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添削

「はじめての短歌」第二回目の課題にはこんな歌を提出した。

糟糠の香りを誇る弁当の菌の営み妻の知恵

毎日職場に妻の作る弁当を持参している。私は特別旨いとは思わないのだが、妻のほうは料理にかなり自信を持っている風だ。我が家はいろいろ食材を手作りしていて、例えば、味噌、梅干し、納豆、ヨーグルト、そしてたまに糠漬けなどがある。味噌は毎年1月、寒の時期に仕込む。夏頃には食べられるようになるが、味が落ち着くのは暮れを過ぎてからだ。梅干しは5月の連休あたりに梅の農家に発注して、6月の終わり頃に送られてくる完熟の梅を漬ける。土用干しが終わればおいしくいただくことができるが、秋まで待ったほうがなお旨い。納豆は高野秀行の納豆本を読んで、自分で作ることができると知った。妻は納豆が苦手である。だから市販の納豆が我が家の食卓に登場することはなく、妻でも食べることのできる自家製納豆をもっぱら食べている。

余談ながら、私は豆が大好きで、なかでも納豆、茹でただけの大豆、電子レンジでチンした枝豆、といったところが特に好きだ。あつあつのご飯と納豆さえあれば、他に何もいらない。毎日三食納豆で良い。ご飯に納豆をかけて食べると「あぁ、おいしいなぁ」と思わず口に出てしまう。豆を加工した食品も好きで、豆腐、厚揚げ、油揚なんかもよい。薬味をつけたり醤油をかけたりせず、それだけでいただくのがよい。

それで歌だが、「香りを誇る」としたのは、自信満々の妻のことを表したいと思ったからだ。「菌の営み」は奇異に響くかもしれないが、そういうわけで、たぶん我が家は菌だらけなのである。納豆菌というのは特に強力で、酒蔵見学では「朝食に納豆を召し上がった方はご遠慮ください」というところもあるほどだ。

確かに、そこまで事情を説明しないと、奇異な歌だ。結局、こんな風に直された。

糟糠の匂いいささか気になれど妻の作りし弁当ひらく(山中律雄先生)

しかし、こうされてしまうと、ちょっと違うなぁと思うのである。そもそも歌は、互いを知ったものどうしがやったりとったりするものだ。見ず知らずの人を相手に詠むとなると、こんなことになるのである。やっぱり歌を詠むには、はじめに相手ありきなのだ。

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