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ナーチャリングは育成なのか

筆者はBtoBマーケティング専門のコンサル会社で顧客企業のコンサルティングをしながら、自社のマーケティングの責任者をしています。

今回は、Twitterやいろんな場面で目にする、「ナーチャリングを育成というのは違う気がする」というお題を私なりに論考してみたいと思います。

顧客を「育成する」っておかしくないですか?

いきなり自分のイイタイコトを明記してしまいました。そっちの方が文章読みやすいですもんね。

さて、そもそもBtoBマーケティングにおけるナーチャリングとは何かを最初に簡単に触れておきます。以下のツイートと画像を見ればイメージがつかみやすいと思います。作ったの私ですからね。

…。うるさいですね、すみません。

多くの場面で、自社と顧客との接点(タッチポイント)があるわけです。一方で、すぐにビジネスになるかと言われると、そんな素敵なことは
多くはありません。社内では事故みたいなレベルと呼んでいます。

そこで必要になるのが、定期的に情報を提供したり、見込み顧客に状況うかがいをするなどの活動です。これをリードナーチャリングと呼びます。

上図では全部カタカナで書いていますが、問題になるのが、得てしてマーケティング自体アメリカで体系化されており、マーケティングで使われる単語がほとんど外来語です。

かつて、夏目漱石がI love youを月が綺麗ですね、と訳したことは有名ですが、ここ数十年で新しく生まれた単語を訳すのは結構大変なのです。私も、ローカライズ(海外のコンテンツを日本語翻訳しつつ、その国の慣習に合うようにわかりやすくする)をたまにやるので、本当に苦しみます。

またマーケティング用語だけでなく、普通の単語も結構訳しづらいのが多かったりします。
例えば、Orchestrate は「結集する、統合する、調整する、画策する、編成する、練り上げる by 英辞郎」という意味ですが、これらの単語をあてがうと「オーケストラの指揮者のように周りの人を動かすニュアンスが出せなくてどうしようかなー」となります。

さて、そんな中でNurtureという単語を調べると最初に出てくる日本語が「育成」なのできっと、顧客を育成するという表現がマーケ界隈で出てきているのだと思います。

が、しかし!まず顧客を「育成」するというのは非常におこがましい気がします。こんな態度でいるとマーケティング=悪いものの押し売る、みたいな悪いイメージを持たれてしまいそうで夜も眠れません(?)
加えて、顧客を育成という日本語表現自体が不自然で違和感があります(と私は感じます)

Nurtureとはどのような意味なのか?

日本語訳をしていてわからない単語があったとき、テキトーにググった表現を入れると結構違和感のある訳になることが多々あります。私は訳すときは英英辞典を結構使います。大学受験のときに出来る友人がいつも英英辞典を使っていた意味が30歳を越えて始めてわかりました(照)

今回は、Cambridge Dictionaryから持ってきたいと思います。上から3つに代表される意味が書いてあるので引用していきます。

nurture verb [T] (HELP DEVELOP)
to take care of, feed, and protect someone or something, especially young children or plants, and help him, her, or it to develop:

https://dictionary.cambridge.org/ja/dictionary/english/nurture

まず1つ目に出てきたのが、こちらです。ざっくり訳すと、「何かを見守ったり、養ったりすること…」と、文字通り「育成」です。
「何か」に代表されるものとして、especially young children or plantsとありますが、育成という単語をはめて、見込み顧客と子どもや植物を同列に語るのは良いのか?と思ってしまいます(?)

nurture verb [T] (HELP DEVELOP)
to help a plan or a person to develop and be successful:

https://dictionary.cambridge.org/ja/dictionary/english/nurture

2つ目は、「計画や人を助けることで、成長(発展)させて成功に導くこと」という趣旨になっており、こっちの方が近いんじゃないか?と感じますよね。

例文にあるのは、As a record company executive, his job is to nurture young talent. (レコード会社の役員として、彼の役割は若いタレントを"ナーチャー"することだ)とあります。

ここで""をつけてナーチャーとしたのは(指でちょいちょいとやりながら)、ここの文脈では「育成」とも入れられたのですが、若いタレントを成長させて成功に導くこと、のほうが趣旨にあってそうだな、の意味合いです。

マーケティングの文脈でいうと、「顧客を植物のように育てること」よりも、「顧客にとって有益な自社の情報を届けることで、顧客の計画を発展させて成功に導く」みたいなニュアンスの方がしっくり来るのではないでしょうか。

nurture verb [T] (FOR A LONG TIME)
to have a particular emotion, plan, or idea for a long time:

https://dictionary.cambridge.org/ja/dictionary/english/nurture

これが3つ目です。気づいていたかわかりませんが、最初2つには(HELP DEVELOP)とあります。一方で、こちらには(FOR A LONG TIME)とあります。なになに、SDGs的なそれですか?みたいな感じですね(?)

訳すと「特定の感情、計画、またはアイデアを長期間持つこと」です。こちらも例文を見ると、Winifred nurtured ambitions for her daughter to be a surgeon. (ウィニフレッドは、娘が外科医になるという野心を"ナーチャー"した。)

私もこの世に生を受けてから(東京都中央区生まれ)、日本語を母国語としていますが、ナーチャーの表現として選ばれたのは「育んだ」でした。綾鷹ではありませんでした(?)

「育成する」と「育む」は同じ育という字を使いますがニュアンスが違いますよね。

ここで関連した語句も見てみます。類語をたどると偏差値あがるよって英語のセンセ言ってましたね…。30歳を越えて(略)
いっぱいあるので適当にピックアップしますが、

  • seat: 腰掛けるですかぁ。顧客に寄り添ってベンチで一緒にコーヒー飲んでる営業の姿が見えますね(?)

  • bear: くま(・(ェ)・)。じゃなくて、耐えるの方ですね。確かになかなか商談決まらないの、大変ですよね。

  • grip: グリップ、握る。これもすぐに諦めずに「顧客を離さない」ニュアンスが伝わります。個人的には一番しっくり

どれも入るニュアンスが「For a long time」です。
長い間〜待たせてごめん。また急に仕事が入った〜♪というKiroroの往年の名曲が浮かんできますね。(年齢がバレる)

結局ナーチャリングってなんて訳せばよい?


「ナーチャリング」じゃダメなんですか???

日本語は表現豊かで、Iだけでも、私、自分、ワイ、おいどん、などいろいろ表せるので勘違いしがちですが、全部の英単語を日本語の一単語で表せるというのは少しおこがましいのでは、と思います。ゴーマンかましてよかですか?

Twitterとかで、「日本人なんだから横文字使うな、日本語使え」ってよく流れてきますが、アジェンダはアジェンダだろ、と思う派です。

顧客企業がいわゆるJTCで、コンサルティング業務の顧客との会議で、一年間一度もリードという単語を使わずに報告し続けたことがあります。このように、仕事上、結構言葉を選ぶのですが(全部見込み顧客に変換)、伝わるならそれでいいじゃん、で良いのではないでしょうか。なお、社内会議だと横文字だらけのルー大柴です。

さて、冗談はさておき、上記ではNurtureの代表的な3つ意味をあげました。

コンサルティング業務の中で、顧客から「よちよち歩きだった私達を育てていただきありがとうございます」と感謝の意を言って頂いたことがあります。ある意味これは「育成」なのかもしれません。これはこれで否定はしないです。(ただしコンサルティングという「受注後」の契約に基づいているので、マーケや営業が行う契約の前工程ではないですが)

加えて、学術的に何か裏付けがあるわけでもないと思うので、どれでもいいのではないかと思います。

ただし、普段使われる「育成」だけ当てはめて思考停止すると少しミスリードしてしまうのではないか、が問題提起です。

マーケティング施策の中で、自分が行っていることは「何を意味しているのか」を考えることは重要です。また、関係者と共有する上で、「言葉遊び」ですますのではなく、適切な「ラベリング」は非常に重要な意味を持ちます。

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