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和田誠 『お楽しみはこれからだ 映画の名セリフ PART5』 国書刊行会

こうして熱心に愛蔵版を予約購読しているが、元の「キネマ旬報」という雑誌は読んだことがないので、当然、この連載のことも知らなかった。随分長いこと続いたようで、続いたことに感心している。全7巻なのでもうすぐ読了だ。

映画は特別好きなわけではないが、関心がないわけでもない。ただ、近頃はすっかりご無沙汰だ。映画館で観るのは圧倒的に単館上映の作品が多く、渋谷のユーロスペースとかイメージシアターはよく出かけた記憶がある。イメージシアターは会員証を作って通っていた。会員証といえば飯田橋のギンレイホールも一時期頻繁に出かけていた。もうすぐ閉館になる岩波ホールで観た作品も印象深いものが多かった気がする。映画から足が遠のいたのは何故だろう。

好きな映画は、と尋ねられれば『アパートの鍵貸します』、『がんぱれ!ベアーズ』、『ペーパームーン』、伊丹十三の一連の作品(『お葬式』、『タンポポ』など)といった単館系とは対極にある作品が思い浮かぶ。好き、というのとは違うのだけど、妙に印象に残っているのは戦争映画で、中でも『プライベート・ライアン』とか『Uボート』といった日本が出てこないやつだ。「楽しむ」という意味では、自分から遠い世界のものがいいのかもしれない。

本書には『がんばれ!ベアーズ』が登場するが、和田の筆致の熱量と私の「好き」との間に超え難い断絶を感じる。この作品は中学生の時に映画館で観て、今もDVDが手元にある。中学生の頃は何かというと背伸びをしたい年頃だったということもあって、外国の映画や音楽を訳もわからず齧っていた気がする。テレビ番組も毎週必ず観ていたのがテレビ東京で放映していた『モンティパイソン』と『世界の料理ショー』で、どちらも後年になって発売されたDVDボックスを各1セット持っている。

それで『ベアーズ』だが、ラストで運動神経皆無でいじめられっ子だけど野球は好きというティミーという少年が初めて外野フライをキャッチしてベアーズの勝利が決まるというシーンがある。捕球したというよりは差し出したグラブにたまたま打球が収まったのだが、アウトには違いない。中学生の時は、多分、これを見て大笑いしたのだと思う。大人になってDVDで見たら、「よく取ったぁ」となんだか妙に嬉しくなって涙腺が崩壊してしまった。今、こうして書いていても涙が滲んでくる。何にもない人生だと思っていたが、やっぱり60年も生きているといろいろあったのかなと思ったりするのである。

本書で引かれているセリフは、ベアーズの監督であるウォルター・マッソーが試合でボロ負けして落ち込んでいる子供たちを励ます言葉。

「あきらめるな。一度あきらめるとそれが習慣になる」

232頁

正直なところ、そんなセリフは覚えていない。しかし、なんとなくそのシーンは思い浮かぶ。ところで、そんな野球のできない少年たちを集めたチームが何故できたのか。地元選出の市議会議員だか州議会議員が人気取りのために思いつきでこしらえたチームなのだ。ウォルター・マッソーは元マイナーリーグのピッチャーだったプール掃除人。アメリカというところはプール付きの家がたくさんあるようで、そういうものの掃除で生計を立てる人もいるらしい。選手の少年たちも野球ができるとか好きとか関係なしに寄せ集めたので、最初は野球の体裁にならない。それが練習を重ね、凄腕のピッチャーをスカウトし、運動神経抜群の不良少年をスカウトし、試合に勝つようになる。そのピッチャーは監督の離婚した妻と暮らす娘で、テイタム・オニールが演じている。彼女は私とほぼ同世代。中学生だった私は彼女にファンレターを書こうと思って、一生懸命英語を勉強したのだが、とうとう書かずに終わってしまった。

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