夏休み、山を見るたび思い出す。

私の地元神奈川県某市では、富士山はもちろんの事、丹沢の山が見えるポイントが多数ある。普段の生活でも目にする機会は多い。
この時期、特に丹沢の山を見ると思い出すのが、演劇部の合宿だ。
夏休みに入って早々、神奈川県の愛川町にある野外センターという自然体験施設に赴いて秋の大会に向けて創作活動に勤しむのが恒例になっていた。

朝早くに起きて、大多数の部員は学校の最寄駅で待ち合わせて、朝のラッシュの最中電車を乗り継いで小田急の本厚木駅に向かう。待ち合わせの駅に向かうよりも本厚木に直行した方が都合がいいので本厚木合流の部員もいた。私も本厚木合流組だったが、早くついて待ち構えていたのは1年の時だけで、2年の時は最寄り組より早く着くはずが結局同じ電車に乗っていた。3年の時は顧問が車で現地合流すると言い出して、途中合流の上で引率を代行する羽目になった。
「引率を代行」ってよく考えたらおかしいな。
本厚木からは路線バスに揺られる。ザ・地方都市の街並みから、住宅街を過ぎ、いわゆる郊外の幹線道路を快調に飛ばす。車窓には遠く小さく見えていたはずの山々が迫って来たかと思うと、急カーブと急な坂道で高度をググッと下げ、進行右側に立派な川が迫ってきてしばらく並走する。川が離れていったと思うと、山間の小さな町に差し掛かる。町を完全に抜け、また山間に差し掛かったところの、何もないバス停で降りる。途中で何もなければ本厚木から1時間ほど。部員同士でおしゃべりに花を咲かせるのもいいが、ただ車窓を眺めているのも楽しい。
バスを降りてからが大変で、施設にたどり着くまで急な上り坂がしばらく続く。キャリーケースを持ってくれば楽できるが、そんなことを知らなかった1年の時はボストンバックを持っていって泣きを見た。

施設に着いて、職員の方から説明を受け、昼食を取ったら、いよいよ大会に向けた創作活動の始まり。事前に決めておいた班ごとに分かれて、基本的には1日中作り込んでいく。時々全体で合わせたり、全員参加のシーンを作る時間もある。
以前の記事で「特許のような作劇」などと抜かしたが、ざっくり母校演劇部の作劇方法を説明しようと思う。
最初の台本は大まかなあらすじだけ。大まかなところから、どのシーンを作るか班ごとに決めて、セリフや動きをつけていく。それとは別に全体で作るシーンも設けて作劇を進めていく。
もう少し分かりやすく、新築の一軒家を建てる事に例えよう。
建設会社は建物の骨組みだけ建てて注文主に引き渡す(=最初の台本)。
注文主は受け取った骨組みから、外壁・内装工事を自分の手で施していく(=合宿での作劇)、と言えば分かりやすいだろうか。こういう感じのことを合宿で行うのだけれど、2泊3日ないし3泊4日で全部やるのは難しいので、合宿でできるだけのことを進めて、完成したものを合宿後の部活で継続して作り込んでいく。
合宿から始まって、完成形になるまでは2ヶ月ほどかかった覚えがある。完成形になっても本番ギリギリまで詰めていくので、完成形ってなんだろうと思ったこともある。

合宿の目的は大会に向けた作劇だけではなく、縦横の交流も含まれる。
作劇班は学年関係なくごちゃ混ぜになるし、レクと称して学年ごとにミニコントをやり、お菓子を持ち寄ってキャンドルファイヤー。3年の時は線香花火、毎年夜遅くまで人狼やら何やらで盛り上がった。3年の時に至ってはいきなり後輩たちが「ありがとうございました!」と言って手紙やらプレゼントやらをもらって感激のあまり大号泣して逆に驚かれたのを覚えている。

合宿が終わった後、帰りのバスは半分以上が爆睡。私は基本的に乗り物で寝られないから行きに見た車窓を眺めながら帰る。
ものすごく疲れたけれど、合宿は楽しかったし、なんなら今でもやりたいし当時に戻りたいと思うこともある。
今でも丹沢の山を見ると思い出す、高校時代の話でした。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?