗記しているか、そうでなくともすぐに参照できる状態にしているはずだ。私は何年もプリントして貼り付けていたが、友達に笑われたので覚えてしまった。
しかし、ただオールインするだけでも、いまだに多くの人に知られていない重要な事実がある。それぞれのスポットでオールインできるレンジを暗記することではない。「62%」か「64%」かどうかなんて、実際のウィンレートには何の影響も与えない。
本当に重要なポイントは、オールインにより「どれくらいのEVが見込めるか」を知ることなのだ。この学習に近道は存在しない。「HoldemResources calculator」のような計算ソフトをひらすら何時間も回すしかない。
たしかに、ショートスタックのSBにとって、単純な計算上はオールインすることでEV+になるハンドレンジは非常に広い。しかし、ほとんどの相手に対しては、オールインすることがベストなプレイになることはない。
例えば、相手が何でもコールするプレイヤーでもない限り、いきなり「AA」で20bbをオールインするのは明らかに間違っている。逆に、とんでもなくニットなプレイヤーに対しては、ミニレイズするだけで大きな効果を上げる。同じ結果に対して、わざわざスタック全部をリスクに曝す必要はない。
大抵のプレイヤーはこの両極端の性質の間にいる。相手が適切にコールやリスチールを返すことができる場合に限って、いきなりSBからオールインする選択肢が良いプレイとなりうる。
以下の表は、SBから15bbのスタックでオールインした場合のEVを示したものだ(9人テーブル、アンティーはBBの10%)。
「84s」はEV +0.02bbとなっているが、これはオールインしてスタック全部を注ぎ込むだけの価値が本当にあるのだろうか? 大抵のプレイヤーはにとっては違うだろう。
一方、「22」「A2o」「K6s」はいずれも1bb以上の利益を上げており、これほどの利益を見逃すわけにはいかない。迷わずオールインする価値があるハンドだ。
オールインした場合に得られる期待値がわかったら、もうすでにこの問題の答えの半分をクリアしている。次にすべきことは、こちらのレイズに対して相手がフォールドする可能性がどのくらいあるのかを考えることだ。
もし、SBのレイズとオールインの両方に対して、BBが同じレンジで同じアクションを行うとすれば、毎回SBがオールインする必要はないはずだ。大事なことは、オールインすることが大きなEVを生むハンドが何かを知っておくことで、EVの境界線にあるハンドではない。それらは相手のスタイルに合わせて考えるのだ。
SBのオールインに対して、実際にどれくらい広くBBがコールするかを考えよう。HUDはディープな状態のスタッツを示していることが多いが、それでも相手の傾向を知るために十分に役に立つ。
今回のシミュレーション結果は、あくまでBBが適切にディフェンスできることを前提に計算したもので、そのレンジは約39%となる。
しかし、現実的ではないのだが、もしBBがその倍の78%のハンドでコールしてくれると仮定した場合はどうなるだろうか? 以下にその結果を示す。
BBは非常に広いハンドでコールしてくれるにもかかわらず、さきほどの適切なディフェンスに対する計算結果とそれほど大きく変わらなかった。
逆に、トーナメントの入賞直前(バブル)を想定して計算してみよう。BBは入賞前に飛ぶのを恐れて「66+, AT+, A8s, KJs, KQo」と全体の11%しかコールしない場合の計算結果は、以下のようになった。
「72o」でさえ、1.33bbものEVが得られるのだ。「A2o」「K9o」などのEVが同じ値を示していることから、この数値はハンド自体の強さに由来するのではなく、BBがオーバーフォールドしてくれることに起因することが示唆される。
ただし、「72o」が大きなEVを上げることが判明したが、それでもオールインがベストな選択肢だということを意味するわけではない。このようなプレイヤーに対しては、以下の2つのポイントが適切にアジャストする上で重要になる。
・モンスターハンドと弱いハンドを混ぜてオールインする。
・ある程度の強さを持つハンドはすべてオールインする。
明確にExploitiveな戦略方針だ。実際、この戦略に気づけるほど強いプレイヤーはほとんどいない。(ただし、あくまでショートスタックでのプレイなので、ディープな場合についての戦略はUpSwing Labを参照してほしい)
#2. スモールレイズ
スモールレイズがどのくらい利益的なのか、正確に理解しているプレイヤーは少ない。その答えも数学的な考察によって得ることができる。
スチールだけで利益的になる頻度 = リスク /(ポットサイズ + リスク)
ブラインド 500/1,000点、アンティー 100点の9人テーブル。これだけでポットは2,400点になる。あなたがSBから2.5bbのオープンレイズをするとき、2,000点のリスクを曝していることになるので、以下のように計算できる。
2,000 / (2,000 + 2,400) = 0.454
スチールがその場で即座に利益的になるためには、45.4%の頻度でBBがフォールドすればよい(ポストフロップのプレイを考慮しないという意味だ)。同様に、レイズのサイズによって求められる成功率は以下のように変化する。
2bb → 38.4%
2.25bb → 41.1%
2.5bb → 45.4.%
3bb → 51%
まず伝えておきたいのは、初心者がやってしまうミニマムレイズは間違ったプレイになることが多い。私がBBにいるときにこれをされたら、バカにされているようにすら感じる。私がゲームを全然理解していないスーパーニットなプレイヤーだと言われているようなものだ(実際は、相手がポーカーの基礎がわかっていないプレイヤーに過ぎないことは、もちろんわかっている)。
スチールに対してディフェンスすべき頻度はそのサイズによって変化するのだが、その変化はそこまで大きくはない。2bbの場合は61.6%の頻度だが、2.5bbの場合は54.6%であり、その差は7%しかない。しかし、実際のゲームではベットサイズを2bbから2.5bbに上げるだけで、BBのフォールド率は大きく上昇するだろう。
ミニマムレイズに対して、BBに求められるRaw Equityは20.4%となる(次のPart 4では、SBのレイズに対するBBのディフェンスについてさらに詳しく解説する)。よって、たとえSBのレンジが「QQ+, AK」だとしても、「72o」はコールすることがEV+となる。
実際は「72o」はEquityを実現することができないので、コールはおすすめしないのだが、それでもブラインド対決を考える上でこの事実は重要な情報となる。どんなカードでもオッズが合うようなレイズはすべきではない。
昔はBBのディフェンス頻度は20%ほどだったので、ミニレイズでも十分に利益を上げていた。しかし、時代が進むにつれて、ミニレイズに反撃してBBを守る方法が広まってきているのだ。
#3. リンプ
ここ数年で、SBからリンプするという比較的新しい戦略がトーナメントプレイヤーの間に広まっている。彼らには非難の嵐を受けてしまいそうだが、私はUpSwing Pokerに記事を書くよう雇われているので、読者の利益を最大化するために執筆を続けよう。
はっきり言って、現在のプレイヤーはSBリンプ戦略を使いすぎだ。理由は単純明快で、BBがSBのレイズに対して適切にディフェンスできないからだ。無駄にフロップを見せてあげる必要はない。
ベッドサイズによってBBに求められるディフェンス頻度は、「2bb → 61.6%」「2.25bb → 58.9%」「2.5bb → 54.6%」「3bb → 49%」なのだが、果たして実際にBBはこんなにディフェンスしているだろうか? リンプが利益的となる理由もたしかにわかるのだが、大量のプレイヤーがBBをディフェンスできていない現実は、リンプする理由を大きく上回る理由だと思う。
この特徴はステークスが下がるほど当てはまる。参加費22ドル程度のトーナメントでは、プレイヤーのほどんどはBBディフェンスをまったく理解していない。上位10%ほどを3ベットして、さらに15%をコールするだけだ。SBがリンプするのを見たら、2000年代の知識のままそれを弱いハンドとみなすだろう。
完璧なバランスを保って、SBから必ずリンプする戦略を取るトッププレイヤーもいる。しかし、一般的なBBのプレイヤーはそれをすべて弱いハンドとみなし、過剰にレイズを仕掛けてくる。あまり上手とは言えないBBのプレイヤーにとっては偶然の産物なのだが、これが完璧なバランスであるはずのSBに対してExploitiveにフォールドを迫ることになる。
もちろん、SBはリンプに強いハンドを混合してバランスを取ってはいるのだが、この複雑な戦略がシンプルにレイズするよりも利益を上げるのは、たいていのプレイヤーにとっては不可能に近いだろう。
何度も繰り返すが、フォールドしすぎるBBに対して、わざわざSBからリンプして、BBからレイズを返されてフォールドする......悲惨としか言いようがない。20bb以下の状態でリンプすることがが利益的・効果的だという話は他にも聞いたことがない。
SBからリンプした場合、BBには3つの選択肢がある。
1. チェックしてフロップを見る。
2. レイズしてIPからアグレッションを示す。
3. 広いハンドでオールインしてSBのEquityを放棄させる。
たしかに、スタックがディープな状態であれば、リンプを混合することは優れた戦略になりうると私も思う。アイソレート目的にリンパーに対してレイズしすぎるプレイヤーは多いので、アグレッシブすぎるプレイヤーに対しては私もリンプすることがあるかもしれない。
しかし、今回のように20bb以下の場合では、BBがオールインを返してくる可能性が十分にある。SBからのオールインがEV+となるレンジを思い出してほしい(#1)。ポット額が0.5bbしか違わないので、SBのリンプに対するBBのオールインEVはそれとほぼ同じものになる。かなり広いハンドでオールインが肯定されるのだ。
相手が一気にオールインしてくる可能性が高い状況では、リンプ-オールインすることでFold Equityを狙う戦略は危険だということだ。
SBからのポストフロップ戦略
ポーカーの進化に連れて、ショートスタックのブラインド対決でもポストフロップを戦う機会が増えてきた。
以前の記事で紹介したように、スタックサイズが小さくなるほどハンドのEquityは実現されやすくなる。今はまだこの事実に気づいているプレイヤーは少ないが、これが広まるのも時間の問題だと思う。
SBのレイズがコールされると、かなり広いハンドレンジでポストフロップを戦うことになる。最初に考えるべきことは、ボードテクスチャーだ。
#1. Aハイボード
SBに大きなレンジアドバンテージが与えられる。ショートスタックのブラインド対決では、「A」があればプリフロップのアグレッサーとなる可能性が非常に高い。SBは「A」を持っていなくてもバレルを撃ち続けることができる。
#2. ブロードウェイカードが多いボード
Aハイボードと同じ理由でSBにとって有利だが、その優位性はやや弱まる。変わらずナッツ級のハンドはSBに多いが、フロップのCベットにコールされたら慎重にならなくてはならない。
#3. その他のボードは運やチキンレースの要素が大きい
「T 8 5」のようなボードなら、そのとき持っているハンドに従ってアクションしよう。何かヒットやドローがあればオールインして、何も絡まなければ迷わずフォールドすれば良い。ただ、これはあくまで基本方針であって、相手のスタイルに合わせて戦略を立てるべきだろう。
最後に、一番大切なことを言っておきたい。ブラインド対決のポストフロップは、誰にとってもストレスフルな対決なのだ。広大なレンジ同士のヘッズアップでは、良くてもセカンドヒットになることがほとんどで、多くのプレイヤーがどうプレイして良いかわからず絶望してしまう。
よくある失敗としては、焦ってすべてのポットを奪おうとしてしまうことだと思う。この記事の前半で書いたことを心に留めておいてほしい。ほとんどの場合でBBはフォールドしすぎているので、SBからレイズした時点で利益的なプレイができている。フロップで絡まなければ、無理にブラフせずにチェック-フォールドしても構わないのだ。
もう何年間もコーチングで教えてきたことだが、フィット or フォールドの戦略をしっかり遵守することで、十分に利益を上げることができる。ブラインド対決でストレスフルなままなのは、何も知らない相手だけだ。
ブラインド対決に関するHUD
ボーナス特典として、私のHUDデータを紹介しよう。数あるHUDのスタッツの中でも、これらは最も強力な項目だと思う。
各項目の数値はアクションの頻度をパーセンテージで示したもので、括弧内の数値はサンプルサイズを示している。このプレイヤーのSBからのオープンレイズ頻度は35%で、リンプ頻度は19%だということだ。
HUDで最も重要なことは、プレイヤー間で大きく数値が異なる項目こそ、強力な武器になるということだ。VPIPなどの項目は似たような数値になりがちだが、ブラインド対決に関する項目は強いプレイヤーの間でも大きくバラつきがある。
実際に時間を取って考えてみてほしい。あなたがSBで20bb持っているとしよう。BBのプレイヤーがこのスタッツを示していたら、どのような戦略を取るべきだろうか?
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戦略のポイントは以下の3つだ。
・かなりタイトにプレイしているため、いきなりオールインするのは間違っている。EV+であったとしても、もっと利益的な選択肢を求めるべきだ。
・このプレイヤーはBBディフェンスが足りていない。レイズに対して83%もフォールドしており、SBから2.5bbほどのレイズを100%の頻度で仕掛けるだけで利益的となるだろう。
・SBからのリンプに対して13%しかレイズしていない。このプレイヤーが相手ならリンプを混合する戦略も利益的になりうるが、BBのアイソレートを期待することはできないだろう。やはり素直にレイズした方が利益的になると思う。
最後のPart 4では、同じようなシチュエーションをBBの視点から考えてみようと思う。
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Part 3は以上です。いよいよ次のPart 4がラストです。
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