見出し画像

「If もしも」 過去に一度だけ戻れるとしたら・・

「Ifもしも」一度だけ過去に戻れるとしたら・・いつ、何をやり直したいですか?

例えばこう聞かれたら、私だったらと真剣に考えてしまうほど私はなぜか過去のある一点の記憶が鮮明に蘇ってくる。

あれは、私が高校一年の時だった。

私には当時、大好きな先輩がいた。

私は今でもそのことを時々思い出すと、モヤモヤと胸の中が灰色に曇ってしまうことがある。

それは、まるで熱く燃える炎をそのまま燃焼させずに上から無理やり蓋をかぶせて炎を消してしまったけれど、本当はちゃんと燃えたくている炎の破片がずっと消えずにだけど燃えることもできずに、ただ灰色の煙を漂よわせているように・・

私は高校に入学してすぐに仲良くなったクラスの友達に誘われて、水泳部のマネージャーになった。

私はもともとスポーツは全般的に苦手で、とりわけ水泳は特に苦手なスポーツの一つだった。

けれど青春漫画のタッチに憧れて、高校生になったら野球部のマネージャーとかもいいかもな〜と思っていた。

そしていざ高校に入ってみると、衝撃的なことが判明した。

なんと、野球部はマネージャーを募集していない、ということだった。

話によると、昔はちゃんといたそうだけれど、訳あって募集をしなくなったそうだ。

ちょっとがっかりした私は、これと言ってやりたい部活もないし帰宅部でそのうちバイトでも始めようかな・・なんて思ってもいた。

が、人生というのは人一人とのご縁で大きく進む道が変わるというのは実際よくあるのかもしれない。

私の場合は、とっても気さくでフレンドリーな同じクラスの女子とよく話すようになって間もなく、私の人生にとっての運命的な出会いが訪れるのだった。

私が友達に誘われるまま、軽い気持ちで水泳部の見学に行ってそのまま何となくマネージャーになって少ししてから私は先輩の水泳部員から声をかけられた。

その先輩は2つ上の男子部員で、私はその時初めて会う相手にも関わらず、逆にその相手はまるで私のことを知っているかのような口調で気さくに話しかけてきた。

「あのさ、君、もしかしてお姉ちゃんとかいる?」と。

それもそのはず、彼は同じ学校に通う2つ上の私の姉の友達だったのだ。

子供の頃から私と姉はよく似ていると言われていたので別に驚きはしないけれど、高校生になってまで似てるとすぐに言われるのはこの時が初めてだった。

そこから私は部活中も先輩とよく話をするようになり、部活が始まる前にはマネージャーの仕事としてストレッチをしてあげるようにもなった。

午後の授業が終わったら先輩から携帯に電話がかかってきて部室に呼び出されることもあって、私は正直嬉しかった。

先輩は時々私のことをからかってか面白がって、ペットの犬の頭を撫でるように私の頭をわしゃわしゃと撫でた。

私はそういう戯れが嬉しくもちょっと恥ずかしくてすぐに顔が赤くなってしまうものだから、きっと先輩は余計にかまってきたのかもしれない。

気づいたら、私は先輩のことが好きになっていた。

放課後に会えるのが嬉しくて、でも会うと緊張してしまって言動がぎこちなくなったりもして。

先輩の姿が目に映るだけで胸が強く脈を打つようにドクンと波打って、ギュッと苦しくなったりもした。

人のことを好きになるのはそれまでだってたくさんあったけれど、そこまで胸がドキドキして嬉しくて楽しくて苦しくて切なくなるのは初めてだった。

どうにかしたかったけれど、どうしていいか分からなかった。

その自分が今まで経験したことがない感情は、時々私の中で屈折してしまうこともあった。

先輩のことが大好きなのに、言葉や態度で反対のことをしてしまうこともあった。

私がまだそこまで先輩を意識していなかった時は、時々部活が終わったら一緒に帰ることもあった。

だけど、私が先輩のことを意識しすぎて、そして私が自分の気持ちに素直になれなくて、先輩が一緒に帰ろうと誘ってくれても心にもないことを言って遠ざけてしまったこともあった。

私はそれまで誰とも付き合ったこともなければ、自分から好きな相手に想いを伝えたことは一度もなかった。

私は自分に自信がなくて、自分の素直な気持ちをありのまま表に出したり伝えたりすることがとても苦手だった。

私が通っていた高校は私服校で、とてもおしゃれでかわいい女子、かっこいい男子もたくさんいた。

私が好きだった先輩もおしゃれで、ちょっと個性的なところと、周りに友達がたくさんいること、気さくに仲良くなれること、など私にはとても眩しい存在だった。

生徒会長もやっていて、泳ぎも得意で、なんだかキラキラしていた。

先輩のことはとても好きだけれど、私が自分の気持ちを伝えるなんてことは到底考えられなかった。

先輩が時々私の頭をわしゃわしゃとするたびに、私は先輩にとってはきっと犬や妹のようなそんな存在に過ぎないんじゃないか?と思うようにもなった。

自分に自信がなくて前向きになれなくて、思うこと考えること言うことやることが卑屈になってしまっていた。

そうやって、文化祭が終わって暑い夏が終わって、そして先輩は部活を引退した。

私の中の先輩を思う気持ちはまだ静かに燃え続けていたけれど、私はそれを決して表には出せなかった。

時々校内で会えば挨拶をしたり、時々、私が校舎の外を歩いていたら上の階から先輩が私に声をかけてくれることもあった。

時々、先輩から携帯電話のワンコールが入っていた時もあった。

そうして月日が淡々と過ぎて、たまたま友達と入ったお店で先輩を見かけた。

先輩の隣には他校の制服を着た小柄なかわいい女の子が座っていた。

多分、彼女なんだろうとその時分かった。

心は正直で、その時私の胸がキュっと締め付けられるように苦しくなった。

私がもうちょっと自分に自信があったら・・

私がもうちょっと自分の気持ちに素直だったら・・

私がもうちょっと勇気があったなら・・

そう思っても、もう遅いのだけれど、そう思わずにはいられなかった。

その後少しして、私は同じクラスの男子から好きだと告白された。

割と仲の良い男友達の一人だったので少しびっくりしたけれど、私の心には未だに先輩への気持ちが大きく占めていて他の人と付き合う気持ちにはなれなかった。

それでも前を向かなきゃと一歩一歩進むために、クラスの女友達に誘われて時々駅前の路上でライブをしているという他校の先輩と知り合った。

ギターを弾きながらソロで歌を歌っていたその先輩は、話すと気さくで時々笑うと顔がくっしゃっとなって少年みたいな無邪気さがあった。

その時はちょうど冬だったから、一緒にスノボをしようという話になってスキー場に連れて行ってもらった。

私はスノボはやったことがなかったのでとりあえずレンタル、一緒に行った女友達とゲレンデの隅っこで基本的なことを教えてもらいながらひたすら転びまくってた。

シンガーの先輩はスノボはプロ並みでゲレンデを何往復もしてた。

多分かっこよかったのだと思うのだけど、正直私はその時はあまり彼に興味がなかったので実際のところよく覚えてない。

その後、私はシンガーの先輩と二人で会うようになって、どこかのライブハウスに行ったりもした。

そこには、水泳部の私が好きだった先輩とその彼女さんもいて、何を話すでもなかったけれど私はあまり楽しくなかった。

そして私はやっぱりまだ水泳部の先輩が好きなんだと気づいて確認してしまって、他の誰かと付き合うことはやっぱり考えられなくなっていた。

そんなタイミングでシンガーの先輩から好きだと告白されたけれど、私の気持ちが動くことはなかった。

気をもたせてしまうようなことをして申し訳ない気持ちと、こんな私を好きになってくれてありがとうという気持ちが複雑に混ざり合っていた。

シンガーの先輩は、私に当てた歌を作って披露するために駅前に誘ってくれたけれど、私はそれを無情にも断ってしまった。

後日、友達がその歌の歌詞が書かれた紙を私に渡してくれた。

詳しく覚えていないけれど、とてもロマンチックな歌詞が書かれていたような記憶がある。

そこまでしてくれる人を前に、私はひどいやつだと心底思った。

そして、以前に私に好きだと告白した同じクラスの男子が、しばらく経ってから友達を通して私に再びアプローチしてきた。

やっぱり諦められないから、一緒に帰れないか?と。

私はその時、学校の近くでアルバイトをしていたので、帰りはそのままバイトに行ってしまうから一緒には帰れないとここでも断るしかなかった。

最初に告白をされてから3か月くらい経っていたのに、その間もずっと私を想いそしてさらにその想いを伝えられることに私は驚いた。

すごいなって思った。

そしてやっぱりその想いには応えられずに申し訳ないなって思った。

私はこの時、一番身近にいた友達に言っていた。

「私は先輩(水泳部の)以上に他の人を好きになることはないと思う。これからも。」

と。

その言葉通り、私は水泳部の先輩が卒業してからもずっと燃えきらない気持ちがふつふつしたまま、他の人を好きになるでもなし、誰かと付き合うでもなし、そのまま高校生活を終えた。

「If もしも」一度だけ過去に戻れるとしたら、私はあの時に戻りたい。

16歳のあの時、相手のことを胸が苦しくなるほど好きになったあの時。

そして、先輩に伝えたい。

「好きです」と。

ただ、それだけを、その一言だけを、精一杯の思いを込めて。

頭の中のイメージの世界で、一生懸命やってみる。

自分に自信がないとか、断られるのが怖いとか、周りの目が気になるとか。

そういうのはそっと片隅に置いて。

私の中に生まれた相手を想う大好きという気持ちと、自分の行動を一致させる。

嘘はつかない。隠さない。

ありのまま、表に出たがっている熱い思いを、きちんと昇華させるんだ。

ずっと隠して蓋をしたまま前にも進めず後ろにも下がれず、ずっとあの時のまま、大好きという感情が16歳の時に足を止めたまま動けずにいることが、未練が後悔が、どれほど苦しく辛いかを味わってきたから。

今の私には旦那がいて幸せだし、先輩も結婚したのを風の便りで聞いてる。

決して今の私から今の先輩に何かを伝えたいわけじゃない。

伝えたいのは、16歳の私から18歳の先輩に、私の気持ちを伝えたい。

20年経ってやっと、そう思えるようになったのかもしれない。

人を好きになること、好きになる気持ちの愛おしさを、私に味あわせてくれてありがとう。

この経験は、これからも私の宝物。