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憧れの緑のコートと中学生の私

11月になり夏の名残の温かさは、すっかり息をひそめ毎日が冷え込んできた。頑張ってベッドから出て出勤の準備をする。衣替えで出したニットは日に日に無厚くなり、重ね着する枚数も増えてきた。
今日のコートはチェスターコートにしようかな。いや、もう寒いから緑のダッフルコートにしよう。

私にとって緑のダッフルコートは、憧れが詰まったコート。購入したのは21歳の秋。お金もそんなにないから高いコートではないけど、大切にして6回の冬を一緒に乗り切っている。

私が緑のコートに憧れを持ったのは、中学1年生の時。13歳だった。
学校規定の「暗い色」の指定があるコートで、みんなは黒や紺のコートを着ていた。その中でただ一人、深緑のコートを着ている子がいた。

他の子と違う色にちょっと恥ずかしくなりながら、でもお気に入りなのか誇らしげに着ているコートにもその子にも、私は強い憧れを持った。

その時から緑のコートが私の憧れだった。しかし、ずっと緑のコートに出会う機会がなかった。実家のある山梨では、ちょっとこだわったものが欲しいと思うと、1時間半かけて甲府まで行かないといけない。だからお買い物に行く機会も少ない。お店を見ても緑のコートなんて選ぶ人が少なそうな商品もおいている店は少ない。高校は全寮制の山の中の学校で、さらに買い物の機会は少なくなった。大学になって東京へ出て、8年間越しの憧れのコートをようやく見つけられた。

それまでも緑のコートは何度か見かけていた。様々なアパレルショップの多彩なダッフルコートも毎年チェックしていた。でも私の憧れに叶う色と形のコートには、なかなか出会えなかった。

この憧れの緑のコートに出会ったのは原宿だった。最近そのお店を見に行ったら、もうそのお店は無くなっていて、コスメショップになっていた。ワンピースがかわいいお店で、その年の夏ごろから頻繁に足を運んでいた。
秋物から冬物に変わり始めた時期に、8年間分の期待と諦めを持ちながらふらふらと店内を見ていた。
ニットやワンピースの陰に隠れるように、そのコートは並んでいた。

緑のコートは主流の色ではないから、目立ちにくい場所ではあったが、しっかり私に主張していた。まるでこのコートも私に会いたかったかのように「ここにいるよ」と、存在をアピールしていた。
その時はコートを買う気もなかったが、見た瞬間に運命の出会いと確認した。

深緑というにふさわしい暗めの緑。スカートがしっかり広がって見える、ショート丈。フードが大きめで、ボタンがプラスチックのダッフルコート。
試着した瞬間、これは間違いなく私のコートだ。持っていないのがおかしいほど私に似合っている。

買うつもりなくお店を見ていたから、手持ちの金額はギリギリだったけど、すぐにレジに持って行った。今買わなければ、もう二度と出会えないだろう。8年越しの憧れは絶対手放したくない。
これを着てどこに行こう?どんな服が一番このコートをかわいく見せてくれるかな?期待に胸を膨らまして家路を急いだ。

あの日から6年。さすがにダッフルボタンの紐も袖口のボタンも取れそうだ。そろそろメンテナンスしないといけない。
おそらく、コートを6年も期続けている人は少ないんじゃないだろうか。
私は流行よりお気に入りを大事にしたい。そしてお気に入りはずっときていたい。
その場の衝動でなく選び抜いた一着を買い、何度も直して大切にする。
丁寧な暮らしというほどのこだわりじゃないけど、自分の生活を楽しくする私のこだわりかもしれない。

また冬になって、この緑のダッフルコートが活躍する季節になった。
今年の冬も、私の心を躍らせてね。寒い日もこのコートが着れるなら大歓迎だ。

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