豚肉とザワークラウトの煮込み/アズ・フィノム

月一位の頻度で、表参道の眼科に通っている。土曜ということもあり、いつも混んでいる。予約しても、2時間待ちはザラ。番号を呼ばれる頃にはいつもぐったりしている。
だから通院の前後に、何か別の楽しみを作ろうと思った。眼科付近の飲食店を検索すると、ハンガリー料理屋があった。
ハンガリー料理には思い出がある。数年前、高輪にあったハンガリー料理屋で忘年会をした。アイラインがかなり強調されたメイクを施しているお店の奥さんが、ハンガリー料理の特徴をマシンガンのごとく次々と説明してくれた。
女はダイエットだとか言ってカプサイシンが豊富なパプリカパウダーをドバドバ料理にかけるけど腹を壊すだけだから馬鹿なことをするな(意訳)と鼻で笑っていたのが印象的だった。
店員の癖は強すぎるが、料理はかなり美味しかった。日本でいう味噌汁のような国民的スープ、グヤーシュ、ロールキャベツ、マンガリッツァ豚のソテーなどを食べた。牛肉とジャガイモなどの野菜がほっこりパプリカで赤く煮込まれたグヤーシュに魅了された私は、またいつかハンガリー料理を食べたいな、と思っていた。

眼科から徒歩3分、閑静な住宅街の細い階段を降りたところにお店はあった。一人で来ているのは私だけだった。
前菜のマリネ、スープ(グヤーシュか桃の冷製スープから選べる)、パンとメインディッシュ(3種類から選べる)、食後の紅茶がついて1,800円。

メインに豚肉とザワークラウトの煮込みを選んだ。初めて食べる料理だった。煮込みの上には、秋田県で育てられたというハンガリー品種の白いパプリカとローズマリー、サワークリームが載っていた。
スプーンで掬って一口。脳にガツンとくるしょっぱみ。優しそうに見えて意外とガツンとした味付けである。しょっぱさだけでいうと、松屋のうまトマと肩を並べられる位にはしょっぱい。
しかし、ザワークラウトの酸味、サワークリームの爽やかさで中和されてパクパク食べられる。歯がなくても食べられるほど柔らかいパンにしみ込ませても美味しい。

店員の妙齢女性は、アイラインこそ強調されていないものの、一品ずつ料理の説明をしてくれて、本当にハンガリー料理を愛しているのだなと思った。
最近、夏バテ気味で食事をあまり楽しめていなかったが、食事は楽しいということをやっと思い出すことができた。

カウンター越しにハンガリー料理が好きなことを店員に告げると「あとメインが2種類残ってるから、また来ないとね」と言われた。
こうやって人の寿命というのは少しずつ延びていくのかもしれない。


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