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アサガオと産道

①毎日がつらい人々と出会うこと

出口が見えずにさまよい続け、ぐるぐると同じところをまわっているような、道のりが見えず深い泥の中をもがいているような感覚。つらい出来事が体を突き刺すように降り注ぎ、生きていくことと死んでしまうことを天秤にかけるような綱渡りの日々。

そのような日々を送っている方達に、私は励ましのメッセージを伝えたり、同調するような態度をしめすことはできません。

それは私がその方達と同じ経験を経ていないので、真の意味での共感は得られていないからです。

ことばを発しても空虚にむなしく響いて、決してその人の心に到達することはできないでしょう。

ともにいることや聴くことしかできない。場合によってはそれもかなわないかもしれません。

人が人を救うことは容易いことではない。まずそんなことは到底できないというところからスタートするしかないと毎回思います。

そのような物事に応答して行くときに、私は、先人の残したことばたちに力をもらうことがあります。

②アサガオは夜明けに咲く

五木寛之さんのエッセイに「アサガオは夜明けに咲きます」という一文があるそうです。これは、奥田知志さんの「いつか笑える日が来る」という本に書かれています。

「アサガオの蕾は朝の光によって開くのではないらしいです。逆に、それに先立つ夜の時間の冷たさと、闇の深さが不可欠である・・・。ぼくにはただ文学的なイメージとして、夜の冷たさと闇の深さがアサガオの花を開かせるために不可欠なのだという、その言葉がとても鮮烈にのこってしまったのでした。(生きるヒントー自分を愛するための12章)
闇が私たちを包む日、「すべてが終わった」とつぶやくとき、私たちは思い出したいのです。「アサガオは闇の中で咲く」ことを。
今、闇に包まれるような日々を過ごしておられるあなたに申し上げたいのです。朝が来たから咲くんじゃない。アサガオは闇の中で咲くのです。

いつか綺麗なアサガオを咲かせるためには、寒くて暗い闇の中をつらいながらも通り抜けることが不可欠だと言うのです。
「希望のはじまりは闇の中だった」という一文もありますが、希望と絶望は同時に存在しているのかもしれません。私自身もこの先、堪え難い生きづらさを経験することがあるとしたら、この素敵なアサガオの比喩を思い出すことでしょう。

③無呼吸の状態に耐える力

次は、私が好きな鷲田清一さんの「岐路の前にいる君たちへ」の本に書かれている文章です。

まず、「オリエンテーション」と「ディスオリエンテーション」についてこのように説明されています。

「オリエンテーション」:方向を定めること、つまり今は自分がどこにいるかの見当をつけることを意味している。生きるということは、自分が生きようとしているこの世界のどういう場所にいま自分がいるのかを知ることから始まる。世界のなかに自分を位置づけること。つまり世界の中に自分をマッピングすることから始まる。
「ディスオリエンテーション」:方向を見失うこと、何をどうしたらいいのかわからない状態、まごついたり、途方に暮れる。自分の位置がわからないということ、そして居場所がないこと。

「ディスオリエンテーション」は危機的な状況でありますが、一方、チャンスでもある。破局や崩壊への道だが、再創造の道でもあり、自分の生き方を根本から変えるチャンスであるということです。

ここで赤ちゃんがこの世に生をうけて誕生する時の話が出てきます。

赤ちゃんは誕生の際、お母さんの体内でお母さんから臍の緒を通じて栄養を送られていた状態から、自分で呼吸し、栄養をとる状態へと、いのちの仕組みを大変換します。その変換のさなか、つまり産道をくぐり抜けるあいだ、いわば窒息状態にあります。いのちの仕組みを大変換するためには、こうした無呼吸の状態に耐える力がいるのです。

この無呼吸の状態は、先ほどのアサガオで言う「寒い闇」の中にいることと同じような意味合いをもっているような、どことなく共通したものを感じます。
何かが生まれる時、あるいは今までのものが違うものへ生まれ変わるためには、タフに耐えて生き抜くような力強さが必要であり、それは再創造へつながる動きであるということに、あたたかい希望の光をじんわりと感じることができます。

私自身がつらい時、闇の中に放り投げだされた時に、この無呼吸に耐える赤ちゃんの生命力について想像し続けていきたいです。
苦しい時は目の前のことに精一杯になり、自分の立っている位置がとても不安定な状態になります。まずは自分が人生の中で今どのような位置に存在しているのか、どのように推移していくのかをイメージをもつことで、今を乗り越えられる力を養う事ができるのではないでしょうか。

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