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ウォーキング・デッド鹿

『スティル・ライフ』(池澤夏樹)
史上初めてワープロで書かれた芥川賞受賞作品らしい。

透き通るような文体で綴られる、静かで知的な、要するに色っぽい会話。追いかけるだけで気持ちが良い。ある種の男の色気は俗世からの逃避に宿る。皿洗いをする男なんてエロくないじゃない?

「世界と自分のバランスをちゃんと取るべき」という根幹のテーマがまっすぐ現代へのアンチテーゼとして機能している。

実際に、趣味を捨てたワーカホリックの人間性が徐々に痩せていく姿を見てきた実感として、何かしら自分と世界の間をつなぐものを持っていないと辛いよなぁと思う。読書でも裁縫でもバードウォッチングでもいいのだけど、ビジネス以外の世界から栄養を吸い取る管も持っておくべきだ。

ちなみに芥川賞の選評も面白かった。吉行淳之介が最高に格好良い。

「金の話となると生ぐさくなくては困る場合が多いが、ここでは雨崎への小旅行と同じ色調で、両方とも星の話でも聞かされているようだ。そして、この作品ではそのことが肝心なところである。」

https://prizesworld.com/akutagawa/senpyo/senpyo98.htm

吉行淳之介は村上龍の『限りなく透明に近いブルー』を評した「彼のマスコミとのかかわりあいを考えると心配になるが、因果なことに才能がある」も格好よかったな。

ここからは日記。

・Pixel8が壊れた。1か月で二度目である。堪忍袋ぶっちぎりのエレクトリカルパレードだった。これまで計4台のPixelを使ってきたけど、初代を除いてすべて起動不具合に見舞われた。突然機嫌が悪くなり、口もきいてくれなくなる。恐ろしい。現代において20代の若者がスマホを失うとは、半身をもがれるようなものだ。

Pixel5を使っていたときは、ちょっと気になっている女の子とやっと取り付けたご飯の予定日にフリーズしてしまった。すると不思議なもので、「彼女は運命の人に違いない」と天啓があり、脳みそが汗をかき出したことを覚えている。後年感じたこれに一番近い感覚は、競馬で購入の列に並んでいるとき、締め切りが近くなってくると、「この馬券は万馬券に違いない、絶対に買わねば」と確信した瞬間である(両方とも気のせいだった)。

ということでPixel8もお陀仏と相成った。もともと最近の過剰な広告がちょっと苦手だったので、良い頃合いだったのかもしれない。正直消しゴムマジックなんて、色んな新機能のオマケとして最後にちょろっと紹介するレベルでは?と思う。代わりがいないので4番を打たされている感じ。

代わりのスマホはiphoneにした。iphoneを使うのは10年ぶりだけど、ほとんど操作感が変わっていなくてびっくりした。結局は処理能力とカメラを進化させるだけで今日まで売れてきたんだなぁ。

・お昼に適当な定食屋に入ったら、爆音で報道バラエティ(と言えばいいのか?)を流していた。パネラーが世の中の問題について持論をぶつけ合うタイプの奴で、全員が自説を発表して「さぁいよいよディスカッションだぞ」というタイミングで次のトークテーマに変わっていて笑った。感覚的にはTwitterのタイムラインを読み上げている感じ。色んな意見がある、ということだけは分かった。

・奈良県で鹿を観た。こんなに可愛いのに、大群に襲われているツーリストのほうが気になった。完全にウォーキングデッドのそれだったな。なんというか、この安全への配慮のなさ、日本っぽくなくてとても良い。これからも鹿一同には、日本はセーフティな国だと思い込んでいる外国人の鼻っ柱をバキバキに折って欲しい。




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